村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

債券

ド滑りISM製造業景況指数と不思議な米債の反応

米ISM製造業景況指数、予想外に低下-受注と生産が縮小圏に

ショートしている側が油断しすぎな感じがする。

米債金利の行方を占う上で、一個一個の統計結果の重要性が増しているわけであるが、その中でもISM製造業景況指数は月初発表されるものとして注目されているものの一個である。
3月一発目の重要統計として皆が注目していたわけであるが、2月にCPIや雇用が上振れたことから、こちらの統計も上振れるのではないかという警戒感が強かったが、市場予想49.5に対して結果47.8とド滑り中のド滑りという結果となった。
しかも細かく内容を見てもほとんど擁護できないレベルの滑り方で、生産も新規受注も50割れ、雇用も在庫も減っているとクソ弱統計結果となった。

これだけド滑りしたのだが、米国債金利の反応がどうも不思議な感じであった。
発表されて明らかにド滑りしているのに、金利の低下の仕方がいまいちで発表直後は1~2bps程度しか低下しなかった。
しかし、時間がたつにつれ徐々に金利低下幅が広がっていき、最終的にISM製造業景況指数が発表される前のところから金利低下幅はほぼ全年限において10bps前後におよぶこととなった。

【米国10年債金利のチャート】
タイトルなし


これは個人的には非常に不思議かつ違和感があった。
これまで統計発表は結果に応じてすぐに金利は上下していた。
特に2月は雇用統計・CPIの予想外の上振れが発表された直後は一気に5~10bpsにおよぶ金利上昇幅が即座に織り込まれていた。
しかし、今回のド滑りISM製造業景況指数では、明らかな下方ド滑りだったのに統計発表直後の反応は一旦上振れ警戒分の解消程度にとどまった。
その後実際にほぼ統計結果を全て反映するまでに1時間近くかかったわけである。

この反応結果を見る限り、米債プレーヤーは金利が上にいくことばかり気にしていて、低下する可能性が頭の中に全然入っていないのではないかと思われる。
特に米国機関投資家は米国の景気拡大は盤石なものであり、インフレも容易には解消されないという勘違いをしているように思われる。

【参考ニュース】
フィデリティ運用者、米国債をほぼ全て売却-米景気拡大続くと楽観

これはおそらくだが、都市部の家賃だけ上昇しているがために、都市部住まいのエリート達の経済感覚と一般経済感覚が全くずれているのではないかということを意味していると思われる。
だから、ISM製造業景況指数がド滑りしたにも関わらず、発表されてから有意な金利低下を見せるまでに30分近くもかかったということになる。

この統計結果と市場反応を見たことから、米国債金利は年末以降反発上昇を見せていたのだが、ここにきてようやく二番天井をつけたことに自信を持てる内容となった。

【米国債10年金利のチャート】
タイトルなし

そのことから、途中から米国株もゴルディロックだあああと弱気派を完全に叩きのめす形での上昇となり、モルスタのマイクウィルソンが左遷だけでなくクビになるまで擦り続けるような流れになったことは、株に超強気である当方から見ても驚きを禁じ得ない内容となった。

【S&P500のチャート】
タイトルなし


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米国PCEとイタリアCPIとメスター総裁発言を考慮すると米国利下げ4回がベースシナリオ

今年3回の利下げが「妥当」=クリーブランド連銀総裁

統計データと高官発言を聞くと米国年4回利下げが妥当に思える。

まずFRBの金融政策を決定する際に最重要視されているPCEコアについては市場予想前年比2.8%に対して結果も2.8%となり、概ね市場予想と一致した。
一部ではその前に発表されていたCPIが上振れたので、上振れるのではないかという懸念があったが、都市部集計で家賃比率が高いCPIについて、都市部でだけ家賃上昇問題がクローズされていることを考えると、都心に住むような金持ちの事情なんて知らんわということでPCEコアは懸念ほど高まらず、概ねFRB予想に沿った低下傾向を示すこととなった。
なので、米国は引き続きインフレ鈍化パスは着実に進んでおり、一部ベア派の言うインフレ再燃で利上げに迫られるという意味不明なことには現状なっていない。
家賃以外のインフレ率・特にモノに関するインフレ率は既に正常化されていることを考えれば、変にうがった見方をすべきではないだろう。

加えて、金曜日に発表されたイタリアのCPIが既に前年比0.9%となっているのはなかなかに欧州のデフレが進行しはじめていることを示すものとなった。
ドイツやフランスではまだCPIは2%半ばであるが、一番経済が強い国でその程度で弱い国になると平気で1%割れているとなると、もうECBは今すぐ利下げしたっておかしくない状況のはずである。
少なくともFRBが利下げするのを待ってるなんて悠長なことはできないように思う。

そしてラストにメスター総裁の発言である。 
彼女はFRBメンバーの中でいわゆるタカ派芸人に位置する人物で、タカ派中のタカ派である。
去年前半にいたっては利下げなんて馬鹿なこと言うなぐらいのテンションで市場をびびらせて金利を上げさせていたりしていたが、去年末あたりから利下げについて否定しなくなり、そして今回年3回利下げが妥当という発言をした。
普通に考えると年3回利下げなら9・11・12月の計3回になると考えられる。
つまり、9月から利下げ開始は一番利下げが遅かったケースという考え方が妥当ということになる。
タカ派芸人が年3回利下げが妥当というならば、普通に考えると7月利下げ開始の年4回・ハト的なら6月開始の年5回となるだろう。
ただここまで当ブログ含めてハト的に考えていた人間の3・5月利下げ説がぶち壊されていること・現在市場は年3.5回利下げを織り込んでいるならば、7月利下げ開始が一番妥当なシナリオになるだろうと思われる。

7月から利下げで、そこから中立金利2.5%に向けた長い金融緩和プロセスに入ると考えると、引き続き金融相場をエンジョイする姿勢を維持するのが重要で、株価が多少下落したところで押し目があってラッキーぐらいに思って買いをいつでもぶつけられるように準備しておけばよいと思う。

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TMFの投資家にありがちな算数計算間違い



残念ながらそうはならない。

TMFについてはご存じの通り米国超長期債の値動きに対して3倍連動するETFである。
具体的にはTMFの運用元であるディレクションのデータを見に行くと、TLTを3倍保有するように調整がかけられており、TLTの構成銘柄が残存20~30年の米国債で構築されている。
米国の利下げが見えている中で、TMFへの投資については一部で人気的なところがある。

【出所元】
https://www.direxion.com/product/daily-20-year-treasury-bull-bear-3x-etfs

しかし、いろんな人の投稿を見ると、金利が低下した時にTMFがいくらになるかという計算が全くできていない人が多いのが目に付く。
例えば上記のつぶやきでは、政策金利が3%になればTMFは価格が100になることを期待しているわけだが、残念ながらここから政策金利が3%になっても、おそらくだがTMFは100ドルにはならない。
具体的な計算方法について考えてみたい。

TLTの構成銘柄を見ていくと、概ね保有している米国債のデュレーションは14~19年で構成されているので、ざっくりと平均デュレーションは17年ぐらいと見積もるのでよいだろう。
(本当は加重平均する必要性あるがめんどいので、各自でやってください。)

【出所元】
https://www.ishares.com/us/products/239454/ishares-20-year-treasury-bond-etf

政策金利が3%になるということは、今の投資環境を考えるとどう甘めに見積もっても、米国20~30年債の金利の居所は3%になるだろう。
今米国30年債の金利は4.371%であるから、金利としては4.371-3=1.371%の低下となる。
1.371%の金利低下によるTLTの価格上昇は1.371×17=23.3%となる。
TMFだとこれが3倍になるので23.3%×3=70%となる。
この時点でもう聡明な読者であれば気づくであろう。
現在のTMFの価格が53なので、53*1.7=90となるため、100に届かないのである。

なぜ同じ過去と同じ金利水準の時よりTMFの価格が下になってしまうかというと、これまでの強烈な金利上昇によって、TMFの元本が大きく削られたことにあり、単に金利水準の比較だけでは到達可能な価格水準は推察できないことにある。
過去に30年金利が3%の時にTMFの価格が100であった時に、そこから一度5%までのかち上げを食らったので、-60%という強烈なマイナスリターンを出してしまったために、元本が40しか残っていない。
過去にレバレッジ型ETFは内部で相場が上昇している時はポジションの積み増し・下落している時は自動損切りのメカニズムを内包していることは説明済みであるが、ここまでの強烈な下落で元本が自動損切りされてきているので、残念ながら3%では価格が100に戻らないのである。

【TMFのチャート】
タイトルなし


【過去参考記事】

SOXL・SOXS両方保有のようなブルベアETFの両建ては禁忌中の禁忌

また過去と比べてTMFが上昇しづらい要因として実質金利収入の少なさがある。
現在TMFは得られる国債金利が逆ザヤぎりぎりということにある。
TLTの保有国債の金利は現在およそ4.4%である。
なのでTMFはこれの実質3倍エクスポージャーを持っているため、4.4×3=13.2%の金利を得ている。
一方で、レバレッジをかけるのは無料ではなく、米国では苛烈な金融引き締めによって大きな金利コストを払う必要性がある。
一般的に短期金利の指標として代表的な米国3ヵ月LIBORの数値を見ると5.6%あるため、TMFでは5.6×2=11.2%のレバレッジをかけるための金利コストを払っている。
そのためTMFは13.2-11.2 = 2%の実質利回りしか得られていない。
さらに信託報酬が0.9%なので、実質利回り1.1%とほとんどないに等しい。
なので、長期で保有することによる本来の債券の金利収入メリットというのが皆無であることにも注意が必要だ。

株のレバレッジETFでは「こまけえこたぁいいんだよ!」というテンションで売買しても、その後の株価の信じられない上昇で報われるということはあるが、金利の世界というのはシビアな算数で計算されるものであり、算数を間違えた時点で期待できるリターンは得られない世界なので、そこのところは注意してもらいたい。 
(少なくとも中学受験の算数ぐらいできるぐらいでないと普通に計算間違えるように思う)

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日本の実質GDPマイナスで外国人のJGBショート戦略が実質終焉

日本、予想外の景気後退入り GDPが2期連続マイナス

逆に相場落ち着きに貢献しそう。

上記はそこそこ前の話になるが、2月15日に発表された日本の実質GDP成長率がマイナスという話である。
これは普通の人が見ると、これで株価が上がるのはおかしいという話になってしまうが、個人的には逆にこれまで調子こいて日銀を崩そうと日本国債(JGB)ショートを続けていた外国人の戦略は完全に破綻し、市場の主導権を日銀が完全にグリップしたことを意味すると感じ、日本国債市場で市場の安定感が戻ってきたなと感じた次第だが、これについてまとめていきたい。

2022年後半から2023年中旬まではずっと欧米各国がインフレ対応最優先で従来では考えられないペースで利上げを行ってきて、国債ショートをしてきたヘッジファンドに多額の利益をもたらせていたが、同様にJGBショートで利益をあげようと狙った外国人が日銀アタックを続けていたのは記憶に新しい。
実際に日本のインフレ率も久々に高水準になったところでYCCアタックをかけまくったのは記憶にあたらしい。
そうした表層的な数値しか見ない外国人投資家から見た時に、この実質GDPマイナスというニュースは、これまで必死にJGBショートかましてYCCブリーチングを狙っていた戦略を再考せざるを得ないものとなるだろう。
普通に考えれば実質GDPがマイナスで、CPIについても徐々に日銀見通しレベルに低下しつつある中で、欧米のようなインフレ対応最優先の金融政策をする必要性があるのかと(今さら)気づくのである。
いや、正確に言うと、このニュースを見た時にこれまでのJGBショート戦略をしそうな人が減ることを考慮すると、明らかに分が悪い戦略となってしまった。
このことから、外国人によるJGBショートは2023年初めのような勢いはもう完全になくなったと言えるだろう。

そうなると、JGB10年の金利水準は非常に読みやすい動きをすることになるだろう。
具体的なレンジでいうと下限は0.5%で、上限は1%手前だ。
もっと細かくいうと、少なくともFRBが再度利上げに移行する時期にならなければ0.9%程度が上限だろう。
そして市場参加者は0.5~0.9%のド真ん中である0.7%に居座っている状態で、1月後半以降一切この水準から動いていない。

【JGB10年金利のチャート】
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これまでは非常に不透明な市場動向であったが、ここにきて非常にわかりやすい相場になったし、ボラティリティも非常に穏やかなのである上に、順イールドで市場参加者も順当に利益を挙げやすい状態であることから、JGBショートしている奴以外は全員ハッピーみたいな市場環境になっている。

10年債金利のフェアな水準が0.7%ということは、政策金利的に現在の経済環境を前提とするとせいぜいマイナス金利解除後に2回25bpsの利上げがあるかないかという話である。
そうなれば、企業も財務戦略を練りやすいし、個人も住宅ローンを組む際に過度に慎重になる必要性もなく、適度なインフレと融資拡大による景気好循環を日銀は応援しやすい地合いが継続するということである。

また、日銀の金融緩和継続が見通しやすくなったということで、これまで日銀も過度な金融引き締めに迫られるのではないかと怯えていた米国債や欧州債も金利は2/15の数値を基準としてそこまで上にはいかんやろということもなんとなく想像しやすい地合いになってきていると思われる。

【米国10年債金利のチャート】
タイトルなし

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イギリス30年国債の需要は強く、債券金利上昇ステージは終了

英30年債入札、応札倍率は4年ぶり高水準-投資家は利回り確保急ぐ

買い手需要が強いので債券金利が上昇するステージは概ね終了。

上記ニュースは1月末に行われたイギリス30年超長期国債の入札において、コロナ禍以降2~2.5倍で動いていた応札倍率だったものが、今回は4年ぶりに3倍を超えたという内容であるが、このニュースで思うところをまとめてみたい。

応札倍率は、いわゆる募集金額に対して何倍の需要があるかを示すものであるが、この倍率が高いというのは需要が旺盛であることを示す。
時々、相場にショック的な動向が発生すると、金利が低いにもかかわらず逃避的に需要が高まって応札倍率が高まり(実際コロナ暴落の時に起きた)、実はそこから金利相場が大きく曲がったりするということがあるものの、今回は金利水準が高い上にさほどニュースフローがない中で応札倍率が高いことは、純粋に需要が高いということを意味していると思われる。

需要が高い背景は金利水準が高いことに加えて、先行き確実である利下げの前に玉を確保しようというイントが強いように思う。
これから利上げはなくとも、時期はまだ確定していないものの今年のどこかのタイミングでは利下げが開始されることは米国・英国・EUでは確実な状況となっている。
米国はまだしも、EUは既にサービスデフレの雰囲気も出始めている中、先進国の中でも比較的インフレ率が高いイギリスはEUの影響を強いだろうと思われる。
一度利下げが開始されれば、連続的に利下げされることも確実である。

そういった状況下において、イギリス金利は2~3年金利は4%前半、5~10年で4%弱、30年は4.5%という金利水準になっている。
特に30年の金利は一度4%割れるかといったところから、年末の買われすぎの反動や米国長期金利の下げ止まりもあり4.5%まで戻ったのだが、そこで迎えた1月末の30年国債入札の応札倍率は3.05倍と高い水準となった。

【イギリス30年国債金利のチャート】
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先行きは未だ不透明であるものの、長期間における運用利回り水準の確保が使命となっている生保や年金というのは、目先のボラティリティは目を瞑って超長期金利水準が高ければ買っていくという性質を考えれば現在の欧米国債金利水準は先行き利下げを考慮すれば魅力的であると評価できそうだ。
2/2の金曜日の米国雇用統計が冬の天候影響で統計がかなり歪んだ部分もニュースとしては消化が一巡したようで、イギリス30年国債4.5%を超えてきたところは積極的に買われている雰囲気が強く、金利が株に致命的な悪影響を与えるということはないように思われる。

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