村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

地政学

ロシアのウクライナ侵攻が全てを狂わせた中国の外交戦略

対中ODAが今月末で終了 「日本の支援、中国で知られず」批判も

ただでもらえてたお金はもうない。

上記ニュース記事自体は2022年3月と約2年前のニュースであるが、自分はここまで把握していなかったので、様々な西側からの中国経済への支援というのが失われていることについてまとめていきたい。

これまでなぜ欧米先進国および日本は中国を支援していたのかを考えたい。
純粋に中国が発展して欲しいなんて慈善事業で支援をやるわけはなく、当時の世界環境を考えればこれは簡単な話だ。
米国と中国の国交回復は1971年のキッシンジャー氏の訪中から始まり、1979年に国交が回復した。
この国交回復というのが1971~1979年ということを考えれば、米国と中国の関係回復はソ連を抑えるために行われたものであることが容易に想像できる。
実際にソ連を抑えるために米ー中ーソ連の三角外交を思いついたのはキッシンジャー氏であり、これについては下記書籍を読めば詳しく書かれているので、詳しく知りたいという方は下記書籍を読んでもらいたい。

【参考書籍】
キッシンジャー回想録 中国 ((上))

キッシンジャー回想録 中国 ((下))

というわけで、この中国と先進各国との国交回復から中国に様々な経済支援が行われたのはソ連を抑えるためのものであるわけである。

そう考えると、今回のロシアのウクライナ侵攻で中国が全面的にロシアに寄った立ち位置を示してしまったことは外交上の致命的なミスと言えよう。

【参考ニュース】
ロシア・ウクライナ戦争における中国外交

これまでソ連・ロシアを抑えるために行われていた中国支援が完全に意味を失くしてしまったことを意味する。
そうなれば、もう西側から中国への経済支援なんてものは全部打ち切られるのは当然の話である。

西側から経済支援を打ち切られれば、これまでそれを前提として動いていた経済構造がダメージを受けるのは当然である。
さらに、西側企業がこの支援打ち切りについてもあまり良くないという予兆を感じて投資を縮小させることは当然の話である。
そうなると中国政府は投資を惹きつけるには、自腹を切って財政支出をして対応するしかない。
しかし、実際は少なからぬ西側企業の従業員を反スパイ法で情報公開なしで逮捕した上に、露骨に国営企業を優先し、国内企業含めて民間企業に不良債権を処理する原資のために利益を収奪するという行為を平然と行っている。
その状態で口だけ「外国企業の投資はウェルカムです!」と李強首相が言ったところで、失笑もの以外の何物でもない。

というわけで、過去に中国経済の成長において前提として組み込まれていたものは次々と恒久的に消えており、それがストレートに株価に反映されていると考えるのが妥当だろう。

【CSI300のチャート】
タイトルなし

日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック

サウジアラビアの原油減産が限界を迎え始める

EARNINGS Oil giant Saudi Aramco’s profit slides 23% in third quarter on lower crude prices, volumes

サウジアラビアがブチギレ。

市場では米国のインフレ再燃は原油価格高騰によって引き起こされる可能性というのが、未だに議論されている。
しかし、原油価格変動や原油市場の報道やをいくつか見ていると、このシナリオはどうやら既に妄想の領域に入っており、破棄すべきシナリオだと思うようになってきたので、それについてまとめていきたい。

【WTI原油価格のチャート】
タイトルなし


原油価格高騰のシナリオが実現するには、中国景気の回復orOPEC+の原油追加減産のどちらかが必要な状態である。
しかし、このうち中国景気回復は当ブログの読者はご存じの通り、全く目途なしである。
そうなると残るシナリオはOPEC+の原油追加減産で、これは最もLikelyなシナリオの一つであった。

しかし、最近のサウジアラビアの状況を見ると、本当に減産できるのかという疑問が湧いてくる。
その理由はサウジアラムコの利益水準にある。
上記ニュース記事によると、サウジアラムコの純利益水準は前年比マイナス23%となっていると報じられている。
単純に原油価格が前年度より下落したというのもあるが、これまでに生産量を1割近く落としてきたことによる販売数量減も相当影響として大きいのが下記資料からもわかると思う。

【サウジアラムコの決算プレゼン資料】
タイトルなし

https://www.aramco.com/en/investors/reports-and-presentations

これまで原油需給が非常に良かったことを背景にサウジアラビアとロシアは自主的減産を先導し、OPEC+全体としても減産を表立っては行ってきた。
しかしOPEC+の中でも各国の経済状況というのは相当ばらばらであり、原油が高いうちに売って自国の財政の補填を行いたいというインセンティブに駆られている国が減産破りをしているのは常識中の常識である。
それでもこれまではサウジとロシアが減産を先導してきたことによって、うまい具合にコントロールしてきた。

しかし、上記資料でもわかる通り、既にサウジアラムコの利益水準は前年比マイナス23%となってきており、市場予想は超えているものの、これ以上減産してしまうとますます利益水準は厳しいものになり許容できない水準に差し掛かってしまう。
こういったことを背景に、サウジアラビアが他のOPEC+諸国に不満を爆裂させたことから、11/25~11/26に予定されていた会合は延期となった。

なので、こういった事情を考えると実はサウジアラビアの自主追加減産についてはかなり限界が来ており、そのせいでOPEC+がもめ始めると考える方がメインシナリオになるだろう。
ロシアも相変わらずウクライナとの戦争が続いている中で、資金が必要な中でこれ以上自分だけ減産はしたくないというのが本音だろう。
こうなるとOPEC+の原油追加減産のシナリオは実は相当見込み薄ではないかと思う。
つまり、OPEC+がさらに追加減産をかちこんで原油価格が暴騰し、アメリカのインフレが再燃して追加金融引き締めが必要になり相場が壊れるというシナリオはほぼ実現する可能性のないものとして認識すべきではないのかということだ。

もちろん、これまで過去8年近くにわたって油ガス開発投資は原油価格暴落で停滞してきたわけで、根本的な需給は2014~2020年と比べればずっと引き締まっている上に米国の石油の戦略備蓄の再補充の必要性があることを考えればここから無差別に原油価格が下落するわけではないが、だからといって原油価格がここから斜め上に高騰してインフレに影響与えるレベルにまで価格上昇するかと言われると、その可能性はサウジの苦しさを考えれば追加減産かちこんで原油価格をフレアさせるほどの決断はできないだろうということで、金融政策を決める当局者にとってはかなりありがたい変動となるだろうと思われる。

日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック

お互いの懐事情の苦しさから妥協に至った米中首脳会談

米中首脳、軍事対話の再開で合意 1年ぶり対面会談

どっちも懐事情が苦しいので、ここで一旦妥結という感じか。

これについて個人的な考え方をまとめていきたい。

なぜこのタイミングで米中首脳会談が行われ、軍事対話の再開合意したかというと、お互い懐事情が厳しいからということに尽きる。

まず米国側の懐事情である。
ご存じの通り、米国は地政学リスク勃発で軍事援助をウクライナ・イスラエルにしており、既にこれで2正面作戦のようになっている。
この2正面作戦でさえ、ウクライナ援助についてどうするのかというので議会で揉めに揉めている状況である。
この状態で、もし偶発的に中国・あるいは中国周辺で軍事衝突が発生してしまった場合は、これが3正面になってしまう。
そうなると、もう軍事援助垂れ流しでどうにもならなくなってしまう。
だから、少なくとも現状は中国と武力衝突しないようにコミュニケーションを取って事態をコントロールしたいというインセンティブが米国側は強い。

中国は中国で米国に負けず劣らずで懐事情が苦しい。
理由は当ブログを読んでいる読者ならご存じの通り、国内景気が習近平の失策・下手くそ外交・不動産バブル崩壊で大炎上しているからである。

【過去参考記事】
中国経済の低成長を招いた原因と再成長に必要な要素についての考察

これから金融機関に不良債権は溜まるし、地方政府への資金注入も必要であり、一体ここからいくら中央政府がこのブラックホールみたいな穴に金を入れればいいか全く見通せない。
そんな中でまちがって偶発的武力衝突で地政学リスク勃発で余計に政府のお金を使う羽目になってしまった場合は米国と同様財政的にかなり追い詰められることになりかねない。
さらに景気が悪い中で武力衝突が起きて、大事な一人っ子が無為に死んだ場合にはたして大規模な習近平抗議デモが起きずに済むのだろうかと考えると、相当ナローパスとなってしまう。
こういうことを鑑みると中国側も偶発的武力衝突を避けるために米国側とコミュニケーションを取りたいというインセンティブは非常に強い。

歴史的に言うと、米国と中国はそもそも論だが所属文化圏が違う上に、中国は直接西側と陸地に接していないことからロシアのような被害者意識的なものがなく、直接的に中国は米国とバトる理由というのは他のもっと地政学リスクを抱えている地域と比べると少ない。
その上、中国自体がなんだかんだで長い歴史を持っており、国民的アイデンティティが存在するために、イスラム圏のような内部分裂で収拾つかないということもなく、アレな国の中では比較的まともに交渉ができる国である。

そういったこともあり、お互い懐事情が厳しい中で妥協の産物的に今回の首脳会談と合意に至ったと考えるのが自然だろう。
相場的に直接的にプラスかどうかというのは不明だが、テールリスク的なものはなくなるのでリスク資産はブラックスワン的に下がる可能性は低くなりそうだと評価できそうだ。

日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック

イスラエルは米国の忠告を無視してガザ地区の治安を担うことを示唆

【イスラエル】ネタニヤフ首相、ガザ治安「無期限で」担う考え示唆

非常によろしくない方向に向かっている。

くすぶりつづけているイスラエルーハマスの武力衝突であるが、ここにきてイスラエルのネタニヤシュ首相がガザについて地上戦をした後は、イスラエルが治安を担うという考え方を示唆している。
個人的にはこれは非常によろしくない方向に向かっているなと感じたのでその考えをまとめていきたい。

どういう形になるかわからないが、本当にガザの治安を無期限で担うことを実施した場合起こることは、米国がイラクを統治していた時何が起こっていたか容易に想像がつくだろう。
米国がイラクを統治していた時は、これまでフセインが無理やり抑えていた民族・宗教対立が噴出し、政治的混乱とテロの大幅増加が発生。
テロについても一体誰がテロリストかわからず、米軍はひたすらに死傷者を出すだけで、解決する糸口は見られず、多額のお金を使った挙句に何の成果も得られなかった。
この教訓から米国はイスラエルに「俺達がイラクでどんな目にあったか思い出せよ」と説得しているわけである。
もし本当にイスラエルがガザの治安を無期限で担う形になれば、無差別なイスラエル兵士に対するテロが頻発し、そこに対してイスラエルはだらだらと無駄に人・金・物をかけて対応せざるを得ない上に、それはいつまでたってもなくならないという悪循環になり、国としても疲弊することが容易に想像できる。

しかし、イスラエルのネタニヤフ政権は全体として極右的派閥が連立に多く、その忠告を無視とまではいかないまで軽視する形で、将来のイスラエルにとって全く無益どころか有害な決断を下そうとしており、そういうことを考えるとイスラエルという国に投資することは難しい、というよりも避けるべきだと考える。

例えば個人投資家であればARKが運用するイスラエルイノベーション株に投資するETFであるIZRLなどがあるが、とてもではないが投資できるとはいかないだろう。

【IZRLの株価チャート】
タイトルなし


このように昨今地政学の変動が大きくなっている中で、地政学で大きな判断ミスを犯した国というのは投資できない国として除外すべきであり、それが2022年以降ロシア・中国と続いてきたが、イスラエルもその仲間入りしたと考えるべきだろう。

一時期イスラエルは国防のために高度に軍事関連やサイバー関連が成長していると注目されていたわけであり、それなりの期待があった国であるが、やはり小国はこうした政治判断一つ間違えるととんでもない方向に曲がっていくわけであり、なかなか繁栄を維持するのは難しいなと思う次第である。


日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック

世論と国際的雰囲気を感じ取り、熱が若干冷えているイスラエルの地上軍侵攻作戦

【イスラエル】軍が二夜連続で限定的な地上戦-空爆も続ける

イスラエル政府は難しい舵どりを迫られる。

ここもと3週間ぐらいはいつイスラエルの地上戦が始まるのかという懸念が続いている。
当ブログではこれまで書いてきた通り、興奮するイスラエル右派に対して、米国がちょっと待ったをかけた上に、米国世論・政治家の間でもイスラエルに全面的に味方するという雰囲気から一歩退いている状態となっている。

【過去参考記事】

イスラエルーガザの武力衝突をなんとか地域紛争に収める努力をする米国

さらにどうやらイスラエル世論も少しずつ変わってきているようで、ANNニュースなど見ているとイスラエル世論で当初60%近くが地上軍の即時侵攻に賛成としていたのが25%にまで減っており、待った方が良いという意見が50%近くになっているということである。
イスラエルというのは四方を敵に囲まれている国であり、世界からどう見られているのかをとかく気にする国である。
(この辺は世界からどう見られているか全然気にしないアホロシアや中国とは訳が違う)
特に米国からの支援なしでは立ち行かない国であるわけで、米国世論も敏感に状況変化を察知している。
そもそもハマスをせん滅といっても、その代表はカタールにいることに加えて、イデオロギー的組織ということもあり、仮にハマス構成員の大多数を殺害できたとして、イスラム原理的イデオロギーの新組織が台頭することは目に見えるため、基本的に不可能だと見る向きが増えている。

一方でこのまま何もしないとなると、ネタニヤフ政権の支持基盤である右派からの突き上げが厳しく、政権維持が難しくなるという国内事情も抱えている。
そのため、北部を中心とした空爆と、北部先端部分に非常に限定的であるものの地上軍投入をしてハマスへの攻撃を実施しているようだ。

しかし、この地上軍投入は当初専門家が懸念していたような四方からの全面的地上軍投入の規模からすればほぼしていないも同然のような規模であり、米国もこれについては黙認している。
さらにネタニヤフ政権はこの地上軍投入を1回目と称し、第二弾があるとまるで大決断をしたかのようなアピールをしている。
それに地上軍を全面投入して仮にガザ地区を占拠したとして、そこにいる人口200万人近くをどう養うのかという大きな問題もある。
こうしたこともあり、週末の度にイスラエル-ハマス間の地政学リスクと言われたりするが、やはり相場への影響はもうそろそろなくなるものと思われる。

日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック

記事検索
アクセスカウンター
  • 累計:

プロフィール

村越誠

投資に関して気づいたことのメモをしていく。 ご連絡の取りたい方は、makoto.muragoe★gmail.comまで(★を@に変換してください)
ツイッターで更新情報配信