村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

社債

HYGよりLQDの方が価格下落率が大きいワケ

一部でハイイールド社債ETFであるHYGより投資適格社債LQDの方が価格下落が大きいのはなんでだと不思議がっている人がいたのでちょっと解説。

<HYGのチャート>
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<LQDのチャート>
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上記にHYGとLQDのチャートを掲載しているが、2月のリスクオフ時にHYGよりLQDの方が下落率が大きいことがわかる。
この理由を今回は解説したいと思う。

社債ETFの利回り構造は以前に説明したが、米債金利+リスク分の上乗せ金利という2段階構造になっている。
現在社債の対国債上乗せ金利はかつかつなレベルに縮小しているものの、2月末の株リスクオフはこの社債の対国債上乗せ金利に甚大な影響を与えるレベルにはリスクオフになることはなかった。
しかし米債金利はかなり値幅を伴って上昇した。

プロなら皆知っている話だが、実はHYGとLQDではデュレーションの幅が全然違う。
これはiSharesのホームページを見ればデータが掲載されており、誰でも確認ができる。
債券価格というのは金利上昇幅×デュレーションの分だけ価格が下落する(厳密には違うけど簡略化すると大体そういうもの)
なので、金利が1%上昇したデュレーション7年の債券は7%価格が下落する。

HYGの保有している社債の満期は3年後半・デュレーションは3.5年アラウンドぐらい。
一方でLQDはデュレーション9.4年と長い。
この違いはそもそもハイイールド社債は信用力がないことから短い年限の社債しか発行できない一方で、LQDは投資適格ということで誰もが知っている大企業が長い年限(ものによっては40年とか)の社債を発行するため、これだけデュレーションが異なる状況が発生している。

現在の米債市場はブログで何回か言及しているが年限が長いところほど金利が上がるベアスティープ相場になっており、ここ数年の債券市場でも珍しい動きとなっている。
なのでそもそもベース金利上昇による価格下落反応度はLQDがHYGの3倍弱ぐらい抱えているのに加えて、超長期金利ほど金利が上昇していることのダブルコンボをLQDは食らっている。
その上、上述したように対国債上乗せ金利はさほど動いておらず、社債投資損失は概ねベース金利上昇だけが影響している状態になっている。
そのためHYGよりLQDの方が価格下落度合いが大きい珍しい状態が発生している。
通常こういうリスクオフの時はハイイールド社債の対国債上乗せ金利が急騰して激しい価格下落が起きるというのが大半で、通常はこれが原因でLQDよりHYGの方が価格下落率が大きくなる。

LQDの価格崩壊は危ないんじゃないかと思われるかもしれないが、今回はやや事情が特殊で、対国債上乗せ金利上昇による価格下落ではなくベース金利上昇による価格下落が要因のほとんどとなっている。
そのため、実はそれだけなら機関投資家にとっては米債先物売り・米債コールオプション売り・米債プットオプション買いなどで安価にヘッジを行うことが可能で、流動性パニックを起こすまでには至らない。
まあそもそもイールドカーブスティープ化しまくっているんだから、預金を貸出先に回せば以前より大きい利ザヤを確保できるんだからあわててポジションをぶん投げる必要性もなかったりと金法側はそこまで社債ポジションに対して多少損失が出たところで焦っていないというのが現状ではないだろうか

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米ドル建て投資適格社債の上乗せ金利が薄くなりすぎて、国債金利上昇のキャピタルロスが埋められない懸念が立ち始める

スライスチーズ並に薄い上乗せ金利では国債金利上昇のキャピタルロスは防げないと思われ始めている。

一般的には債券ETFのオプションがバカスカ出来高が増加するときというのは、そのETFの値段が下がると利益の出るプットオプションロングの方に賭ける。
なぜなら債券のリターン特性を考えればわかる通り、債券はリターンの上限が実質的に決められており、一方でダウンサイドリスクは有限ではないからである。
(もちろんダウンサイドリスクは株と比べれば非常に低いが)

さて、ここで債券ETFの中でオプション取引が大きいものを挙げていくとHYG・LQD・TLTの3つになる。
中でもハイイールド債券とリスクの高いHYGとデュレーションを限界まで長くしている米国債ETFのTLTの2つは恒常的にオプション出来高がある。
LQDについては通常時はこの2つと比べるとオプション出来高は低いが、何かしらヘッジする事情がある場合には急速に出来高が増加するのが特徴だ。

3つのメガ債券ETFのオプション出来高を追っている中で12/3の取引に違和感を感じた。

<メガ債券ETFのオプション出来高推移>
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12/3は今年最後の米国雇用統計発表というビッグイベントを控えて、市場では米国金利上昇・ベアスティープを懸念予想をする人が増加していた。
それを背景にしてTLTのオプション(おそらくプット)の増加が発生したのは非常に納得のいく話である。

通常リスクオンの時はクレジットは国債金利の上昇を上乗せ金利の縮小で相殺させてくれることが期待される。
なので債券投資家はリスクオンの時はクレジット投資を行うことで金利上昇のキャピタルロスを防ぐ行動に移る。
しかし、今回この米国金利変動イベント前に大量のオプションを積んでいるのはキャピタルロスを防ぐための行為なように思える。
しかし、これはリスクオフに賭けた行為ではなさそうなのである。
リスクオフに賭けているならHYGのオプション取引も増加して防御態勢になっていなければいけないはずだ。
しかし今回HYGのオプションは特にはそういった防御姿勢は取っていないことが出来高から観察される。
つまりTLTとLQDのオプション出来高増加は雇用統計の結果次第では発生しかねない国債金利上昇を懸念した行動ということになる。
つまりLQDはリスクオンになっても、もはや上乗せ金利が少なすぎて金利上昇を相殺することは難しいと判断している投資家が出始めているのではないかと推察される。
これは3月のコロナ暴落で大量に上乗せ金利が乗っかって以降は見られなかった動きである。

そこでFRBが開示している米ドル建て投資適格社債の上乗せ金利の推移を見ると、既に1.07%しかなく、1999年以降のデータを見るとあとこの上乗せ金利縮小はあっても10-15bps程度ということも想像に難くない。

<米国投資適格社債の対国債上乗せ金利>
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そう考えると現在BEIレートが上昇していく中で10-15bpsの上乗せ金利縮小では未知数な米国債金利の上昇をカバーしきれないという発想にいたるのも十分理解できる話だろう。
そう考えるともはやLQDではリターンは最終利回り以上のリターンを稼ぐことはやや難しくなりつつあると感じる。

さらにいうと足下では投資適格社債でいうとこの上乗せ金利を求めてロングエンドにポジションを振る人が増加しており、急速に長期と短期社債の上乗せ金利差は縮小してきており、長期社債の上乗せ金利を潰し切った時にいよいよ投資適格社債は攻める手がなくなってしまう。

<長期社債と短期社債の上乗せ金利差>
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ちなみにハイイールドではコロナワクチン完成で感染拡大を食い止められれば、もう100bps程度の上乗せ金利縮小はまだ期待できるし、そもそもハイイールド社債はデュレーションが短く、金利上昇によるキャピタルロスリスクは低いということもありこちらはまだ金利上昇が損失につながるという発想には市場参加者は至っていない。

<ハイイールド社債の対国債上乗せ金利>
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なので、投資適格社債の上乗せ金利縮小が限界にくる中でさらにハイイールド社債に資金が入って相場は一旦の絶頂を迎えにいくと予想している。

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ドイツ銀のAT1債償還見送りは単なる経済合理性に基づいたもの

ドイツ銀、償還可能な債券の返済見送りへ 市場の混乱が影響



さすがにてきとーぶっこいて解説してる人は少しぐらい自分で調べたら?

ドイツ銀がAT1債という弁済順位の低い社債の償還を見送ったということで、「なんかドイツ銀がやばい」とかいうすごくてきとーな意見つぶやいている頓珍漢な人がいるので、ちょっと詳しく解説しておこうと思う。

以前にも記事にしたが、AT1債とはバーゼル3の規制下で自己資本を拡充するために発行する社債であり、Additional Tier1という資本カテゴリに入れられる債券である。
しかし、その条件として早期償還(コール)は5年以降の日付、バーゼル3の規制の下決められた水準の資本を下回ると利払い停止・元本削減を金融当局から命じられる、コールスキップした場合のステップアップは禁止という非常に重たいリスクを課せられるかわりに、高利回りという特徴がある。

そして今回ドイツ銀がコールをスキップした社債というのがドル建てでクーポンが6%、当時の米国5年金利水準が当時1.5%ぐらいでおそらくスプレッド(上乗せ金利)は4.5%ぐらいだ。
この時、発行体が重要視するのはコール日におけるスプレッド水準である。
コールをすればそれだけAdditional Tier1が減少するので、新規のAT1債を発行するとお得かどうかというのを非常に重視する。
今回はスプレッド4.5%という水準ではどう考えても当面は発行厳しそうだと判断したため、早期償還を見送ったわけだ。
つまり早期償還するといった判断には、該当する社債が一体いくらの上乗せ金利で発行したのかというのが一番大きな要素になる。
例えばこのAT1債の元々の上乗せ金利が10%とかあれば、普通の相場ならコールして新しい債券を発行した方が発行体に対してインセンティブが大きいのでコール確率は非常に高くなる。
一方で3%とかで起債している場合はよほどタイトな相場でないと達成できなそうということでコールスキップされる確率が高まる。

もちろんドイツ銀自体の信用力が低いうんぬんは一定程度あるが、今回はどちらかというと新規発行コストと天秤をかけてスキップした方がお得だよねという経済合理性に基づいた判断であるため、別につぶれそうで返済するお金がないから見送ったというわけでは全くない。
もちろんこの後コロナウイルスによる景気鈍化でやっぱりドイツ銀の業務やばいとなる可能性はあるけど、それと今回のコールスキップは全く別事象である。

なのでこのコールスキップという事象を見ただけでやれ信用不安だとか煽る人は金融規制を調べていない全くの素人であり、全く聞く価値のないゴミみたいな意見を垂れ流しているにすぎない。

常軌を逸したドイツ銀ドル建てAT1債の低利発行

Deutsche Bank to sell first contingent convertible bond in 6 years



ちょっと正気失っていないですか・・・

これまでビジネスモデルが死んでるだーの倒産するだーの既発のAT1債のクーポンが止まりそうだーのと色々言われてきたドイツ銀がここにきてドル建てAT1債を発行してきた。
そのクーポンはなんと驚きの6%である。
2025年10月が初回コール日でそれ以降は変動金利化するので米国5年債との金利差(いわゆるスプレッド)は4.5%程度となる。
これはかなり狂気じみているレベルにクレジットマーケットがタイト化しているように見える。

2014年10月に発行されたドル建てAT1債もクーポンが6.25%とかなり狂気じみたレベルでの発行でみんな買い漁っていたが、その後2015年にじわじわと単価レベルが下がっていき、2016年頭にはもうみんなの頭から忘れかけられているがドイツ銀AT1ショックと呼ばれた利払いができない疑惑が浮上して一気に単価が80まで下がった事件があった。
その時の対国債の上乗せ金利は13%超えとまじで心停止するのかという危惧のされ方をしていた。

しかしその後トランプ大統領大勝利からの減税景気上昇からのアゲアゲ相場でスプレッドは3%台まで低下。
やれやれめでたしめでたしと思ったところで2018年末の下げ相場で再び単価80まで下がってスプレッド20%まで上昇していった。

このようにAT1債というのはまだ世に出てきてから日の浅い投資対象ということもあり、まだバリュエーション評価の仕方が定まっていない。
バリュエーション評価が定まらない理由としては金融当局によって設定される新規制によって利払いできるかどうかが左右される可能性があるし、利払い停止・元本削減などの措置は最終的には金融当局が決めるor金融当局が決めるバーによって決まり、そこが流動的に情勢が変わるということもある。
特にドイツ銀みたいな基礎収益がガタガタになっているような金融機関は十分な自己資本を積んでいても、減損一発で一気に持っていかれる危険性も高いことから、相場が悲観的になるとドイツ銀の場合急速に利払い停止懸念が高まるためAT1債のバリュエーションが劇的に低下する。
そういった意味で現在のクレジット環境ではドイツ銀の利払いは停止はないだろうという前提でみんな苦し紛れに高金利債券に手を出している状況であり、まじめにリスク評価とかは足元でワークしていないというのが相場の正直な状況だと思っている。

以上を踏まえると、かなりドイツ銀のAT1債の動向というのは今の相場環境がどうなっているかを示してくれるインジケーター的役割も担っているように思えて、ここは随時状況をチェックしていきたいと思う。 

米国CCC格ゾーンのハイイールド社債市場はリスクオフトリガーにはならない

ICE BofAML US High Yield CCC or Below Effective Yield - FRED



CCC格よりもBBB格ゾーンの爆発が一番危ない。

昨今米国ハイイールド社債の中でも飛び切り格付けが下のゾーンのスプレッド(対国債上乗せ金利)が上昇している。
CCC格ではこの数値が10%と2018年12月以来の高い水準にある。
B格についても約4%とそこまで高くはないものの、2017年・2018年のリスクオン水準と比べると随分高い。
しかし一方でBB格はスプレッドがたったの2.2%程度しかなく、ハイイールドの中でもBB格を見るとリーマンショック以降のヒストリカルロウレベルのスプレッドしかない。

一部ではこのCCC格のスプレッド上昇が止まらないのを指してリスク資産の大幅下落が近いという説を唱える人もいるし、気にしている人も多いようだが、個人的にいくつかのこの説に反論したい点がある。
それについていくつかポイントをまとめたい。

1、米国のハイイールド債の市場規模自体が格付けが低い順に縮小している。
実は米国のハイイールド債市場は規模が漸減している。
特にCCC格なんてのはひどい状態で、2014年に2400億ドル近くあった市場規模は今や1650億ドル程度にまで縮小しており、規模にして2/3になっている。
なぜこのような状態になったかというと2014年の資源バブル崩壊以降、主にドベの格付けの借り手であったシェールガスオイル業者の新規発行というのが壊滅した。
その後もなんだかんだで市場はこの格付けゾーンを保守的に見ていたせいか市場規模は漸減していったのがおそらく市場規模減少の原因だろう。
一部新規テック企業が新規発行などをしていたが、やはり何かブームがないとよっぽど変な財務の企業は社債を発行できないということだろう。

2、新規発行プレーヤーの減少により相対的に劣化債券しか残らない状態が増加し始める。
これは銀行を調べている人ならご存知だろうが、銀行は融資の伸びが止まる=経済不振による不良債権の増加+新規健全融資が増えないことから全体の不良債権比率が急速に増加する。
現在CCC格で起きている減少はこれで、比較的ましな発行体による社債発行が途絶え、既存の人達の信用力状況が劣化していることが主な原因だろう。
逆にBB格が200bps前半というタイトなスプレッドが維持できているのは次々と新規発行体による新発債が発生しているからで、これがハイイールドの中でもBB格とそれより下で大きな差が生まれてきている原因だろう。

3、しかし社債市場全体で見るとA格とBBB格市場の急速な増加により存在感は大幅低下。
このようにB格およびCCC格中心に社債市場は新規発行よりも償還の方が多く、市場規模がピークから20%以上もの減少を見せていた。
一方で、投資適格については国債の金利水没に伴う機関投資家の旺盛な需要と企業側が安く調達したいという供給側の言い分がマッチしてA・BBB格中心に堅調に市場規模は拡大していった。
そのせいもありB格・CCC格が市場全体に占める割合は2014年それぞれ9%・4%と合計13%占めていたのが、足元では6%・2%の合計8%と単純な市場規模以上に存在感が下がっている。
このレベルの比率は2002年のITバブル崩壊後の水準レベルやリーマンショックど真ん中ぐらいの一番暗い時代だったレベルの時と同程度の比率でしかない。
BB格はまだ市場規模は維持しているものの、比率は7%ぐらいまで低下。
リーマンショック前のB格・CCC格比率がそれぞれ12%・5%あった時代と比べるとその存在感の薄さは否定できない。

このように現在のドベハイイールド社債市場自体をそもそも熱心に見ている人が少ないし、米国銀行も色々な情報を見る限りこのような危ないところに無節操に金を貸すほどアホな行為をしていない。
(というより金融規制強化でそこまでド派手なことは間接金融ではしづらい)
というわけで2014年から色んなプレーヤーが既に手を引いていてもう5年が経つ市場の低迷が経済の根幹を揺るがすような経済ショックの引き金になることはまず考えづらいというのが率直な感想だ。

CCC格よりもやはり一番気になるのはBBB格で、現在の社債市場で最も成長速度が速く、規模も全格付けの中で圧倒的な大きさになっている。
しかもこぞってみんなが買っている市場だ。
ここで大きな問題が起こると多数の巻き込み事故が発生することは現在の社債市場に占めるBBB格の割合を見ればまず間違いなく、BBB格市場に対して異常が発生するような事態になったら問答無用で全リスク資産を投げる必要があるだろう。

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村越誠

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