インドネシアが半年ぶり利上げ 東南ア、通貨防衛に躍起

市場がFRBにNOを突き付け始めている。

多くの市場参加者はドル円動向にだけ目が行きがちで、対ドルレートが155円になってわーわー言っているわけだが、実はその裏でもっと厳しい動向になりつつある通貨群がある。
それがアジア新興国通貨全般である。

例えば上記インドネシアではルピアがラマダン明け休暇にべらぼうに売られて追い詰められてしまったがために、慌てて利上げする羽目になってしまった。

【インドネシアルピア(対ドル)のチャート】
タイトルなし



インドネシアについては過去に通貨の変動で利上げしなければいけないほど追い詰められたのは2013年以来である。
(2022年は普通にインフレ率上昇で利上げした)
しかし、インドネシアにおいては2013年の時の経済状況と2024年の経済状況は大きく違う。
具体的に何が違うかと言うと、2013年の時はフラジャイルファイブと呼ばれ、持続不可能なほどの経常赤字(対GDP比で3%近く)を抱えていたために、外貨繰りが大きく狂ってしまい一気に追い詰められた。
しかし、2024年においては経常赤字は対GDP比1%程度に過ぎず、一般的に対外直接投資の量を考えると十分抑制された健全な水準である。
にもかかわらずルピアは利上げするまでに追い詰められた。
ちなみになぜ新興国の経済の健全度を見る上で、経常収支を重視するのかは下記記事を参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】
新興国経済を見る上で重要な「国際収支の天井」という概念

しかもインドネシアルピアについては、円のように大幅なマイナス実質金利ではなく、普通にプラスの実質金利でこれを食らっているので、より事態は深刻である。
これが意味することは市場がFRBにNOを突き付けたと考えるのが妥当だと思われる。
一般的にアジアの外貨獲得は中国・米国への輸出によって成立しているわけで、さらに中国の輸出先を考えれば、結局は米国の需要がどうなんでしたっけという話になる。
この時、FRBが経済を殺しかねない金利水準を継続させた場合に、単に米国金利の方が投資妙味が高くなるからという理由で資金がアジア投資から引き揚げられたりというのはあるが、究極的に言うと米国が金融引き締めによってモノの需要が落ちて、アジアからの輸入金額が減るためにアジアの輸出金額が減少するために、外貨獲得量が減るためにリファイナンス難易度が上がってしまう。
そして投資家はそれを先回りする形で動くために、現在のFRBの金融引き締め策が長すぎるというのを直接的にアジア通貨を売ることによって市場参加者が表明していると考えるのが妥当だと思われる。

何も現在売られているのはインドネシアルピアだけではない。
韓国ウォンもタイバーツもフィリピンペソも人民元も売られ始めている。
日本は十分な金融資本の厚みと耐久性があるため、これぐらいの円安で利上げに追い込まれるわけではないし、国民生活への影響度合いも薄い。
しかし、新興国通貨はそうはいかず、ちゃんとプラス実質金利なのに金融資本の厚みがない中で売りが殺到するとどうしようもなくなってしまう。
しかも今回はどの国も比較的健全な状態である中で売られるのは、やはりFRBの金融引き締めの延長はどう考えても間違っているというのが市場の本音ということだろう。

つまり、このままFRB理事メンバーが年1回しか利下げしないとか再利上げがあり得るとかそんな間抜けなことを言って米国景気が本格的に鈍化してアジアからの輸出金額減ったらそれこそ金融ショックやでという脅迫を市場参加者は金融取引を通じて示唆しているのだと思う。
それにFRBが気づき、さらに自分達の発言が間違っていたと反省するまでは相場は一時的に反発したとしても、基本的には調整を続けると考えるのが妥当だと考える。

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