欧州銀行株が急落、ドイツ銀15%安 金融不安で警戒強く

中央銀行の金融引き締めに対して投資家がNOを突き付けている。

金曜日の相場は米国株だけ見ると何かあったんですかという話に見えるが、欧州の方ではクレディスイスに続いて、万年信用力下位にいると認識されているG-SIBの一つであるドイツ銀行の株価が急落したことによってセンチメントが悪化した。

【ドイツ銀行の株価チャート】
タイトルなし


ニュースの表層だけ見ると、ドイツ銀行が次の破綻(ベイルイン)懸念を持たれていて、金融市場に大混乱を引き起こすのではないかと早合点しそうではあるが、少し落ち着いて状況の点検をしていこうと思う。

ドイツ銀行についてはリーマンショック以降は常にG-SIBの中でも信用力が低い銀行として投資家からは広く認識されていた。
理由はいくつかあるが、一つはドイツ国内で金融機関が多すぎることによる貸出金の利ザヤの低さ・サブプライムショックの後遺症・儲からない投資銀行部門ということで、ようは不祥事を起こしていないクレディスイス的な位置づけである。
そしてドイツ銀行が最も窮地に立たされていたのは2016年である。
これについてはブログでもちょろっと言及させてもらったが、2016年1月にドイツ銀行はAT1債のクーポンを払えない可能性があるのではないかと疑念が持たれ、それによって米国の金融緩和終了や中国株バブル崩壊の余波でセンチメントが弱っていたところにさらに加わる形で金融市場に打撃を与えた。
そして時は経ち、2023年になってまたドイツ銀行の信用力ってどうなんでしたっけという疑念を投資家に突き付けられている。

しかし、ここで一度立ち止まって見てもらいたいのはドイツ銀行の現在の財務や収益性である。

【ドイツ銀行IRページ】
https://investor-relations.db.com/reports-and-events/quarterly-results

クレディスイスの場合はそもそも当面収益性改善が見込めないということでやばいのではないかという形で、CET1比率が14%あったにもかかわらず結局AT1債をベイルイン認定されて全損となった。
ドイツ銀の状態は見ると、少なくとも2016年時点と比較するとかなり状況が改善している。
CET1比率も13%台あり、収益性もそこまで高くはないが少なくとも改善傾向推移していて、きっちり利益も出しており、現状いきなり危ないと認識されるほどの状況には見えない。
少なくとも金融当局から見たら、なぜこの状態で破綻懸念(ベイルイン懸念)されるのか皆目意味がわからないと感じるのが自然だと思う。
このような突飛な話が出るのは、やはり事業会社と金融機関の破綻の意味合いが違うというところが大きいと思うので、この辺は下記を参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】
事業会社と金融機関で大きく異なる「破綻」の意味合い

これが意味することは投資家による中央銀行の現在の金融引き締めに対する反抗である。
現在の金融引き締め水準が継続されれば、もう遅かれ早かれ景気後退は訪れると投資家は訴えているのである。
そしてそれを無視して金融引き締めを継続することは自動的に金融ショックを迎えることになるので、じゃあ今現状特段問題が起きていない金融機関でも信用力が低い順にアタックをかけたれという至極単純な理由でポジションを動かしているのである。

その証拠にクレディスイスの騒動以降、金融債全体に未だ影響が残っていた中で、ドイツ銀行のTier2債は値下がりしていた。
このTier2債というのは、AT1債と違って少なくとも満期があることと、利払いは任意で停止できないこと・ゴーンコンサーンベースの劣後債であることから、本当に該当金融機関が金融当局が定めた最低資本水準を満たせない状態においてのみ元本が削減される、少なくともAT1債よりははるかに元本削減ハードルが高い劣後債である。
あまりにも理不尽に値が下がっていたこともあり、ドイツ銀は自分には信用力があることを示すために早期償還せざるを得なかった。

【参考ニュース】
ドイツ銀の劣後債、大きく値上がり-予想外の早期償還発表後

このように現状の先進各国の中銀の厳しい金融引き締めは不必要に金融機関にコスト負担させるような事件が続出しており、これは投資家からの大規模抗議活動と見るのが自然だろう。
なので、この動きは金融当局がちゃんと配慮しますよという姿勢を見せない限り続くというのを頭に入れながら、金融当局の動きを観察していくことが足下の相場を考える上での最優先事項になるだろう。
金融当局の対応の速さが十分だと思えば買いだし、不十分だと思えば売りということになる。

日々金融市場で思ったことや金融データをつぶやいている村越誠のツイッターはこちらのリンクをクリック