毎回相場の癌になっているイメージ。

今回のクレディスイスの破綻懸念騒ぎについては、以前のブログでその発端原因の一つとしてCoco債は原因となっていることを書いてきた。

【過去参考記事】

クレディスイスの破綻懸念を引き起こしたAT1債暴落と現状の当局対応

ちなみにCoco債(別名AT1債)とはなんやねんというのは、詳しくは下記を読んでその概念を知ってもらいたいところだが、一言で言えば「金融機関に一定の懸念が生じた時に金融当局が資本補充のために強制減損さあせられる劣後債」という性格を持っている。

【過去参考記事】
事業会社と金融機関で大きく異なる「破綻」の意味合い

このCoco債は金融機関が発行する社債(金融債)の一つであるが、通常の社債と大きく異なる仕組みを内包している。
一般的に社債というのは、その会社が立ち行かなくなり、破綻認定された時に元本が返ってこないという形で価値を毀損する。
言ってみれば企業が死ぬときに一緒に価値を失うものである。
しかし、Coco債については「金融機関が生き残るために損失を金融当局が被せる社債」となっている。
またCoco債はコール条件付き劣後債であり、発行してから5~10年後に発行体側が繰上げ償還(コール)する権利を持っている。
しかし、コールするかどうかというのは繰上げ償還して新しいCoco債を発行するのに経済合理性があるかどうかにかかっている。
例えばCoco債の発行当初条件がクーポン5年国債+400bpsだったとしよう。
5~10年後にコール日を迎えた時に、仮に新しいCoco債を発行すると5年国債+350bpsで発行できるのであれば、5年国債+400bpsのCoco債を繰上げ償還して発行しなおすことが合理的だ。
一方で新しくCoco債を発行しようとすると5年国債+600bps要求される場合は、5年国債+400bpsのCoco債を繰上げ償還せずにそのまま維持した方がいいよねとなる。
ただ、繰り上げ償還されない場合は、スプレッドデュレーションが5~10年と思っていたものが大きく伸びるため、価格変動において一定の値に非連続的に価格が下落するポイントが生じてしまっている。

これだけ見ると、このCoco債というのはTier2劣後債や普通社債の価値を守るために存在するはずである。
しかし、相場の仕組み上Coco債が下落する時は、他の社債についても一時的な時価下落を避けられない傾向が強い。
まず投資家がCoco債に投資するのが、どうも状況が芳しくないと感じ始める。
そこで売却しようとするが、ブローカーに売却しようとしたらスクリーンで見えている価格からはるか下のビッドを出されたり、ノービッドだったりして、どうも売却しきれなさそうだということが判明する。
そうなると、この投資家というのは一般的にはCDSを購入してヘッジしようとする。
しかし、考えればわかるがCoco債の投資家全員が同時に売却できなくなるので、みんなが同時にヘッジのためのCDS投資をする。
するとCDSの数値はあれよあれよと上昇していくのである。
それを見たTier2劣後債やシニア債投資家・株投資家も不安に駆られて売ろうとしたり、CDSでヘッジしようとしたりする。
そうするとCDSがありえない上昇の仕方をするので、そこで自己実現的にCDSが破綻を懸念するような水準になり、一気に破綻するのではないかという報道が駆け巡る。

さらに今回スイス当局はこのCoco債について、買収において政府のサポート支援が入っているということで、これはCoco債の全損トリガーとなるとして全損となるようである。
CET1比率が14%もあったところから、一気に全損まで持っていかれているし、しかも株式は全損でないということから以前から問題として認識されていた弁済順位が逆転していることもなんでやということになっている。

こうしたことから、今後このCoco債というのが、はたして投資として適格なのかどうかいう議論が巻き起こることに加えて、色々整理がつくまで新しいCoco債を発行することは難しいように思われる。
まあ今回のクレディスイスの件はTLAC債とTier2債まで助かれば、あとはどうとでもなれという感じはあるので、Coco債以外はあんまり影響はないように思う。

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