金融市場に新たなリスク 危機波及の警戒根強く―クレディ・スイス経営不安

まーたAT1債がトリガーになってる。

あんまり破綻というとリーマンみたいな無秩序デフォルトとみんな勘違いするので、当ブログでは破綻とかかずにベイルインと書こうと思う。
ここらへんを勘違いするとリーマンと現在のクレディスイスの状況が同じみたいなとんでもない勘違いをしてしまうからである。

【過去参考記事】
事業会社と金融機関で大きく異なる「破綻」の意味合い

そもそもクレディスイスについての最大の問題は資本というより収益性の問題であった。
投資銀行部門で様々な不祥事とコンプラ違反をやらかして、過度なリスクテイクで大損こいて業務縮小や減損せざるを得なくなったところに、ウェルスマネジメント業務で預金が引き出しが出たことで全体的に赤字傾向となっていた。
また、世界的な金融引き締めでさらに同社の投資銀行部門は全く仕事がなくなってしまったことから、この赤字傾向が当面続くだろうと見込まれていた。
資本の方は、さすがにわけのわからない資産は持っておらず、含み損的なものは少なかったので、やはり焦点は収益性であった。

2022年の間ひたすら金融引き締めで、同社の社債についても一定程度の売り圧力が働いていた。
しかし2022年下旬に当局からせっつかれて作成した資本増強・再建策が出たことから一息ついていた。
しかし、ここで2016年のドイツ銀行と同じような状況が発生した。
2022年に発行していたAT1債がSVB・シグネチャー銀行破綻から、金融債全般から投資家が引いたことからじりじりと同社のAT1債価格は下落していた。

【クレディスイスのAT1債価格】
タイトルなし


https://www.boerse-frankfurt.de/bond/ush3698ddq46-credit-suisse-group-ag-9-75

おそらく流動性事態も落ちていて、売却したくてもできないみたいな状態になっていた。
そのため、ヘッジのためにCDSを買おうという動きが殺到してしまった。
そして、このCDS取引のためにCDSが上昇しているのを見て、他のシニア債や株投資家もこれにつられてしまったことにより、もはやヘッジ不能なレベルにCDSが上昇。
この段階でもう価格はいくらでもいいからというAT1債の投げが発生したことから、数週間前まで単価が90ぐらいあったAT1債が40まで下落したことから、一気にベイルインされる可能性があると皆思うようになり、負のフィードバックループに陥ってしまった。
このようにして急遽同社のベイルイン懸念が生じ、さらにサウジの銀行の追加出資しないという発言がクローズアップされて動きが過激化する流れとなった。
この辺の流れはかなり2016年ドイツ銀行と酷似しているのが、下記ロイター記事を見ればわかると思う。

【参考ページ】
コラム:問題児に転落したドイツ銀のハイブリッド債

SVB破綻などとは違って、G-SIB銀行は逐次事業状況や財務状況について当局報告が必要であり、当局も常に数字を把握している。
クレディスイスについては去年の下旬段階で、スイス当局が同社のテコ入れのために資本増強策とリストラ策をさっさと出せとせっついて、同社はこれに基づいて当局が満足する再建策を作成し、当局もこれを是認した。
配当についても無配にすると、AT1債のベイルイントリガーが近いのではないかと疑念を持たれるので、わざわざわずかながら配当を出させる徹底ぶりであった。
しかし、足元で破綻懸念が出ているということは、スイス当局の監督は不十分ではないかという疑念を投資家から突き付けられているということを意味している。
これに慌てた米国とEUはスイス当局に対して「さっさと対応しろ」と猛烈な電話をかけていたことも報道されていた。
基本的にEU・米国については大手銀行についてはToo Big To Failということで、 税金をつかうことはまかりならんとなっているが、自分以外の国であれば話は全く別であり、なんでもいいから対応しろと詰め寄る傾向がある(わがまま)
スイスは基本的に金融業がGDPに占める割合が大きく、大国からの抗議が猛烈にかかる中、もし当局対応をミスればその地位は完全はく奪になるわけなので、もうなりふり構ってられないということになる。

これが、木曜日の日本時間朝時点でスイス当局がまずクレディスイスに対して7兆円もの大量流動性供給を決めた背景となる。
特に、CET1比率が14%もあるのに、取り付け騒ぎなどで自己実現的にベイルイントリガーになってしまうことは、当局管理ミスを印象付けてしまうことから、今回資本的な問題が少ない同社への支援はスイス当局は注力し続けるだろう。
最終的にはUBSとの強制合併や国有化なども念頭に入るが、現状はまだそこに至るまでの道のりは長く、当局がうまくごまかしながらの対応が続いていくものだろうと思う。

そういった意味では当局の詰め腹を切るような動きが既に出ていることから、クレスイ自体はともかくとして相場全体への影響はほぼ終了と見てよいと思っている。

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