イギリス中央銀行が出してる金融安定レポートが非常に参考になったのでここで内容を整理がてら共有したいと思う。

<リンク先>
BOEフィナンシャルスタビリティレポート
 
一番大きなトピックとしては足元のコロナウイルス不況により銀行がどれぐらいダメージを受けるかというのを丁寧に前提条件を説明しながら定量的数値を出してきているところにある。
これによるとイギリスのメジャー銀行の中核資本(CET1)は14.8%から11%にまで減少する可能性があると指摘されている。
(資料中ではデスクトップストレスシナリオと記載されている)
さて上記の前提となっている背景は以下の通りである。

・失業率は瞬間風速で10%に到達
・住宅価格は15%の下落
・株価下落は20-25%前提で当初BOEが想定しているストレスシナリオよりもかなり軽め
・政府ギャランティー貸付が続くことが前提
・当初想定していたストレスシナリオでは金利上昇に伴っての経済失速だったが、それとは異なるため住宅価格の下落とモーゲージの不良債権化は従来ストレスシナリオよりも緩和的との見立て
・一方で企業向け・個人向け貸し出しは当初想定していたストレスシナリオ通りの数値を使用。
・企業向けローンの不良債権についてはセクタースペシフィックリスク(観光とか)を厚めに見積もり

以上から想定されること足元の市場というのは、
・コロナウイルス不況による企業・個人へのインパクトはリーマンショックレベルであることは確か
・ただしセクターごとに大きく偏りがあるため、どん底に沈むところとそうでないところの差は比較的大きい。
・金融機関はヘッドライン収益は弱まるが、バッファー量を考えれば今すぐ破綻うんぬんとか騒ぐようなところはさほどなさそう
・CET1の数値が実際ストレスシナリオ通りになると銀行の配当停止になる可能性は非常に高い
・カウンターシクリカルバッファーをゼロにしていればまだならなそうだけど、かなりAT1債の利払い停止が見える水準
・金融機関が倒れることによる不動産の即死はないので、不動産価格の下落はリーマンショックと比べればマイルド

以上はあくまでBOE管轄の範囲でのリスクシナリオであるため、国によって政治による経済サポート・産業構造の違い・所得構造の違い・国民性・為替・金利水準などによってこのシナリオを他の地域にあてはめようとするときは調整が必要である。
ただ概してこのレポートから感じるのは実体経済はリーマンレベルのショックが走っているものの、リスク資産価格はそれと比べれば迅速な政治サポートやここまでリーマンショックの反省による銀行の資本積み増しというバッファーもありリーマンショックの時と比べれば軽いということであろう。

なおAT1債ってなんやねんという方は下記記事を参考にしてもらいたい。

<過去参考記事>

ドイツ銀行がいきなり破産申請をするということは現状ありえない