China's Shadow Banking: Bank's Shadow and Traditional Shadow Banking
BISから中国のシャドーバンキング情勢について分析レポートが出ていたのでレビューしてみたい。
既知のものからなるほどそういうことなのかということまで記載があったので個人的に興味ある範囲だけピックアップしてみたい。
・中国でシャドーバンクが拡大した理由
先進国では一般的にはシャドーバンキングは投信などの投資資金経由で流動性の低い資産に資金が振り向けられていくのが一般的だが、中国のシャドーバンキングは主に銀行が規制回避インセンティブが大きいために発生したものだと報告されている。
主に関係のある規制は自己資本規制、銀行からのローン供給が規制されている業種に対する貸出規制、レバレッジ比率規制回避といったところだ。
・主なシャドーバンクの資金流入フロー
シャドーバンキングのフローとしてまず大きいのはインターバンクを介した融資である。
大手国有銀行は普通にSOE(国有企業)に融資すると100%のRWAを積む必要性があるが、インターバンクを介して中小銀行に資金融通をして貸し出すと25%しかRWAを積む必要性がない。
しかし、昨今中小銀行で大量に不良債権が発生しているというのもおそらくこれが原因で、いくらでもふって湧いてくる流動性に対して、非常にずさんな貸出を中小銀行が行ったせいで不良債権が大量発生するというおなじみにの事象が発生している。
これを考慮すると中小銀行の無秩序なデフォルトは中国の金融システムにシステミックリスクを及ぼす可能性は高いことがうかがえる。
またインベストメントチャネルもシャドーバンキングの大きな資金流入フローの一つである。
第三者金融機関から発行された投資商品に投資し、これを売掛金や売却可能資産としてBSに計上し、RWAを通常の貸し出しより低くするという手法も多用されている。
ただし、いずれの手法もインターバンクについては2015年頃から規制が強化されしぼみ、代わりに盛り上がったインベストメントチャネルについても投資商品を全部オンバランス計上しろとPBOCから2017年から指導を受けており、これが昨今シャドーバンキング残高が減少している理由となっている。
・シャドーバンキングの資金振り向け先
これは前から言われているけど、改めてBISのレポートにてLGFV、過剰供給セクターの企業、不動産デベロッパーに流れていると報告されている。
特にLGFVについては暗黙の地方政府保証があると投資家が認識していることから安易な資金が入っていること、および不動産デベロッパーは中国不動産市場の拡大に伴い資金ニーズが非常に強いことから、この2業種の借り入れが圧倒的に大きい。
現在シャドーバンキングの規模は中国ローン全体の16%に及んでおり、LGFV・不動産デベロッパーの無秩序なデフォルト拡大は中国金融システムのリスクの一つとして影響が大きいと考えられる。
・難しい対応をせまられる中国金融当局
上述のように中国のシャドーバンキングは厳しい金融規制が原因で増加した背景がある。
バブルを抑えようと銀行にいくつも規制をかけても、ある意味クリエイティブな方法でこの規制の網をかいくぐって融資するお金が発生する。
そのため中国金融当局がマネーサプライを抑えようと色々規制強化をしてもうまく効かないどころか、不透明・ALMミスマッチ・集中融資リスクを抱えた当局が把握しないローン増加リスクが増大している。
現在中国金融当局は需要の強いLGFV・不動産デベロッパーに対する融資を抑制させようと色々試行錯誤しているが、これをかいくぐるマネーが出てこないか注意する必要性があるだろう。
規制をかいくぐるマネーが増加するほど当局のマネタリーポリシーが効きづらくなっていく。
・個人的な結論
昨今の中小銀行の不良債権発生元はおそらく2015年まで行っていたインターバンク経由で調達した資金を安易にLGFVに大量融資していたことが原因と思われる。
そして中小銀行の不安定化は直接的にインターバンクに対してダメージを与える可能性があることから、一度当局が包商銀行のベイルインを試したら失敗した原因にもなっている。
それから中国当局はおそらくどんな中小銀行でもベイルインを試すことはできなくなっているため、大手銀を介した救済策を昨今は多用している。
現状不良債権発生元で大きな問題になっているのはやはりLGFVであり、ここに対して当局はどういうスタンスを取るのか、ここが重要な問題になってくると思われる。
また足元はシャドーバンクの量が増加していないので問題ないが、再び規制をかいくぐったシャドーバンク増加によって金融当局の金融政策が効かなくならないかどうかの把握は重要だろう。