村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2024年01月

ZARA創業者の欧米不動産爆買いが示す金持ちの資産購入意欲の高さ

Zara billionaire grabs chance to buy up discounted real estate

経済は口をだす人ではなく、金を出す人で動く。

上記ニュースではファストファッション大手のZARAの創業者がプライベートファンドで積極的に欧米の不動産、特に割安になっている商業不動産を買っているという話が報じられている。
現在多くの市場参加者がなぜ欧米景気がソフトランディングするのかと首をかしげているが、ここに答えがあるのは明白なので、この記事を読んだ所感をまとめていきたい。

ZARA創業者のプライベートファンドは基本的に持株の配当金で構成されているようで、言ってみればコストフリーな資金がたくさんあるということだ。
足下では欧米では厳しい金融引き締めにより、負債コストが高まってしまったことを背景に、多くの不動産会社が負債の返済のために手持ち不動産売却を迫られている。
一般的な景気がショック的に駄目な時は全員が同時に大量の負債を抱えているために、全員が同じように不動産を売ろうとするために買い手が足りず、不動産価格が暴落する。
しかし、今回の景気サイクルでは大量にレバレッジをかけている主体が存在しないために、意外とみんな余剰資金を抱えた状態であり、買い手側は上記のように金持ちが虎視眈々と案件を待っている上に、売り手側も理性的な範囲での売却をしている。

これまで当ブログではSVB破綻以降、こうした負債返済に追われて資産を投げ売りせざるを得ないプレイヤーからBuy the dipで割安に資産を買う流れが報道でたくさん見られていると書いてきたが、上記のニュースもその一つであることがわかる。
世間一般では商業不動産がやばいだーのデフォルトするだーの言われているが、そういう雑音は金持ちが一発でかい資金でそれらを買う意向があればそんな懸念は吹き飛ぶ話なのである。
いくら悲観論者が口では悲観論を言っても経済を動かす力はなく、実際に経済を上にも下にも動かす力があるのは金を大量に持っているプレイヤーと負債を大量に抱えたプレイヤーなのである。
こういった不動産サイクルの流れについては下記過去記事を参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】
住宅不動産価格の先行きを予想するために知っておくべき不動産需給サイクルとは?

そういった観点でこうした割安資産を購入するプレイヤーの続出を見れば、余剰資金を余らせていて足下の景気の軟調さを利用して資産を構築しようという動きは非常に活発なわけで、モルスタのマイケルウィルソンのような悲観論者の話は金を持っている人は完全に無視して行動しており、これがストレートに株式相場に反映されていると見るのが妥当なのである。

金持ちが積極的に資産を購入しているわけなので、そういった意味で個人投資家も基本的にはBuy the dip、押し目狙いで相場に居続けることが今は重要だろうと思われる。

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テスラ決算から考えるEVバブルの終焉

テスラ、24年の成長鈍化を見込む-決算は予想に届かず、株価下落

この分野の高PERはもう許されない。

注目のテスラの決算発表があったが、普通に下振れとなった。
来期の販売見通しも弱いし、マージンもクソミソに下がっており、熱心なファン以外は希望を持てるシナリオがなかった。

【テスラの株価チャート】
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EVについては、当初の先進性に加えて補助金・ガソリンに比べて走行距離当たり電力価格が安かったことによるアーリーアダプター需要によるダッシュが大きかった。
しかし、購入者についてはここにきてEVを買うかどうかというのに二の足を踏む傾向が見られており、なぜそのようになっているかをいくつかの点を交えながら確認したい。

理由の一つ目はメンテナンスコストの高さにある。
EVは従来ガソリン車と比べて搭載半導体数が多かったり、電気系統の複雑さがあるわけであるが、この複雑性のせいでガソリン車であれば部品とっかえの安いコストで済むメンテナンスが、EVだとちょっとした故障が広範囲に影響するため、修理範囲が広がりメンテナンスコストが高いというのが徐々の明らかになってきた。
そのために保険会社もEV向けの自動車保険については値上げをしたり受け入れ拒否などをしており、傾向としては明らかになってきている。

二つ目はメンテナンスコストからも影響を受けているが、中古売却によるバリュエーションの低さである。
メンテナンスコストが高い上に、どれぐらい中古車的に性能が保たれているかのを判断するのが難しいため、中古ではずれを引く確率が不透明であり、アカロフのレモン市場理論みたいになっている。
そこに加えて自動車会社各社が供給をアホみたいに拡大させているため、値下げでシェアを維持するのにいっぱいいっぱいで、新車の値下げが続いている。
そのため、中古リセール価格も下落しており、ここで買うのは得策ではないという見方が広がりつつある。

三つ目が欧州の態度変遷である。
これまで欧州が自国の産業活性化のためにEVを進展していたが、そこに中国が赤字覚悟みたいな価格で
そのため、ここにきて欧州各国政府は中国を利するような策を続けるわけにはいかないということで、EV促進策がフェードアウトしつつある。
EVは補助金なしではさすがにガソリンエンジン・ハイブリッド車と比べると割高なため、これは単純な購入コスト増加につながる。

4つ目が電池の進化の遅さである。
半導体などは進化速度が速いため、供給をバカスカ増やしても進化が早く、リプレースメント需要が高いために需要が常に高いわけであるが、同じようなテンションを考えていたらリチウム電池の進化速度はそれよりずっと遅いことがわかってきている。
そうなると、EVの製造コストのうち半分を占めると言われているわけで、製造コスト削減効果はどうやらそう簡単には実現できないのではないかと疑念を持たれるわけである。

これら4つを合わせた時に購入から見るとガソリンエンジン・ハイブリッド車と比べた時にEVの「購入費+ランニングコスト-中古売却価格」がトータルで高くつくのではないかという疑念を抱くようになった。
これまでは素晴らしい需要成長をしてきたわけだが、このような疑念がついてしまった時点でアーリーアダプター以上への浸透はすぐには拡大しなさそうな雰囲気となってしまい、構造的に需要成長は落ちざるを得なくなったわけである。

こうなると、これまでEVで夢見てきた銘柄の高PERは正当化することが難しくなる。
現在テスラのPERは80倍であり、かつ1年先予想PERも55倍である。
株価位置も3年移動平均線から大して低い位置にもいない。
こういったファンダメンタルズの悪さとPERの割高さを考慮すると、テスラ株を買うなんてのは現在投資の選択肢には入らないと考える。
テスラはまだましな方で、他のEV関連銘柄はもっとひどい事態になるだろうと思う。

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中国株売り・日本株買いのフローは一旦ピークアウトかも

アジア・ジェネシス、マクロファンド閉鎖へ-日本株ショート裏目

大体名前出るとそこがピークだが・・・

上記ニュースはシンガポールのヘッジファンドで中国株ロング・日本株ショートのマクロ戦略を取っていたファンドがポジションが丸焼けになって閉鎖したというニュースである。
このニュースを見た時の自分が感じたことと、投資判断に何か示唆できることはないか今回は考えたい。

ショートができない・あるいはしにくいアジア株をロングして、ショートをしやすい日本株をショートするというのは時々耳にするポジションである。
どうせ日本はデフレで株価上がりにくいし、勢いのあるアジア新興国の方が株価上がるし、下がる時は日本株の方が下がるだろという2000年以降の経験を基にそういうポジションがあるのではないかという憶測はあった。
しかし習近平による中国経済の自爆とデフレを克服しブロック化する世界で優越的地位を取り返した日本経済の回復という過去20年とは全く違う状況になったことから、この戦略は致命的なダメージを負うことになり、上記ニュース記事のように雑で経済を理解していないてきとー運用者によるヘッジファンドは全てを失うことになった。
中国経済の自爆と日本経済の回復については下記過去記事を参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】
中国経済の低成長を招いた原因と再成長に必要な要素についての考察

フラット化する世界の終焉とブロック化する世界

しかし、こういうニュースが出てくるということは、おそらくだが似たようなポジションを取っているファンドは既に全滅し、ポジションアンワインドは全部終わっていると考えられる。
つまり中国株ロングと日本株ショートを同時にしていたプレイヤーの損切逆回転取引はもう終わったのである。
この逆回転取引が、今まで多くの市場参加者が想定していなかった日本株の急騰のエンジンとなっていたわけであるが、それはさすがにもう期待しづらくなっているというわけである。

そういった意味で、以前のコール買いゴリラ買いニュースも合わせると、濡れ手で粟的な日経平均の上昇は一旦ここまでで、休憩が必要だと思う。
じゃあここで日経平均ロングポジション閉じるべきかというとかなり悩みどころである。
チャートの動きと投資家心理諸々を見ながらどうすべきかと悩んだ挙句、個人的には以下の結論で行こうと思っている。

【日経平均のチャート】
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ここまでの日経平均の流れは腐った3万4000円のコールに蓋をされていたところを突破し、3万6000円手前でスケベショートをしたやつが燃やされた相場である。
スケベショートして燃やされたような馬鹿が助かるような相場なのかと考えると、そうはちょっと思えない。
そう考えると下がっても3万5000円を割るような下げの深さはないのではないかと思う。
それに新NISAが始まったが、個人投資家がメインで取っているポジションは米株・オルカンであり、過度に日本株のポジションを取っているようには見えず、無理してロングを取っている人もそこまで多くないように見える。
どちらかというと買い逃したために押し目買いを狙っている人が大量にいると考える方が妥当なように思う。
これらを勘案して押しても3万5500円ぐらいで、その押し幅はせいぜい3%ぐらいではないかと考えて、押したら買いというスタンスを継続で良いのではないか?(心の声)

上記の根拠はテクニカル分析とファンダメンタルズと投資家心理を自分の都合の良いように解釈しているだけなので、当たるかどうかはわからないが、日本株のファンダメンタルズは良好なので、ニュースフローと値動きを併せて見ながらどうするか判断していきたいと思う。

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テックサイクルの底打ちと生成AIバブルの号砲を告げるTSMCの決算

TSMC決算TSMC、10〜12月売上高が前年水準に回復 生成AIけん引

さあ盛り上がってまいりました。

半導体需要を読む上で、TSMC決算は一番決算が早く発表されるため試金石的な扱いを受けており、今回の決算も注目されていた。
そして実際決算の蓋を開けてみると、底打ちとバブルの号砲を告げる内容であったので確認したい。
TSMCの決算内容や資料は下記TSMCのIRサイトに開示されているので、読みたい人は参照してもらいたい。

【TSMCのIRサイト】
https://investor.tsmc.com/japanese/quarterly-results/2023/q4

【2023年4Qの決算関連数値】
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日経新聞の記事でも書いてあったが、2023年は前年比マイナスが続いていたが、4Qの売上高は前年比水準にまで回復し、ガイダンスの上限であったこともあり、これまでTSMCが毎回決算で言及していた在庫調整で出荷が伸び悩んでいる事態が終了したことを示唆するものであった。
実際にこのスライドの後の説明でTSMC側は在庫調整が終了し、Healthyな成長が2024年は期待できると述べたことからも半導体最悪期は終わったことに確信が持てる内容であった。
マージンが随分下がっているものの、これは単に売り上げが伸びなかった影響だけでなく、3nm・2nmへの開発投資費用がかさんだことによるものであるが、半導体企業なんてのは売上成長すればそんな費用は全て吹き飛ばせるわけなので全く材料視はされなかった。

【7nm以下の売上高】
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一番微細化されている半導体製造ラインは基本的にはアップルが使うラインであるわけで、そこが急速に伸びていることから、最新型iPhoneの生産が順調に進んでいることを意味する。
iPhoneについては3年サイクルの循環があると言われており、今年は売れ行きが一番良い循環年であるということもあり、iPhone売れ行きに期待が持てる雰囲気がある。
よくよく考えるとコロナ禍のリモートワークバブルが2021年であったことを考えれば、2024年には一サイクルぼちぼち回るやろと考えるのは自然な内容であると思われる。

決算のコメントではスマートフォン・パソコンのリモートバブルが終わった後の底を通過して在庫調整が終了したことから、従来分野向けの半導体生産が回復することに加えて、やはり生成AI向け半導体(まあエヌビディアのGPUなんですけど)の生産が活況であるというコメントもしっかり説明された。
しかも生成AI向け半導体の製造だけでなく、フロントエンドやバックエンド用の半導体需要にも良い影響があることに言及し、アナリストの説明に対してはあなたたちが思うよりずっとAI関連向け半導体需要は強いことを説明しており、非常に強気であることがわかる。

【2024年1Qのガイダンス】
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2024年1Qの売り上げ予想の時点でクソ強気である。
上記スライドでは2024年1Qの売上高予想が180~186億ドルと予想されているが、2023年1Qの売上高が167億ドルであることを考えると10%手前ぐらいの年間成長率であり、底打ちからの成長回復への自信がはっきり読み取れる内容であった。

この内容でPER18倍台は普通に安いだろということで、決算後は株価が上にジャンプした。

【TSMCの株価チャート】
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そしてこのTSMCの株価上昇は広範にテック銘柄にプラスで働いた。
TSMCに半導体を生産委託しているアップルやエヌビディアなどは普通に考えればTSMCが好調であればこれら企業も好調なわけで、ナスダックも釣られて高くなった。

というわけで過去にChatGPTが登場した時に書いたブログ記事はまさに的を得ていたわけで、引き続きポジションを引っ張りたいと思う。

【過去参考記事】

ChatGPTなど対話型AIバブルがスタートの予感



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みずほリサーチの2026年末2.75%の日本の政策金利予想は過大評価



机上の空論に近いので参考程度に留めるべきだろうと思う。

Xで何やら日銀の金融政策について2026年までに連続利上げが行われて住宅ローン変動金利が4%になるというのがみずほリサーチのレポートで出ているという話が話題になっていたので、これを少しレビューしたい。
レポート自体は下記リンクになるので、興味ある方は元資料も併せて見てもらいたい。

【みずほリサーチのレポート】
https://www.mizuho-rt.co.jp/publication/report/2023/pdf/report231121.pdf

このレポートの中で、様々な条件が付くものの、インフレ率2%がもう定着することを前提に2026年までに年4回・0.25%ずつ利上げされ、最終的に2026年末に政策金利が2.75%になるというレポートをぶち上げてきている。

【みずほリサーチの政策金利予想】
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これについては、どういう計算でこういう結論になったかをまず確認すべきだろう。

【政策金利予想の根拠】
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レポートの根拠としてはこうだ。
米国などでは中立金利については、潜在成長率+予想インフレ率が当てはまるのではないかと学術的には言われており、これを基に米国の予想インフレ率が2%・潜在成長率が0.5%とし、併せて2.5%を中立金利(いわゆるアールスター)としているのが今のところFRBメンバーの大半の意見である。
そして上記レポートでは同様に予想インフレ率2%と潜在成長率0.8%として、2.8%という中立金利を導いている。
しかしこの前提を米国で考えた時に、日本に当てはめるといくつかの疑問が湧く。
米国ぐらい消費が強い国で予想インフレ率2%+潜在成長率0.5%で2.5%の中立金利が想定されている中、日本の予想インフレ率が2%・潜在成長率0.8%とするのはいくらなんでもやりすぎではないかとなる。
なので、まずこの予想インフレ率と潜在成長率の見積もりが過大すぎる可能性がある。

さらにみずほリサーチの結論の雑さが際立ったのが、下記スライドである。

【みずほリサーチの各種予想】
タイトルなし

政策金利が2026年度に2.8%になったとしよう。
その時に普通預金金利は0.4%で、住宅ローン変動金利は4%というのは普通に考えるとあり得ない前提である。
仮に住宅ローン変動金利が4%ということは、中小企業にも最低でも4%で金を貸すということになる。
(実務的にはもっと高い金利での貸し出しになる)
その時に預金金利が0.4%ということは、銀行の利ザヤ・NIM(ネットインタレストマージン)は3.6%も抜けるということを意味する。
今日本の大手銀のNIMはおおよそ0.8%程度であるわけだが、これが3.6%になるということを示唆する。
単純にNIMが4.5倍になるわけだが、いくらなんでも荒唐無稽にも程がある。
さらにこんなNIMを徴収したら、中小企業がバタバタ潰れるのは簡単に予想できる話で、ようやくインフレマインドが醸成されている中であっという間にデフレマインドに戻ってしまうだろうと思う。
さらに言えば政策金利2.75%に対して住宅ローン変動金利4%って利ザヤが1.25%もあるが、足下で住宅ローン変動金利競争は過熱していて、利ザヤ0.5%以下でみんな提供していることを考えれば、政策金利2.75%で住宅ローン金利が4%になるという考え方も実状が見えていない。

こうしたことを諸々考慮するとこのレポートの目的は銀行株を買ってねというのをアピールする目的だけに存在するものであり、これを真に受けること自体が馬鹿らしいなと思う。
特にこういうリサーチ・シンタンク系でかつ学術派的な人は理論に偏りすぎていて実経済について疎いがために重要なポイントを外すということはありがちである。

個人的には本当に日本が利上げできるとしても、予想インフレ率1%+潜在成長率0.3%(いずれも米国の半分)として1.3%と見積もるのが妥当だろう。
しかもこれは2026年という早い段階で達成できるとも考えにくいわけで、全ての基準となる米国に対してきちんと比較せず、数字お遊びで作成したレポートなのかなという感想しか出なかったので、これを真に受けてリスク資産のポジションを落とすということをしないようにしたいと思う。

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