村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2023年11月

日銀の拙速な金融緩和修正観測のフェードアウトで銀行株の投資妙味が薄れつつある

投資家「おなかいっぱい」の銀行株、強気過ぎた反動-買い継続の声も

さすがにもう銀行セクター投資妙味は相対的に低くなってそう。

今年は日本の銀行セクターが大正義的な相場になっていて、かれこれバブル崩壊以降全く日の目を見てこなかったセクターが大相場をかちこんできたことで、多くの投資家は虚をつかれる形となった。
個人的にも高配当株ETFで一部はカバーしていたものの、銀行セクター自体にはしっかりロットを張っていなかったこともあり、かなり虚をつかれる形になった。

【銀行業ETF(1615)のチャート】
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そして、ここもと日本株について高配当株が注目される中で、銀行セクターに注目する言説をするYoutube動画を投稿する人もかなり見かける中で、さすがに日本の銀行セクターについて投資妙味ここからどうなんよという感触を持ち始めてきたので、まとめていきたい。

まず、日本の銀行株が買われている理由を振り返りたい。
これまで銀行株の上昇は日銀が金融緩和について修正をどんどんかけていくことによって利ザヤが改善していくことを大前提としている。
特に日銀が既にYCCについて10年1%に対しても柔軟姿勢に変更したことから10年JGB1%超えが起こることさえ前提にしているように思われる。
またインフレに伴い、これまでほとんどの銀行株がPBRが0.5倍以下で放置されていたことから、これは超お買い得だし、東証のPBR改革指導もあるからとして、PBR是正が働いてこれまで上昇してきた。

しかし、直近になって米債金利が大きめに低下していることによって、JGBの金利上昇・日銀の金融緩和修正観測に対するコンフィデンスがやや揺らいでいるように個人的には思う。
そもそも米債金利自体が9月FOMCのドットプロット公開以降、FRB3名のタカ派芸人によってマニピュレートされて金利上昇されてきた側面が大きく、実質金利2%以上というのは過剰貯蓄の消滅や米国政府の長期債発行が想定より低かったことを考えると維持できる見込みは低いと思われる。

【米国10年債金利のチャート】
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そしてJGB10年1%は米国の実質金利2%以上を大前提としている感触が大きく、既にJGB10年金利が0.75%前後にまで低下しており、かつこれから銀行勢が定期預金利率を引き上げてこのゾーンにどんどん投資資金を回そうとしていることを考えるとこれまでのような勢いでの金利上昇可能性はかなり低いのではないかと考えている。

【過去参考記事】

日本国債10年に投資するために定期預金をかき集め始めた邦銀


またこういった中でYCCブリーチされる展開がフェードアウトし、ドル円も落ち着きつつある中で、拙速的に金融緩和修正かける可能性は以前よりも低下していませんかねという疑念も湧き上がってくるのは自然な話だろう。

そういったことを総合的に考慮すると、既に邦銀メガバンクのPBRが0.7~0.8倍ある中で日本銀行セクターの投資妙味ってどうなのよという話になる。
もちろんすぐに下落する・暴落するなんてのは思わないが、はたして市場の中でアウトパフォームし続けられるセクターかどうかと問われるとやや疑問ではないかと考えるようになっている。

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労働組合と揉める米国企業の株価はパッとしない状態が継続

IAM Healthcare launches campaign to unionize retail pharmacy workers

労働組合と揉めている企業は避けたい。

ここもと米国内ではいくつかのセクターで企業と労働組合の対立が激しくなっている。
特に低賃金・長時間労働セクターでその流れは顕著になっており、労働組合側は企業側が人材不足で容易に従業員を追加で雇えないことを熟知しており、ストを起こすといった強硬策に打って出ている。
その代表格が今回注目されている薬局店企業の従業員によるストである。

このように労働需給について緩和傾向で推移しつつあるとは言え、過去と比べれば相対的には強い状態が続いている中で、これまで労働組合を結成してこず不安定な身分な状態が続いていた労働者が組合結成や大規模抗議活動に出るケースが増加しつつあり、今まで労働組合を認めてこなかった低賃金セクターに所属する企業は先行きについてやや警戒が必要なように思われる。
その代表格が上記ニュースではCVSとウォルグリーンであり、この辺の株価はオピオイド訴訟の件も考慮する必要性があるが、非常にパッとしない。

【CVSの株価チャート】
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薬局チェーンなんてディフェンシブ中のディフェンシブ銘柄のはずなのに、それでも上から下まで3割近く株価を持っていかれているところを見ると、かなり対立は激しいと考えるべきなんだろうと思う。
(金利上昇も影響もあるだろうけど・・・)

そのため、米国株でも労働組合が結成されて賃上げ交渉が入ると経営的に厳しくなるところは避けたいところである。
そういうことを考えると、そういう企業って他にどこあるかなあと考えると、やはり真っ先に思いつくのはスターバックスである。
スターバックスと労働組合のバトルは上記薬局企業以上に激しい攻防戦が繰り広げられているのは有名な話で、ESG投資家からもこのスターバックスと労働組合のバトルについては、スターバックス側が折れるべき的な形で抗議したりというのも見られている。

【スターバックス】
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株価的にはかなり戻してきているものの、先行きについては楽観視はすべきではないのではないかと感じる。
その他GMやフォードなどの米国自動車メーカーも労働組合との闘争が激しくなっている中で株価は非常にさえない動きであり、どうやら米国では労働集約的な銘柄の株価については本当に大丈夫なのかというのをあらためて考えた方が良いのかもしれない。
まああれだけ米国労働者の賃金が高い状態なら、そんなことは普通に思いつく話で、相対的に人件費コストの軽いセクターに投資すべきだろうということはなんとなくすぐに頭に浮かぶ話だと思う。
(逆にそういう業種は日本企業に投資すべきではなかろうか)

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中国政府の新しい不動産企業支援策はポーズだけで実効性なしな予感

中国、不動産危機打開へ取り組み強化-66兆円強の資金不足との試算も

不良債権出したら粛清されるのに、言われただけではたして貸すのかな? 

上記記事では、中国政府が不動産バブル崩壊について新たな支援取り組みを実施し始めるかもしれないという内容が報道されている。
内容としては今回政府のお墨付きである資金調達支援の対象とする不動産開発会社50社のリストを最終決定し、銀行はリスト入りした不動産企業に融資するよう政府が指導するという内容だ。
この報道を受けて、リスト入りしそうな大手不動産企業の株価は一時的に上昇したが、この政策は本当に効くかどうか個人的には疑問なことを今回はまとめていきたい。

現状の不動産企業は、新規販売契約が過去ピークから半分以下となっている中で、右肩上がりで販売数量が増加することを前提とした大量の有利子負債の返済や買掛金の支払い期日が迫り、結局払えず次々とデフォルトし、市場に無秩序に現金化できない在庫が放出され、不動産価格が下落し、デフレを引き起こしているということにある。

そのため、問題を解決するには、不動産企業に対して新規の資金融通が必要なのである。
それを今回中国政府は銀行に融資させることによって問題解決しようとしているわけである。
そうなると問題は銀行が不動産企業に本当に金を貸すかどうかというところになる。
確かに今回政府のお墨付きである資金調達支援の対象とする不動産開発会社50社のリストを最終決定するとして、傍から見れば支援しているように見える。
しかし、問題は資金調達支援の対象とする不動産開発会社50社に指定されたからといって、それは言葉遊びに過ぎないのではないかという疑念がぬぐい切れないのである。
去年11月に一度中国政府はState Guaranteeで不動産企業に債券を発行させるスキームを実施し、この時に債券を発行できた不動産デベロッパーは政府のお墨付きをもらった企業として認知されたために、かなり安堵感が漂った。
しかし、気づけばこのスキームがいつの間にかフェードアウトし、この時資金調達ができた不動産企業も次々と再びデフォルトするに至った。
一度梯子外しという最悪の選択肢を中国共産党は取ってしまっているのである。

そうなると、銀行はこの支援対象リストを見せられたからといって、おいそれと不動産企業にはたして金を貸すのかということである。
そもそも大手銀行はこれまで不動産企業への直接的な貸出は少ないということを声高に言って、体裁を保ってきた。
そしてこれまでずっと銀行はPBOCをはじめ、政府当局から不動産企業に融資しろと要請されたが、これを全て無視してきた。
なぜなら、不動産企業のレバレッジ度合いと状況の悪化具合を見ていれば、一度貸せばすぐに不良債権になるか、本当に地獄の底に付き合うまで追い貸しするかの2択しかないからである。
さらに、仮に大量の不良債権を出して、中国共産党に資本注入される事態にでもなれば、下手すると習近平による粛清を受ける可能性がある。
この粛清は単に職を辞めさせられるだけでなく、拘束・逮捕されたり、あるいは文字通り処刑される可能性さえあるわけだ。
そのような時に政府が自腹を切らない形で銀行に金を貸せと要請しても、少しでもデフォルト懸念があるようであればやはり金は貸せないとなる。
結局、デフォルトしても全てを中国政府が補償するか、中国政府自体が融通資金を手当てするかといった何かしらの自腹を切る形での対応をするしかない。

しかし、そこで最大の邪魔になるのは習近平のスタンスだ。
習近平は究極的には政府による救済でモラルハザードは避けるべきということに固執している。
そのため、政府が金を出す=モラルハザードを助長するという思考になってしまっているため、結局今回の支援策も全く中国政府が自腹を切らない形になる可能性が高い。
そうであるなら、銀行はトップが自分の命を危険に晒すような不動産企業への追い貸しなど応じるわけはないだろう。

ということで、論理的に考えれば、今回の支援策で中国政府が自腹を切る形の支援策というのであれば効果はあるが、そうでないならば結局中国政府が単に外面だけポーズを決めているだけで、何ら経済的に実効性のある策ではないという認知がされ、再び中国・香港株は世界の株価の中でひたすらに劣後する存在であり続けるだろうと考える。
結局中国政府がもうなりふりかまってられないという状態になるまでは、下記過去記事のような状況は続くだろうと推察される。

【過去参考記事】
日本の不動産バブル崩壊から底打ちまでを振り返り、中国不動産バブル崩壊の先行きを考える

中国不動産バブルの発生・崩壊した原因のおさらいと今後どのように後始末が行われるかの考察

これから中国が長いデフレに苦しむ理由


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サウジアラビアの原油減産が限界を迎え始める

EARNINGS Oil giant Saudi Aramco’s profit slides 23% in third quarter on lower crude prices, volumes

サウジアラビアがブチギレ。

市場では米国のインフレ再燃は原油価格高騰によって引き起こされる可能性というのが、未だに議論されている。
しかし、原油価格変動や原油市場の報道やをいくつか見ていると、このシナリオはどうやら既に妄想の領域に入っており、破棄すべきシナリオだと思うようになってきたので、それについてまとめていきたい。

【WTI原油価格のチャート】
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原油価格高騰のシナリオが実現するには、中国景気の回復orOPEC+の原油追加減産のどちらかが必要な状態である。
しかし、このうち中国景気回復は当ブログの読者はご存じの通り、全く目途なしである。
そうなると残るシナリオはOPEC+の原油追加減産で、これは最もLikelyなシナリオの一つであった。

しかし、最近のサウジアラビアの状況を見ると、本当に減産できるのかという疑問が湧いてくる。
その理由はサウジアラムコの利益水準にある。
上記ニュース記事によると、サウジアラムコの純利益水準は前年比マイナス23%となっていると報じられている。
単純に原油価格が前年度より下落したというのもあるが、これまでに生産量を1割近く落としてきたことによる販売数量減も相当影響として大きいのが下記資料からもわかると思う。

【サウジアラムコの決算プレゼン資料】
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https://www.aramco.com/en/investors/reports-and-presentations

これまで原油需給が非常に良かったことを背景にサウジアラビアとロシアは自主的減産を先導し、OPEC+全体としても減産を表立っては行ってきた。
しかしOPEC+の中でも各国の経済状況というのは相当ばらばらであり、原油が高いうちに売って自国の財政の補填を行いたいというインセンティブに駆られている国が減産破りをしているのは常識中の常識である。
それでもこれまではサウジとロシアが減産を先導してきたことによって、うまい具合にコントロールしてきた。

しかし、上記資料でもわかる通り、既にサウジアラムコの利益水準は前年比マイナス23%となってきており、市場予想は超えているものの、これ以上減産してしまうとますます利益水準は厳しいものになり許容できない水準に差し掛かってしまう。
こういったことを背景に、サウジアラビアが他のOPEC+諸国に不満を爆裂させたことから、11/25~11/26に予定されていた会合は延期となった。

なので、こういった事情を考えると実はサウジアラビアの自主追加減産についてはかなり限界が来ており、そのせいでOPEC+がもめ始めると考える方がメインシナリオになるだろう。
ロシアも相変わらずウクライナとの戦争が続いている中で、資金が必要な中でこれ以上自分だけ減産はしたくないというのが本音だろう。
こうなるとOPEC+の原油追加減産のシナリオは実は相当見込み薄ではないかと思う。
つまり、OPEC+がさらに追加減産をかちこんで原油価格が暴騰し、アメリカのインフレが再燃して追加金融引き締めが必要になり相場が壊れるというシナリオはほぼ実現する可能性のないものとして認識すべきではないのかということだ。

もちろん、これまで過去8年近くにわたって油ガス開発投資は原油価格暴落で停滞してきたわけで、根本的な需給は2014~2020年と比べればずっと引き締まっている上に米国の石油の戦略備蓄の再補充の必要性があることを考えればここから無差別に原油価格が下落するわけではないが、だからといって原油価格がここから斜め上に高騰してインフレに影響与えるレベルにまで価格上昇するかと言われると、その可能性はサウジの苦しさを考えれば追加減産かちこんで原油価格をフレアさせるほどの決断はできないだろうということで、金融政策を決める当局者にとってはかなりありがたい変動となるだろうと思われる。

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現在起こり得るバブルをおさらい

足下の投資テーマを振り返る。

かれこれ株価が底打ちしてから1年ぐらいが経ってきているが、だいぶ皆が熱中してきているテーマが見えてきたので、少しここもと個人的に興りそうなバブルを3つおさらいしていきたいと思う。

・AIバブル

これはもはやここで述べる必要性がないぐらい、多くの投資家が認識しているものであり、ChatGPTによる生成AIから始まったバブルである。
現状はまだAIを動かすための設備投資がメインであり、だからこそエヌビディアはここ2回の超絶良好な決算を叩き出している一方で、まだ他への広がりは少ない。
しかし普通に考えれば、まだこのバブル自体は今年の2月に始まったばかりで、本物であれば設備投資→サービス提供会社→ソフトウェア会社とかなりの時間差を置いて発生するわけであるので、現在のマイクロソフトなどの米国大手IT企業の設備投資の本気度を考えると、現時点でこのバブルは終了と考えるのは早計ではないかと考えている。

・プライベートクレジットバブル

これも一部では知るところであるバブルである。
一般的に米国という経済は資金の需要が圧倒的に大きい世界であり、日本のように銀行は資金を余らせていない世界である。
そのような中、SVB破綻以降、米国の銀行規制は厳しくなる予定で、これによって米国の銀行は貸出を抑制してきた。
これによって多くの米国企業は資金繰りに困って窮乏すると見られていた。
しかし、その間隙を狙ってプライベートクレジットファンドのプレーヤーが、運用難となっている生保やSWFから変動金利+スプレッドの収益を狙えますよと運用資金を募り、これを直接資金繰りに窮した米国企業に貸し付けるビジネスを大々的に行うようになったことは、これまで当ブログでも取り上げてきた。
この流れ自体が、今年の米国株式相場を牽引しているものであり、そういった意味では足下で株バブルとか多くの人が言っているものの元凶ともいえる存在だ。
このことを考えると、このバブルはこれから本格化していくと思われる。
銘柄としてはブラックストーン、KKR、カーライルなどが代表的だろう。

・インドバブル 

3点目がインドバブルである。
これも当ブログで書いてきたが、もはや中国がサプライチェーンとして全く信用できない中、安いサプライチェーン候補がもはやインドしか残っていないのが世界の現状である。
そのため、「巨象」と呼ばれ、その動き方が非常に遅いインドに頼らざるを得ないわけだが、それはインドに対して実力以上の投資マネーが入ってくる可能性があることを示す。
これはまだ上記2つと比べると、シナリオが成就しないリスクが結構思いつくわけで、個人的には確信度はやや上記2つのバブルより低い。

このように現在次に起こる可能性のあるバブルについてはなんとなく片鱗が見えている感触が個人的にはしている。
また、今回の相場はリーマンショック以降過去14年近くなかった「インフレ経済」であることは下記過去記事でも書いてきた話である。

【過去参考記事】
デフレからインフレへなぜ世界は大きくレジームチェンジしたのか?

そのため、明らかなレジームチェンジとともに、2009~20221年のデフレ下経済の時には話題にもならなかった投資材料ネタが注目されてきていることは、ここ1~2年のエネルギーセクター、日本の商社株・日本の高配当株・日本の銀行株が高騰していることからもうかがえる。
そのため、必ずしも上記3点だけがバブルになると思わず、ピンポイントでバブルを狙うよりも、いくつも思いつく投資ネタにバサッと投網するぐらいのおおざっぱさでもいいのではないかと思っている。

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