村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2023年10月

本格的金融引き締めはしたくない雰囲気な日銀金融政策決定会合

日銀植田総裁、物価2%「十分な確度で見通せない」

リリース文章だけ見ると一休さんかな?と思う。

注目の日銀の金融政策決定会合についての発表と記者会見があったので、内容を確認していきたい。

【YCCの柔軟化スライド】

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https://www.boj.or.jp/

一瞬YCCの柔軟化という速報を見て新しい上限幅みたいな設定されるのかと思ったが、10年債上限1%というのを「1%をめどに機動的に対応」という1%というのは絶対的上限にはなっていないが、オペをかけていく際は1%をめどに実施していくという、とんちのような内容となった。
そういった意味では上限が1.25%とか1.5%とかの数値に変更されるといった内容ではなかったということもあり、市場参加者から見ると引き続きハト派っぽい姿勢だという風に読み取れるように思われる。
日本人だと一休さんという話でこういうとんちっぽいものでも、まあそういう考え方もあるよなあみたいな形にもなるが、外国人から見るとなんとも難解な日銀文学に見えるようには思う。

また記者会見において、物価見通し引き上げについて2024年の分については輸入物価上昇によるものであり、日銀が金融引き締めの判断としている賃金インフレについては2025年の分に若干織り込んでいるものの2024年では主要因ではないとして微調整以外の金融引き締めについては否定する形となった。
そういった意味でYCC柔軟化については言及はしていないが、実質的に2024年の物価見通し引き上げで、そのうち10年債金利1%をブリーチされる可能性があるとして先んじて柔軟化したように思う。
記者会見でも追い詰められてからYCCの修正では遅いという形で説明している。

日銀としては金融緩和はしっかりと続けたいが、長期金利については市場へのお任せ度を増やすという形で長期金利が一定上昇するのは許容するが、中小企業の借入コストに影響が出る短期はなるべく持続的に低い状態を続けたいという認識なのだと思う。
この辺は下記過去記事で言及しているので参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】

日銀のプラス領域での利上げはまだまだ遠い雰囲気


結局短期金利は低いところで抑えられ続けるから中小企業や一般庶民への影響は避けながら、イールドカーブが立つので銀行にとっては良し、為替も一応最低限のケアはしていてあとはFRBの利上げ打ち止め宣言待ちみたいなステータスになっている。
そういったこともあり、前日はYCCの変更報道でやや円高に傾いたが、再び150円前後を挟む形となった。
また株価全体も上昇したが、引き続き金融緩和修正期待はあるよねということで銀行株が買われる展開となっていった。
 
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世論と国際的雰囲気を感じ取り、熱が若干冷えているイスラエルの地上軍侵攻作戦

【イスラエル】軍が二夜連続で限定的な地上戦-空爆も続ける

イスラエル政府は難しい舵どりを迫られる。

ここもと3週間ぐらいはいつイスラエルの地上戦が始まるのかという懸念が続いている。
当ブログではこれまで書いてきた通り、興奮するイスラエル右派に対して、米国がちょっと待ったをかけた上に、米国世論・政治家の間でもイスラエルに全面的に味方するという雰囲気から一歩退いている状態となっている。

【過去参考記事】

イスラエルーガザの武力衝突をなんとか地域紛争に収める努力をする米国

さらにどうやらイスラエル世論も少しずつ変わってきているようで、ANNニュースなど見ているとイスラエル世論で当初60%近くが地上軍の即時侵攻に賛成としていたのが25%にまで減っており、待った方が良いという意見が50%近くになっているということである。
イスラエルというのは四方を敵に囲まれている国であり、世界からどう見られているのかをとかく気にする国である。
(この辺は世界からどう見られているか全然気にしないアホロシアや中国とは訳が違う)
特に米国からの支援なしでは立ち行かない国であるわけで、米国世論も敏感に状況変化を察知している。
そもそもハマスをせん滅といっても、その代表はカタールにいることに加えて、イデオロギー的組織ということもあり、仮にハマス構成員の大多数を殺害できたとして、イスラム原理的イデオロギーの新組織が台頭することは目に見えるため、基本的に不可能だと見る向きが増えている。

一方でこのまま何もしないとなると、ネタニヤフ政権の支持基盤である右派からの突き上げが厳しく、政権維持が難しくなるという国内事情も抱えている。
そのため、北部を中心とした空爆と、北部先端部分に非常に限定的であるものの地上軍投入をしてハマスへの攻撃を実施しているようだ。

しかし、この地上軍投入は当初専門家が懸念していたような四方からの全面的地上軍投入の規模からすればほぼしていないも同然のような規模であり、米国もこれについては黙認している。
さらにネタニヤフ政権はこの地上軍投入を1回目と称し、第二弾があるとまるで大決断をしたかのようなアピールをしている。
それに地上軍を全面投入して仮にガザ地区を占拠したとして、そこにいる人口200万人近くをどう養うのかという大きな問題もある。
こうしたこともあり、週末の度にイスラエル-ハマス間の地政学リスクと言われたりするが、やはり相場への影響はもうそろそろなくなるものと思われる。

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日本初のグローバルサウスファンドを見た感想

日本初のグローバルサウスを投資対象地域とする 公募株式ファンドの募集・設定のお知らせ

これはさすがにマーケティング重視しすぎて、実態が疎かすぎないか?

ニュースを見ていたら、SBIアセットが日本初のグローバルサウスを投資対象としたファンドを設立ということで、中身を見てみることにした。
しかし見た感想としては、「よくこれでGOサイン出したな・・・」と思えるほどコンセプト重視の雑なファンドであることがうかがえた。
それについて書いていきたい。

まず投資対象国を見ていくと、いきなり大胆に中国を投資対象国外にしている。

【投資対象地域】
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当ブログではずっと中国批判を繰り広げてきて、実際にその通りに中国株相場はグダグダな状態が続いているが、そういったことを配慮してグローバルサウス株式ファンドと銘打った場合に思い切って中国株・香港株を外すことにしたようだ。
しかし、一人当たりGDPが同程度のマレーシアが入ってて、中国が入ってないのは普通に考えると恣意的な外し方と見られるが、これはマーケティング上はまあしょうがないかなという感じがある。

そしてグローバルサウス株式ファンドの構成候補国を見ていくと、「きっつ」という感想しかでない構成国である。

【GDP構成比率】
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まともな構成候補国はインド・ブラジル・メキシコ・インドネシアぐらいまでで、構成国の中にはイラン・バングラデシュ・イラク・アルゼンチンなどまともに現地通貨を触ることさえ躊躇われるような国が多数入っており、バリュエーション計算が困難だと思えるようなやばい国が多数入っている。

ちなみにこの構成国を見ると、インドとかブラジルとかは普通に生株触って対応できるが、問題はまともに市場が機能しているかどうかも不明な構成比率3~4割ぐらいの国の株式である。
キューバやらイランやらバングラデシュなど、投資事情に詳しい人でもその国にどういう銘柄があるのか知らないし、そもそも自由に売買できるのかとか、現地通貨をハードカレンシーに両替することが可能なのかどうかさえ不明な国が多数いる。
そいつらにどう投資するのかなあとさらにスクロールして見ていくと、なんとiSharesのETFを使ってポジションを取るようである。
つまりこのファンドは実質的にファンズオブファンズの形式を取っており、このファンドの運用自体は単に既にこの世に存在するETFを購入しているだけで、さらにETFを購入しているだけなのにそこに信託報酬をもらうという形で運用費用はマシマシという形式である。
ちなみに米国上場のフロンティア国ETFは規制が強い国であるほど、参照指数に対して乖離率が強くなっていく。

こうしたグローバルサウス株式ファンドと大々的に銘打ったファンドであるものの、その中身というのはそもそも債務も返済できないようなクソみたいな産業のない国が多数混じった上に、運用実態は既存ETFでのポジション構築という全く運用会社側が汗をかいていないファンドである。
このファンドを触るぐらいだったら、有望だと思える国を一本釣りで米国上場ETF触りにいく方がよっぽどマシだろうと思うので、ちょっと随分雑なマーケティングしたなと感じる次第である。

あと個人的にはグローバルサウスといった中で、投資対象候補になりそうな国というのはせいぜいインドぐらいで、正直他の国々は投資に値しない国しかないなと思っている。
 
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ニデック決算から電気自動車関連の高PERは許されない地合いを感じる

ニデック株が15年ぶり下落率、車載は「中国一辺倒」から脱却へ

地獄の釜の蓋は既に開いているような・・・

EV向けモーターで鼻息が荒いニデックの決算について、個人的には気になっていたので決算説明会を確認していたのだが、今回は少し永守CEOの元気がない・歯切れが悪い感触を抱いた。

これまで永守CEOは「EVは新興国で安価で爆発的に普及する!そこで積極的に量を取っていく!」と決算説明会で息巻いていたのが、今回の決算では「赤字で叩き合いにならないように、きちんと採算が取れる値段で商品をだし、価格目線の合わないお客は断る」とトーンダウンした。
これまでは量を追うため・競争に打ち勝つためにとにかく先行して顧客を取りに行く・そのために供給力投資はガッツで行うという意向が非常に強かったわけで、これまでの方向性から180度とはいかないが90度ぐらい曲がりつつあるように見える。
このことは、普通に考えると中国のEV市場成長率は下がり、ニデック自体も供給力拡大のペースを落とさざるを得ないことを意味する。
また、現在の中国EV市場の成長率は持続不能で、これから成長率が落ちていく中できちんとしたプライス交渉できない客はどのみち潰れるから取引先からは打ち切るという方向なのだと思う。

永守CEOの後の説明でも、中国EVで価格破壊が起こっていると説明しているが、別にこれはイノベーションが起きたことによる価格破壊ではなく、単に需要に対して供給多すぎて皆価格を下げざるを得ないという自爆パターン・株主価値の毀損と考えるべきだろう。
さらにこのEV競争についてはまだ始まったばかりという説明もしていて、この分野は当面触りたくないなと感じた。

しかしニデックの現PER50倍・予想PER約20倍はEV関連成長を多く含んだバリュエーションであり、市場参加者の頭の中はバラ色のEV市場の劇的な成長の継続を前提としていた。
しかし、その急先鋒であるニデックが実質的な量を追わないという宣言とともに、その期待は長期はわからないが、短中期的には打ち砕かれたと考えるのが妥当だと思われる。
普通のモーター屋だと考えれば予想PER10~15倍ぐらいが妥当と考えると、ここからさらに2割近く下落する可能性さえ視野に入る。
実際にニデックの株価は決算説明会後急落しており、当然の結論だろうと思う。

【ニデックの株価チャート】
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EV向けバッテリー最大手のCATLの株価でさえ足下不調で、明らかにEV市場の成長率が落ちるのに対して、供給側の脳みそがお花畑であることは確実だろう。
(そういった意味ではまだニデックは考えの切り替えは速いと思う)

【CATLの株価チャート】
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そして競争を始まったばかりとニデックIRが説明している時点で、誰もこの後巨額減損が出ることなど頭にない一方で、市場参加者は誰が生贄になるのかを見て淡々と株を売っているという流れになりそうだ。

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ハト派的タカ派で安心感が醸成されたECB金融政策決定会合

ECB、利上げ見送りを決定 インフレ鈍化で11会合ぶり

ハト派的タカ。

注目のECB金融政策決定会合があったので内容をまとめておきたい。

市場予想はそもそももう先行きの追加利上げ確率はほぼゼロであったが、実際に政策金利は据え置きとなった。
記者会見の中でもインフレはまだ高くて、現状の政策金利は適切、先々もデータディペンディングで決めていくとこれまでの焼き増し的な説明となったが、景気は弱く推移していく見込みであると、ようやく後追いECBがはっきりと認識できるほど景気は抑制的になっていることをはっきりとさせた。

前回の記者会見では「まだ利上げは終わっていないかもしれない」と言っていたが、今回は一切そういった話はなく、利上げはもう今後一切ないという考え方で問題ないほど、「経済については弱く推移する見込み」と連呼していた。
記者からの質問もおもに金融引き締めによる景気ダウンサイドの方であり、インフレアップサイドの話は一切出なかった。

また、PEPPと銀行最低準備金については議論しなかったと説明した。
一部ではPEPPの再投資を前倒しで終了するのではないかと危惧する向きがあったが、会見であれだけ景気が弱くなりつつあると表現していて、高金利政策を取っている中でPEPPの再投資を前倒し終了したりしてイタリア債金利などがジャンプされると困るという感触が強かった。
今回の記者会見の中で、これが一番の収穫だったのではないかなと思う。
PEPPは2024年末の利下げが行われる段階になってから実施されるとバランスを取った形での再投資終了になるだろう。

総合的に見れば、現在の経済抑制的な政策金利水準はインフレの実際の落ち着きが見えるまでは続けるものの、ECBの利上げはこれにて完全終了し、PEPPの再投資前倒し終了などQTの加速も市場に配慮したくないとハト派的なタカ派だったと表現できるだろう。
政策金利は当面変わらないものの、市場参加者が見るべきなのはインフレ率がいつ頃落ち着いてくるかであって、インフレ率がこれ以上あがるのではないかと恐れる段階は欧州については終わり、ECBの金融政策についてもかなり予見しやすい形に変わったので、これで債券市場の重しは一つ取れたと評価できるだろう。

月末に日銀の金融政策決定会合が控えているが、最大の鬼門はやはり11月1日のFOMCであり、ここでもハト派的なタカ派に転じてくれるかどうかが重要な局面となってきている。
最近の欧州金利も独自要因で動いているというより、明らかに米金利で動かされているので、とにかくFRBの利上げ打ち止め宣言が相場のキーポイントになってくるところである。

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