村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2023年08月

株価上昇には時間がかかりそうな雰囲気を示すエヌビディア決算とジャクソンホール会議後株価動向

FRB議長「適切なら追加利上げ用意」インフレ率高すぎる

材料自体はほとんど無難に乗り越えたが、株価上昇には時間が必要そう。

8月後半の最大イベント材料としてエヌビディアの決算とジャクソンホールでのパウエル議長の講演会であった。

エヌビディアの決算はご存じの通り、売上高・利益ともに市場予想をはるかに上回る内容となった。
決算カンファレンスでも先行きに特段何も心配があるような示唆はなかったものの、PER100倍以上ということもあり、投資家がやや弱気になっているということもあり、あの決算でも株価は横ばい推移となっている。

【エヌビディアの株価チャート】
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パウエル議長のジャクソンホールでの講演会も、特段何か新しいことを言うこともなく、前回FOMCを踏襲するような特段意味のある内容ではなかった。
そもそもこれまでジャクソンホールで新しい何かが示唆される時は、緊急で何かを織り込ませる必要性がある時であり、2010年のバーナンキ議長のQE示唆や2022年のパウエル議長の金融引き締め示唆は早く金融政策の方向性を織り込ませる必要性があった。
しかし、今回は徐々に金融引き締め効果がラグをもって出てきている中で、これまで繰り返しFOMCでデータディペンデントで金融政策を決めると強調してきたわけであり、これをいきなり壊すような発言は基本出てこない

そういった意味で、材料を無難にこなした割には株価はパッとしていないことは、現在の企業利益に対する株価織り込みはほとんど進み切っているということを意味しており、企業EPS増加による株価上昇というのはここからは時間がかかるものであるということになる。
また、強烈な金融引き締めをしている状態なので、今後は金融引き締め停止+金融緩和という形での株価上昇も考えたいところだが、 これも今のところ様子を見ながら考えるしかない。
米国長期金利については、さすがにさらに過激に上昇するパワーがそんなにないと思える一方で、下がりづらいことも確かであり、株式投資家の中には金利が低下するのを待っているという人も結構いるように見える。

そういうわけで、今年前半のわーっとなんでもかんでも上昇した相場というのは、企業のリストラによるコスト削減効果の織り込み終了と米国金利上昇が邪魔してしまっているという判断が自然だろうと思う。
基本は時間が解決していく問題だと認識しているので、駄目決算をださなかった銘柄を辛抱強く持ってればいいんじゃないかなと思う次第である。

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欧米政治が習近平・中国に一般的に抱いているイメージを考える

【参考書籍】

習近平の覇権戦略 中国共産党がめざす「人類運命共同体」計画 

上記書籍ではすべてが真実とは言えないまでも、中国に対して長年抱かれていたものの中国経済の成長を背景に軽視されてきた中国の欧米に対する挑戦的な覇権戦略について書かれていた。
この書籍を読んだときに、おそらく現在の欧米政治が中国・習近平に抱いているイメージはまさにこの書籍に書いてあることを前提に考えられ、そして中国に対する政治戦略はこれに基づいて今は決められているだろうなと感じたので、まとめていきたい。

1、習近平思想は欧米の「自由」に対する挑戦
上記書籍を読んでいく中で、米国が習近平の独裁およびその思想の影響力拡大の方向性がもはや看過できないとしたきっかけは2018年の全国人民代表大会であったようである。
そこをきっかけに、中国経済は成熟化していけば政治についてもそれに比例する形で民主化していくだろうと考えは浅はかであったとして完全に消えてしまった。
習近平思想自体はこれまでの中国という多民族かつあまりの人口の多さを考えると、国をまとめるためには伝統的な政治のやり方ではあるが、これを国際機関や海外にも影響力を及ぼそうとして展開していることは、米国から見れば「米国が政治の根幹としている自由や、米国の海外戦略であるオープン路線への挑戦」となるわけである。

2、企業と政治が一体となっていることに対する問題意識と技術窃盗
上記書籍の中で、中国ほど企業と政治が一体化している国はないと述べている。
民間企業でも中国政府が命令すれば、平気でスパイ活動をする。
そのため、中国企業の海外展開というのは一般的に習近平の影響力拡大と表裏一体であり、これまでの中国経済の成長力の原動は欧米からのサプライチェーン移転だったことを忘れて、傍若無人にふるまっている。
しかも、逆に中国からは技術が流出しないように不平等に海外企業の活動を中国国内では制限している。
こうしたことから、中国企業はもはや信用に足るパートナーではないということになりつつある。

これが中国の経済成長に伴ってもはや無視できないレベルになったことから、米国と中国の対立は新冷戦に発展したと考えるべきだろう。
これに対抗するために、まずは中国の影響力を削ぎ落しと資金源を断つことを目的として、米国から積極的な貿易制裁が始まったわけである。
当初はこれについて欧州はどうすべきかと態度をはぐらかしていた。
しかしロシアのウクライナ侵攻によって、欧米と考え方が一致していない国に過度なサプライチェーン依存というのが如何に危険かということを思い出させた。
それに加えてゼロコロナ政策による意味不明なサプライチェーン寸断も加わった。
これによって、これまで中国に対してどっちつかずの態度を示していた欧州も、依存度を減らすための決断に一気に方向転換したわけである。
これ以上の中国依存は様々なリスクを考えると中長期的にはマイナスであり、それであればフレンドショアリングで多少コストが高かろうが中国外で経済活動をするべきという議論にたどり着いた。

これによって中国への海外企業の投資は大きく減少した。
中国では悪いことにここに不動産バブル崩壊が重なり、家計も企業も負債返済を重視せざるを得なくなったことから自然体では内需が減少傾向になってしまっている。
このため、もはや中国政府が財政支出と金融緩和を市場の予想を上回るレベルで行わない限りはどうしようもないことがわかるというのは自明の理だろう。

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中国国内のリスク資産に悪影響は限定されそうな中国景気低迷

中国リスクとの向き合い方~ 株価反発も「リターン・ムーブ」に要警戒 ~

中国株以外への影響はそこまでないと思うけどねえ。

ここもと投資ニュースのヘッドラインは米国金利と中国景気低迷で多くが占められている状況にある。
その中でも直接的にやばいと言及されがちなのが中国景気であり、当ブログでも中国景気については2021年ぐらいから「最悪」と表現し続けてきた。
しかし、個人的には中国景気の低迷は、中国株の下落はあっても、世界の株価に与える影響は限定的だと考えている。
今回はそのことをまとめてみたいと思う。

そもそもリーマンショック事態は米ドル・ユーロ・イギリスポンドの金融システムのほとんどを占めていた3通貨の金融システムが崩壊してしまったために、見た目の景気下降だけでなく、信用崩壊による資産の投げ売りが誘発されたことによってエクストラ的に暴落した現象であった。
それに対して、今回の中国における信用崩壊懸念については所詮外為市場で4%弱程度しか取引されていない通貨の金融システムがやばいというだけである。

【参考資料】
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https://www.iima.or.jp/docs/newsletter/2022/nl2022.27r.pdf

しかも中国の金融システムは米国のようにきっちり法律によって倒産させたりするわけでなく、中国共産党の指示一つで流動性・資本注入が可能である。
加えて、人民元で金を借りている企業や金融機関なんてのは中国国内にしか存在せず、外国企業にそのようなプレーヤーは非常に少ない。
借金が回らなくなることが現代経済における恐慌のトリガーであるわけだが、借金が回らなくなるというのが中国企業以外には想定しづらい。
そういった意味でリーマンショックみたいに全てが終わりで急速暴落とはならず、中国国内企業の景況感悪化がだらだらとくすぶる形になる。
そういった意味では中国株などはわからないが、実経済は不動産分野を除くと、実需前年比マイナス数%みたいなものにとどまるだろうと思われる。
これに加えて、中国国内ではオールドエコノミー分野のセクターは、化学を除くと赤字操業や環境汚染を理由として操業を停止させられているケースが増加しており、需給の帳尻が中国内でバランスされている。

これに加えて、中国企業は中国国内での活動(輸出などで海外はあるが)が圧倒的に多く、資源を除けば他の国に深く入り込んでいる企業というのは少ない。
基本は輸出で、中国共産党の監視があるために知財関連で海外に製造拠点を作るわけにはいかないことから、先進国現地の雇用に影響をおよぼす可能性はほぼなく、中国景気悪化は単に中国人が苦しむか苦しまないかぐらいの差しかない。

そのため、基本的に中国景気の低迷というのは中国株は別として、その他の地域への株価への影響というのは限定的だ。
せいぜい中国地域で営業している企業の中国事業利益が数割落ちる程度のインパクト以外はさほどない。
中国事業の売上高は多い企業でも2~3割的なものであることがほとんどだ。
さらに指数ベースで企業のうち中国事業の売上高が占める割合は1割以下にまで薄まるだろう。
利益ベースでも同様に1割以下と考えると、そこから利益が減少したとして全体の一桁前半%程度と考えれば、中国株以外では2022年にその評価のほとんどは織り込んだと考えてよいと思う。
例えば景気がすごく落ち込んだところで、iPhone買う人間が減るのか?と言われれば、そんなことあんまり関係なくない?という話だったりする。

もちろん過去に中国株暴落・人民元切り下げショックでS&P500も10%ぐらい急落した時期が2015年にはあった。
しかし、あの当時は高騰していた中国株がいきなり暴落していったという背景があり、市場参加者の意表をつかれたという側面が大きかった。(それでもたった10%だった)
今回は既にだらだら相当程度下落した状態であり、市場参加者の身構え方は固いことを考えれば、中国景気どうのこうので米国株やその他先進国株が根本的におかしくなるという見方は悲観的すぎるだろうと考える。

【中国CSI300のチャート】
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米国住宅市場を下支えする「バイダウン」による金利引き下げ

売主にも買主にも人気の、住宅ローンの金利を下げる方法

米国で分譲事業を行っている住友林業のIR資料を見ていたら、米国不動産事業において下記のような質疑応答が行われていた。

【住友林業の米国住宅分譲事業について】
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https://sfc.jp/information/ir/library/other/

この資料を見た時の素直な感想は「なんだこのバイダウンってやつは。こんなの知らないぞ」というのと同時に、これはきっちり調べないとまずいものではないかというのに気づいた。
今回はこの「バイダウン」と、これが米国住宅市場におよぼす効果を書いていきたい。

このバイダウンとは何なのか?
どうやら米国では住宅ローン金利について、不動産デベロッパーがインセンティブを払う形で最初の2年あるいは3年金利を引き下げして販売するとい値引き敢行があるようで、これをバイダウンと呼ぶようだ。
そして、このバイダウンで主流なのは2-1バイダウンで、最初の1年は2%の金利引き下げ、2年目は1%の金利引き下げ、3年目以降は通常通りの支払いになるというものである。
また、信用力が高い人向けには3-2-1バイダウンというのもあり、最初の1年は3%の金利引き下げ・2年目2%・3年目1%の金利引き下げをするというのもあるようだ。(ただしこっちはマイナーなようである)
今米国の30年住宅ローン金利は6.5~7%ぐらいの範囲で動いているのだが、2-1バイダウンで住宅を買えば、1年目は4.5~5%、2年目は5.5~6%の利払いで済むのである。
そしてこのバイダウンが2022年後半から米国債金利が高騰していく中で、積極的に不動産デベロッパーがバイダウンインセンティブを出していたようで、新規建設された住宅購入者の半分近くがこのバイダウンを利用して住宅を購入しているようである。

【参考ニュース】
Nearly Half of Home Sellers Are Making Concessions to Woo Buyers

このバイダウンについて詳しく調べた時、色々現在の米国住宅不動産市場についての考え方がクリアになった。
まず販売がこれだけの高金利にもかかわらず下げ止まっているのは、このバイダウンによる利払い引き下げによるものであることが理解できた。
給料の伸びが4%ちょいに対して住宅ローン金利7%だときつく見えるが、住宅ローン金利が4.5~5%ならそこまで支払いがきついとは思えないわけで、じゃあ購入しようとなることはうなずける。
でも、それだと3年目以降に利払い増えるじゃないかという話がある。
ところが思い出してほしいこととして、FRBがいつから利下げするかである。
現在CME公表の先物から逆算した政策金利予想では、2024年は5回の利下げが織り込まれている。
2025年も複数回の利下げがあるだろう。
つまり、今バイダウンで住宅ローンを借りた人は、優遇金利がなくなる3年目になった時には住宅ローン金利水準が現在の水準より1%以上下がっている可能性がかなり高いわけである。
つまり、優遇金利がなくなる頃に住宅ローンを借り換えてしまえば、当初バイダウンで借りた優遇金利程度で再度借りることができる。
ここまで持ってこれれば、もう住宅ローンを借りた人の勝利だろう。

つまり、現在新規建設された住宅を購入している人は7%なんて金利は払っておらず、4.5~5%程度の金利しか払っていない+先行き2年程度のFRBの政策金利を見て動いているのである。
つまり、現在米国住宅市場を動かしているのは現在の住宅ローン金利ではなく、1~2年後の住宅ローン金利である。
そう考えると、少し米国住宅市場が反転しそうになっていることもうなずけるわけだが、この反転はバイダウンというカンフル剤によって動いているものであり、以前のような3%台で住宅ローンを借りれるような状況ではない。
つまり、今後の利下げによる需要増加の一部を先食いしているのである。
よって、このまま前みたいにすんなりバブルになるわけではなく、再度住宅不動産価格が劇的に上昇してインフレ懸念なんていうシナリオは、このバイダウンとその効果を見落としている的外れ相場観なのである。
念のためツイッターで日本語でバイダウンを検索したが、この1年でわずか数件程度しかつぶやかれておらず、どうやらバイダウンに関する認知は少なくとも日本人の間ではほとんどないと言ってよい状況だと思うので、これも相場予想に入れていく必要性があるだろう。

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市場参加者の中国政府に対する恐喝的資産投げ売りが突き動かす中国株相場

中国、1年物LPRを小幅引き下げ 5年物は予想に反し据え置き

投資家の「俺たちのことをなめんな!」という意思表示。

現在様々な報道でわかる通り、中国は不動産バブル崩壊を中心とした様々な景気下押し要因で最悪といっていい状態にある。

【過去参考記事】
中国経済の低成長を招いた原因と再成長に必要な要素についての考察

実際の中国不動産バブル崩壊は2021年時点で始まっていたので、個人的には2023年8月にもなって中国不動産バブル崩壊か!? みたいな報道が非常に多くなっていることに違和感があり、もうとっくのとうに中国不動産市場は崩壊しているという評価である。

そのため、もう今からどうなるかという議論は終わっており、投資家が注目しているポイントというのは、「もうとっくのとうに崩壊しているんだから中国政府がどういう追加景気対策を行うか」という一点に絞られている。
きちんとした追加景気対策が出るなら、「お、ようやく中国共産党は真面目に経済対策することを考えるようになったか」と株価は上昇するし、足りなければ「はあ!?この追加景気対策で投資家安心させられると思うとかなめんなよ!」とリスク資産売り・国債買いが外国人投資家からも国内投資家からも行われる。

特に、現在の中国の場合は、2023年5月に不動産企業の救援政策の柱であった政府保証つなぎ融資スキームをフェードアウトさせたために連鎖デフォルトが再開しており、投資家の市場に対するコンフィデンスが崩れているために、リスク資産の解約売りが出ている。
これが昨今中国のシャドーバンクの中心である理財商品で解約売りが出ると同時に、理財商品運用会社が保有している投資資産を解約対応のために無理やり売却する必要性に迫られ、無理やりな売却のために資産価格が下落したり売れないために理財商品の償還ができず、これがさらに投資家のコンフィデンスを崩すという負のループに陥っている。

この負のループはクレジットクランチの一種であり、もはや自然な流れで改善することはないのは下記過去記事を読んでもらえればわかると思う。

【過去参考記事】
株式投資において最も恐ろしいクレジットクランチとは何か?(リーマンショックなどの過去歴史の解説付き)

この負のループから脱却するには、最後の資金の出し手である政府による追加景気刺激策しか手はない。
そして、カントリーガーデンが実質デフォルトに陥って以降は、さすがの中国共産党もやばいと思ったのかぽちぽちと追加景気対策が出ている。
しかし、月曜日に出た内容としてはLPR1年物10bps利下げして5年物は据え置きとした。
これを見た投資家の素直な反応は「人のこと馬鹿にしてんのか!?」という一言に尽きるだろう。
5年物LPRは住宅ローン金利に直結する金利なので、不動産価格の上昇はさせたくないという思惑から据え置いたのだと思うが、もうそんなこと気にしている場合ではないのであるのに、未だこういった政策出し惜しみをしている。
この発表を受けて投資家の中国株売りは自然な反応である。

【香港ハンセン指数のチャート】
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これまでは、中国共産党が相場を動かすと言われていたが、現在は投資家が相場を動かしているわけであり、投資家が満足するような政策が出ない限りは中国経済を破綻させる方向へ投資家はポジションを動かさざるを得ないという流れになっている。
なので、中国共産党が考えていることなんて完全無視して、追加景気対策が十分かそうじゃないかでしか投資家は判断していないわけである。

既に上記香港ハンセン指数のチャートは2021年高値から43%下落している。
ちなみに2022年10月の習近平独裁政権誕生時は高値から53%下落しており、これはリーマンショック時のS&P500の下落率に匹敵する。
中国政府の追加景気対策が出てこないのであれば、この最悪レベルの下落幅に再度チャレンジするような動きになりそうである。

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