村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2022年11月

中国がRRRカットに追い込まれた理由

中国、預金準備率0.25%下げ 金融緩和10兆円規模

積極的な金融緩和に見えて実は後手に回っているだけ。

金曜日の夕方になって突如中国の中央銀行PBOCがRRR(預金準備率)を25bps引き下げるとして、久しぶりに金融緩和策を出してきた。
投資家の中にはこれを見て、よっしゃ金融緩和してきたから中国共産党が景気支援に積極的に転じたので中国・香港株への投資はいけるのではないかと考えるのだが、本当にそうなのだろうか?
直近でもバンカメが2023年取引の主役は中国株買い米国株売りなんていうぐらいで、割安中国株について金融緩和策で期待が持てると考える人がいるかもしれない。

しかし、一度立ち止まってよくよく考えるとこの金融緩和は単に後手に回ったものである可能性が非常に高いことがわかる。
なぜこのタイミングでPBOCがRRRを25bps引き下げたかというと、それは国債金利・譲渡預金利回り・理財商品利回りが高騰したからである。
ではなぜ金利が高騰したかというと、中国政府がこれまでやってきたふりしか見せてこなかった不動産企業への支援策について実効性のあるものを出したところで、銀行が一斉に不動産企業へ融資したことによってクラウディングアウト効果が発生し、流動性のある短期マーケットや国債市場から銀行が金を引っこ抜いて融資に回してしまったからである。

それを見て慌ててPBOCがちゃんと短期市場を支援すると口先介入したものの、実弾を打ち込まないと信用しないぞと市場は引き続き以前より高い金利動向を示しながら動いていたことから、耐えきれなくなってPBOCはRRRカットに出ざるを得なくなった。
総合的に見ればこれは先手を打った金融緩和ではなく、完全に後手に回った金融緩和で、しかもこれの効果は既に不動産企業融資支援の段階で織り込まれてしまっている。

なので、今回のRRRカットは米国の金融引き締めももうすぐ止まることから本格的に中国は景気を下支えするために積極金融緩和に乗り出した!なんてわけではないことは明白である。

以上を考えると、不動産企業融資支援で株価が反発した分以上の効果はなく、このRRRカットだけで中国・香港株がさらに上昇するなんて可能性は非常に低く、基本的に株価が騰がるとすればさらなる不動産企業融資支援を発表した時だろうと思う。
ただし、さらに拡充させると、より短期流動性がひっ迫して金利高騰を招かないので、結局は本気で不動産企業支援をやろうと思ったら洪水式の金融緩和(しかも量を重視したもの)を行わざるを得ないという結論になるので、果たしてこれまで健全な金融政策を行ってきたという御旗をどれだけ続けられるかは見ものである。
 
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中国への理解が浅い欧米投資家がゼロコロナ抗議運動を見て右往左往

中国の大都市、警察が厳重警戒 「ゼロコロナ」抗議は鎮静化

欧米人がよくわかっていない状態で目を白黒させる展開。

今週に入ってから中国でゼロコロナ政策に伴って都会でゼロコロナ政策に対する抗議デモが相次いでいるということで中国株が月曜日は大きく下げると同時に、これは習近平政権が揺らぐのではないかという話まで、かなり欧米メディアを中心に一面で報じられるみたいな状態となった。

しかし、これはツイッターでもつぶやいた通り、中国への理解が浅い欧米らしいセンセーショナルな報道にすぎないだろうと考えている。
(その話は下記ツイート参考)



理由としては中国の政権にとって本当に怖いのは、歴史的に言えば農村部での抗議活動(さらにそこに有力者がついているケースが最悪)がメインで、所詮貴族のお遊びで食うか食えないかの瀬戸際にせまられていない都会の人間なんてのは少し暴力をちらつかせればすぐに鎮圧できると考えている。
さらに言えば昔と比べて監視社会のシステムがきっちりしていることから、都会の人間はやろうと思えばいつでも逮捕できるということもあり、都会の人間側も自分の命を賭してまでこの抗議活動を続ける気はほとんどないだろう。
独裁政権をひっくり返すには暴力が必要であるわけだが、それを考慮しても香港の民主化運動と同様にゲリラ戦をしてまで命を賭して政権に抗議する気がさらさらない活動は所詮貴族のお遊びだと評価するべきで、この材料を基に株を順張り的に買ったり売ったりというのは間違っていると思う。

【参考書籍】

香港雨傘運動 プロレタリア民主派の政治論評集

特にこうした中国の都会での抗議活動は、とりあえず見切り発車でやってみよう的な側面が大きいこともあり、駄目そうだったらすぐ引っ込むというのも中国でよくある話だ。
こうしたことを知らない・中国経済に対してかなり浅い理解しかしていない欧米投資家の駄目具合はここ数年目立っている。
特に2021~2022年中旬までの機関のケースでは、欧米の投資家は盲目的に中国共産党の経済政策について礼賛あるいはすぐに軌道修正するだろうという、何の根拠もないまま楽観的な状態が続き、セルサイドのもうすぐ良くなるからというむなしい叫びがこだまするばかりの中、当ブログの読者はご存じの通り無限に株価は下落していった。
特に多くの欧米投資家が期待していたのは、やはり10月の人民党大会・習近平政権3期目続投について、少なくともゼロコロナ政策や不動産政策の失策を背景に習近平派閥で占められることはない・胡春華が常務委員に入るだろうと思ったら中身が完全に習近平独裁政権の爆誕で、もうこれは駄目だーという投げが生じた。

この時点でほぼ習近平政権について楽観的に見ていた投資家は全部雲散霧消したようで、香港ハンセン指数もピークからの下げ幅がリーマンショックと同様の幅になったことから、さすがに投げるべき人は投げただろうということで、底値狙い買いが増えていて、少なくとも中国に対して楽観的な見方をしている人がほとんどいなくなったことから、一応底なし下げは止まった格好になったように思う。

総合的に見れば欧米投資家は現状は過度な楽観から過度な悲観に振れていると見れる上に、やはり中国に対する理解は浅いと言わざるを得ないことを考えれば、ゼロコロナ政策関連の過度な見方・悲観的な見方で振れる相場の上下はほぼ無視か逆張り的にやっていく方が良いように思う。

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日経新聞で美談として誤魔化そうとする楽天の大失敗したドル建て社債発行

楽天G、携帯事業継続へ覚悟の「12%」社債

なんで美談のように書いているの?

楽天については以前のブログ記事で、ドル建て社債2年を12%という格付けでいうとB格の下の方のクラスのコストを払って社債を発行したことについて、原因は楽天モバイルの底なし赤字と改善見込みなしという状態で窮地に陥りつつあるという話を書いた。

【過去参考記事】

段々と窮地に立つ楽天とその原因になっているモバイル事業の現状

上記日経新聞記事では楽天の覚悟だとか調達の多様化だとか書いていて、まるでこの社債発行が美談のように書かれているが、個人的には単にデットIRが下手くそなだけだという感想しか出てこない。

こういう負債調達はいわゆる 財務部やトレジャリー部門の仕事である。
そしてこの負債調達部門が考えることはいかに低コストで負債を調達するかである。
銀行から借りるのであれば銀行と交渉していかに安い金利で借りるかで、これはクローズドな世界であるわけだが、直接市場で社債という形でお金を借りようとすると誰しもが借りているレートを見れるオープンワールドの世界なので、単に安い金利で金を借りるというだけでなく、どれだけ市場にインパクトを与えずに社債を発行するかというのが至上命題になる。
ここでいう市場にインパクトを与えずにというのは、過去に発行したことがある既発債の価格が下がらないように発行するということである。
なぜ市場にインパクトを与えずに社債を発行しなければいけないかというと、無理やり新規で社債を発行して既発債価格を下げてしまうと、社債市場の投資家はほとんどが機関投資家であるため、保有している機関投資家のポートフォリオが傷んでしまう。

一度そういった裏切りに合うと、当面は新規での社債投資を行うのは控えようと思われてしまうし、場合によっては投げ売られてしまう。
そうなると次回社債を発行しようと思った時は、十分な玉が集まらない・さらに高いプレミアムを要求されるといったサステナブルなデット調達を続けられなくなってしまう。

そう考えると今回の楽天の2年ドル債12%700億円発行は最悪のやり方であった。
既発のドル債価格の下落も招いた上に、円債の方もどうやら荒れているようで、多くの機関投資家のポートフォリオを痛めてしまった。
円債で新しく借りるのでもおそらくこれほど荒れなかったし、一部フォロワーからは個人向け社債を出せばもっと安定的に大きなロットで金を借りれたのではないかという人もいたし、個人的には同感である。
もちろん一番手っ取り早く金を借りれるのはドル債という事情はあるものの、そうなるとそこまで資金繰りせっぱつまっているの?と想起させることも負債調達としては最悪であった。

個人的には楽天のIRは以前に楽天IR部門の人が書いた楽天IR戦記を読んで、かなり丁寧に投資家と対話しながらやっているイメージがあったが、どうやらもうそのような人材はいないのではないかと不安になる。

【参考書籍】

楽天IR戦記 「株を買ってもらえる会社」のつくり方
 
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ゼロコロナ政策の緩和がない限り本格的な回復が見込めない中国・香港株

中国「ゼロコロナ」緩和に壁、感染急増で逆戻りも-外出恐れる市民

さすがに外国人投資家ももう期待しないこと前提になってきている。

現在の中国・香港株については習近平独裁政権による経済的に非合理な政策がまかり通るリスク・ゼロコロナ政策・不動産市場崩壊による金融機関へのストレスリスクの3つが現在はほぼ全て織り込まれている状態にあり、いずれかが緩和されれば現在の底をのたうち回っている株価もいくらか回復する見込みだ。
(個別企業ではオンライン教育産業のような急に習近平によるおとり潰しリスクが別途ある)

ここもとの反発では不動産企業の資金繰りサポートがようやく比較的まともな政策が出てきて、これまでぎりぎり生き残ってきた不動産企業は資金繰りが少しまともになりそうということで中国・香港株は一定程度反発してきた。
しかし、ゼロコロナ政策は足下感染者数が急増していることから再び強化の方向に向かいつつあり、劉鶴元副首相の口先経済介入(まあ全く嘘っぱちだったわけだが)のラインを上限として折れてきている。

【香港ハンセン指数のチャート】
タイトルなし


市場参加者からも、これまで厳しいロックダウンが加わるたびに次の大きな政治イベントが起きれば経済がボロボロだからゼロコロナ政策について緩和される可能性があると外資系セルサイド中心に憶測をニュースに流すが、結局その後に中国当局がその観測を否定して冷や水をぶっかけるという流れが継続していることから、さすがに患者数が増加する中で突然全てを諦めてゼロコロナ政策を放棄するといったようなアプローチはあり得なさそうだと観念してきている。

そして市場参加者は真剣にどうしたらゼロコロナ政策は解除されるのだろうかとようやく考えるようになってきている。
そしてその答えはやはり医療体制が耐えれるレベルできちんと効果のあるワクチンの接種率が十分高まることにあるという答えになってきている。
ここからさらに詳細を見ていくと中国では高齢者の接種比率が85%(しかも効くかどうかわからない中国製)しかないことが一つの問題になっている。
中国の強権力を使えばワクチンの強制接種ぐらいできるんちゃうかとも思うが、どうやら副作用で人が死ぬリスクは取れないということで、現実的には完全な強制はできていない。
そしてどうやら中国では漢方文化があって注射で直接薬物を体内に取り込むことに高齢者を中心に嫌気されているという文化的側面もあるようである。
こうした文化的側面によって接種率が上がっていないことに加えて、以前にブログで書いた通りモデルナのmRNAワクチンの輸入に対して知財移転を要求するといった意味不明なムーブをかました挙句、Biontechに泣きついたがその数量もごくわずかということで、相変わらず国内に効果のある国内mRNAワクチンがいつまでたっても入ってこないという政治的ミスも大きな原因となっている。

【過去参考記事】

モデルナと中国のコロナワクチン供給交渉破談から見る中国株の絶望

いずれにせよ、効果のあるワクチンの接種普及率の上昇がゼロコロナ政策の緩和に絶対的に必要なものであり、これがない限りはもう市場参加者はゼロコロナ政策の緩和は期待しないし、突飛なゼロコロナ政策解除期待で株価が上昇することも今後は期待しづらいだろうし、これに釣られることなく投資判断をしていきたいところである。

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現在の金融規制を考えれば、楽天証券が危ないというのはデマ中のデマ



まあ何も知らない人が聞いたらこんなデマでも踊らされそうな話だよね。

足下で楽天グループがモバイル事業の大赤字で財務を毀損しているということもあり、楽天グループの信用力は本当に大丈夫なのかと危惧する声は市場にあり、実際にそれがドル債12%発行という事件を引き起こした。

【参考記事】

段々と窮地に立つ楽天とその原因になっているモバイル事業の現状

一部ツイッターではこの延長線で楽天グループが潰れる=楽天証券が潰れるという発想になって、楽天証券に預けているお金が回収不能になるのではないかという話が広まっている。
ツイッターではそもそも楽天証券に入金している投資資金は分別管理されているので、楽天証券がデフォルトしても問題ないと書いている人が多く、それはそうだよねという話である。
加えて、そもそも楽天が潰れる=楽天証券が潰れるという発想が間違っていると二重の意味でこのデマは間違っているのである。
これは何も知らない人から見れば楽天グループが潰れるのと楽天証券が潰れるのは同じなのではないと思ってしまう話だが、現在の金融会社監督システムを知っていればそんなことありえないとすぐわかる話なので解説していきたい。

現代の金融規制では金融子会社ベースで経営が健全がどうかというのを金融庁が監督をしており、独立した形で採算が取れているか、事業継続性があるかを判断している。
加えて金融子会社のお金は配当という形でしか株式を保有している親会社orホールディングスにしか韓流できないようなファイヤーウォールの構造となっている。
これはリーマンショック以降、金融システムを健全に保つために大前提となっているもので、金融庁は金融子会社が親会社の影響で追い込まれて金融システムに影響を与えるようなデフォルトをしないように配慮していると同時に、金融子会社にゴーンコンサーンの兆候があれば親会社orホールディングスに対して減資という形で責任を取らせる権限も保有している。
そういった意味で金融会社と事業会社で大きくそのデフォルトの仕方や見方が異なる。

さて、では楽天に話を戻そう。
今回の楽天でいうと楽天グループが楽天証券という金融子会社の株式を保有している形になっている。
楽天証券はご存じの通りSBI証券に続くネット証券の雄で、ネット証券の中ではきちんと利益を出している巨大証券会社であり、その健全性には誰も疑問を投げかけていない。
今現在問題になっているのは親会社である楽天グループがモバイル事業という大赤字を垂れ流している事業を行っていることによって、楽天グループの財務を毀損していることにある。
なので、現在問題になっているのは楽天グループの信用力であり、楽天証券ではない。
そして次が大きなポイントであるが、楽天グループは楽天証券のお金を自由に使えるわけでない。
事業会社であれば子会社の資金を勝手に引き抜くというのは別に自由な話であるが、金融子会社は前述した通り金融庁の監督下にあり、親会社が勝手に金融子会社のお金を引き抜いて金融システムリスクを起こすことを防いでいる。
楽天グループが楽天証券が保有している現金を手に入れるには配当という形で還流してもらうしかないのである。
なので、仮に楽天グループが資金繰りに困ったとしても、楽天証券の資産は勝手に触れないので楽天証券には全く関係ない話なのである。

以上から楽天証券自体が利益を損なわない限り、基本的に親会社の楽天グループの信用力毀損は全く楽天証券の経営に影響を及ぼさない話なのである。
なので、楽天グループが潰れるかもしれない=楽天証券が潰れるにはならないのである。
また、楽天証券自体がエ〇シアのように勝手に客のお金を使い込んでなければ(あり得ないけど)、基本的に楽天証券がどうなっても預けている資産は信託会社に保管されているので基本的に戻ってくる。
普通に楽天証券に預けているお金が特にどうこうなるという話は、こうした現代の金融規制について全く無知である人の戯言にすぎない。

ただ、本当に楽天グループが窮地に陥った時は楽天証券を第三者に完全売却(既に一部持ち分はみずほに売却予定)してしまうので、楽天経済圏から切り離される可能性ぐらいはあると思うぐらいだろう。
 
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