村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2022年10月

主要先進国の金融引き締め鈍化で日銀の金融緩和修正観測が途絶え始める

日銀黒田総裁、金利引き上げ「今すぐとは考えていない」

マイナス金利解除以上は多分当面ない。

ここもとの円安は先進諸国の政策金利引き上げを続けていることもあり、すわ日銀の金融緩和修正もあり得るんじゃないかという観測が立ちつつある。
来年4月までの黒田総裁任期までは修正なさそうだという話だが、その後の次期総裁(雨宮氏)の時はどうなるかわからないんじゃないかという話で、OISで2年後には利上げがあるんじゃないかという数値まで動かしているのも見えている。

ただし、個人的にはマイナス金利解除はあっても、政策金利をプラス領域に引き上げ(0.25%以上)に引き上げてくるのは基本的にはないんではないだろうかと考えている。
過去の例を見るとリーマンショック前に日銀が一回だけ政策金利を引き上げたわけだが、その時は米国の政策金利が5.25%、EUの政策金利が3%だった時に行われた。
つまり、そこに到達するまではリーマンショック前と大して経済構造が変わっていない中で、普通は政策金利を上げる理由はないと考えられる。
既にオーストラリア・カナダと政策金利の引き上げ幅は鈍化させ始めており、ECBも次回は50bpsに鈍化させる可能性も高いと見られ始めている。
米国FRBも高官が12月75bps利上げの観測についての火消しも入っており、最終地点の政策金利はまだ不透明なもののかなり固まりつつある中、米国政策金利5.25%・EU3%というラインには到達しない見込みである。

マネーサプライのM2について見てもあまり金利引き上げの動機は見られない。
一般的に金融引き締めはM2に影響を与えて市場に出回る金を吸収してインフレを抑えるという形だが、日本は特段金融政策を変えていない中で既にM2の伸びがコロナ禍前の平常レベルに戻っており、ここから金融引き締めしてM2をマイナスにつっこませる理由があまりない。
これは米国・欧州もそうで既にM2の伸びがコロナ禍前レベルに大幅鈍化しているわけで、このまま過激利上げをするとマイナスに突っ込んでしまうのでそれは避けたいと思うだろう。

総合インフレも低いが、その分賃金インフレも低くそこが3%も到達していない中で拙速にプラス領域に利上げを急ぐという事情はあまりないように思う。
また以前のブログ記事で書いたが、為替は金融機関はリスクを取っていないので一定程度大きめに下落したところで大した問題は起きないのだが、国債金利の上昇は直接的に金融機関や年金運用にダメージを与えてシステミックリスクを起こすのは英国のドタバタ騒ぎを見ていれば想像に難くない。
特に日本では貸出先がなく、脆弱な地銀がまだ統合しきれておらず、これが終わるまでまともに利上げできるかというとそういうわけにはいかないだろうと思う。

以上を踏まえると、ここ数週間円安に伴って懸念されていた日銀の金融緩和修正観測は、あっても有害なマイナス金利解除ぐらいで、その他はおそらく当面は変更はないだろうと思われる。
YCCについてもいきなり変更をかけて現在イールドカーブから見られている想定レベル0.5-0.7%レベルまで売られることも地銀のポートフォリオにダメージを与えて貸し渋りが発生しかねないことを考えると修正について疑問符である。
それに既に株・社債・JREITの買い入れを減らして既に日銀のバランスシートはゆるやかに減少してきていて、ステルステーパリングはしているわけで、これだけで事足りるという話もありそうである。

ツイッターでは日銀の政策金利引き上げは近いと煽って住宅ローンの変動金利が高くなって不動産価格暴落だと変な煽り方をする人がいるが、そんなこと言っている間にさっさと借りて残債減らし始めれば影響ないレベルまで減らせそうだし、資産サイドに十分な金融資産を持っていればいざとなればそれを一気に繰り上げ返済に回せばいいので、そういった煽りもあまり気にする必要性を感じないと思う。

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デリバリーアプリ企業の企業価値崩壊から見るバブルと崩壊サイクル

Most rapid grocery apps fail to deliver for investors



参入障壁の少なさと短期間でのバブル発生・崩壊サイクルで風前の灯になる典型例。

上記FTの記事ではコロナ禍で爆発的に市場が拡大したことにより有象無象が参入したデリバリーアプリ企業について、ここもと需要が低下していることに加えて参入企業が多すぎて、とてもではないが投資資金が回収できる見込みが立たなくなり始めているということを背景にこれまで熱心に投資してきたPEやエンジェル投資家達が引き始めているという、デリバリーアプリ企業からするともはや風前の灯という状態になりつつあると報道されている。
既に上場しているデリバリーアプリ企業も上場来高値から株価80%下落なんてのはザラにある状態である。

【DELIVEROOの株価チャート】
タイトルなし


これはごく短い間でバブルとその崩壊過程を辿った典型例として教科書に載せたいものだと思えるような内容だと個人的には考えている。
デリバリー企業はコロナ禍の外出規制や飲食店営業規制を背景に需要が急拡大したということで、有象無象の企業が参入して各種キャンペーンを打ちまくることによってシェアの拡大を狙ってきた。
しかしコロナ禍から2年半が経ち、中国以外の地域は国際的な往来の自由化も復活し、さらにリモートワークできる以外の仕事は完全復帰した。
リモートワークしている人間もデリバリー企業に頼むと無駄に配送料かかるし、一日中家に引きこもっているとやってられないということでわざわざ飲食店に出かけて家族や友人と食事をするのが再びメインになってきており、デリバリーを頼むということ自体がコロナ禍前とほぼ同じ意識にまで低下していっている。
そのためここにきて需要の伸びが鈍化どころか、需要自体が減少に転じ始めており、この時点で投資者はもはやまともなリターンは出せないと見切りをつけて、新規出資停止や場合によっては経営者をド詰めしてなんとか投資資金を回収しようと画策している。
ようは新しい資金を調達できなくなっているのである。

さらにデリバリーアプリ市場の問題点は、みんなやっていることは大して違わない・差別化要素がないということにあり、生活必需品でもないと需要動向が不安定かつ参入障壁が少ないというレッドオーシャンもいいところということで、短期間でバブルとバブル崩壊を体験しているということになる。

結局コロナ禍でぽっと出てきて破壊的イノベーションと謳っている企業の多くは一時的なバブルと参入障壁の低さから大量の企業が参入した挙句、誰も投資回収できないぐらいに短期間でレッドオーシャンになって全員死亡となっている。
単に大量の企業が参入しただけでなく、途中から資金力のある大企業が参入したというケースで、大企業以外誰もリターンをあげられないというケースも多数発生している。

採算性を無視して現金を燃やし続けながら事業を拡大するのは、誰でもできるとは言わないがどんぶり勘定経営者でも行うことが可能だ。
しかし、結局現金燃やし続けながら事業をしていいんだと多くの経営者が参入してきて競争過多になった状態から経済環境が変化して需要が減少したなんて日には、投資家はこんなの投資回収できる見込み立たないし追い銭するわけにはいかないと追加出資を拒み、場合によっては少しでも投資資金を回収しようとド詰めしてくる。
本当にその企業が良いかどうかというのは金がじゃぶじゃぶにあふれている時ではなく、金がないとなった時に耐えれるだけのポテンシャルがあるのかどうかというところにあり、打ち上げ花火ではなく永続性のある事業を経営者はきちんと目指していたのかどうかが今問われていると思う。

あとはこれらを考えると現在株価が底堅く推移している企業というのは、やはりかなり参入障壁が高い・事業に永続性が高い・現在需給がひっ迫しているときちんとファンダメンタルズに裏付けされた銘柄がほとんどで、2020年のバブルの時とは違い非常に納得感のある株価動向がほとんどだと思う。

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日銀の為替介入の意味・狙いはどこにあるのか

政府・日銀が円買い介入 7円急騰、151円台から144円に

単独介入で強引に押し下げようという話ではない。

先週金曜日米国時間で、日本時間では日を跨ぐぐらい前になってドル円は152円をつけそうという数値だったのが、日銀が介入したのかそこからばーっと円高になり、最終的に米国時間ひけて147円ちょっとという形のドル円の動きとなった。

今回日銀・日本政府が考えていることは、やはり米国政策金利引き上げピークまでの時間稼ぎと見るのが主流だろう。
日銀・日本政府の官僚ともに東大出身者で馬鹿ではないので、単独介入がどれだけ直接的に為替市場に影響あるかなんてたかが知れているということは知っている。
そのため、この為替介入だけで今すぐドル円の水準を積極的に引き下げようとは考えていないのは明白である。
足下のドル円の水準はほとんど金利差水準で説明がつく。
資源高による日本の経常赤字も一部は要因としてあるが、ドルの方が馬鹿でかい経常赤字と高いインフレ率を出しているので、教科書的通りにいうとドルが上昇する要因はないのだが、覇権通貨であるためこれらの要因が無視され純粋に金利差だけでこの水準までドルが強含んでいる。

今回日銀が介入したタイミングというのが、あともう一回FRBが11月に75bps利上げをしたら12月の利上げ幅は50bpsに速度が緩む可能性が見えている。
緩めるとしたら11月のFOMCでその旨を匂わせる可能性はあるため、10月の時点の為替水準と米国金融引き締めピークを見て、ここから時間稼ぎに入ろうという決断をしたものと思われる。
金曜日の米国時間の介入はかなり積極的なインパクトを狙ったもので、ロンドン時間が引けて為替を積極的に動かそうというロンドン勢がいなくなり、金曜日で土日越そうという人達を引き付けて介入を行った。
加えて、この日はFRBの高官から金融引き締めについてはラグを持って経済に影響を与えるため、次回は75bpsになるが、その次にさらに75bps期待しているやつがいるかもしれないが50bpsにして様子を見ていくという選択肢がありうるといった趣旨の発言が出てきたことから、米国債金利の手前側の金利がやや大きめに低下したことも材料として金利差を主眼とした円高というインパクトも加わった。

これによって金曜日はかなりインパクトのある介入となり、これで変に投機をかましている人達に警戒感を抱かせて、なんとかもう動意づく可能性が低くなる年末を越して、米国金融引き締めのピークまで時間を稼いでいこうと話なのだろうと思う。

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ECBは次回会合から異例な政策金利引き上げ幅は縮小される見込みが台頭

ECB理事会後のラガルド総裁発言要旨

異例な利上げ幅は縮小させる見込み。

注目されていたECBであるが、まず発表直後に出てくる声明文の時点で今後複数回の利上げと書いてあった文言が消えて、金融緩和政策の撤回に向けて大きな前進を遂げたという中立金利下限程度に到達したと表明する内容となった。
QTに触れることもなく、APPとPEPP再投資維持も表明され、声明文の時点で前回と比べてかなりハト派的な見方がこの時点で市場参加者の間で浸透し始めていた。
(ただし政策金利を引き上げきると、再度QTの話は持ち上がるかも)

今週半ばにあったカナダ中銀が利上げ幅を想定外に減速させてきたこともあり、この時点でECBの今後の利上げ幅の減速が見込まれていた。
記者会見でも景気後退リスクについての言及が重なっており、ハト派と見られないよう頑張ってた感はあるものの、前回のような強気感は消えたように見えた。

【ECB記者会見動画】
https://www.youtube.com/watch?v=5XYCEfjoFkU

総合的に見れば目先のインフレは引き続き高いが、明らかな景気減速も出てきている上に、英国債・英ポンドのドタバタ騒ぎやクレディスイスの問題など先進国で金融システミックリスクが出ていることを考慮すると、これまで異例であった50bps以上の本来は複数回の金融政策決定会合で行われる利上げを一回の金融政策決定会合で行うことの正当性が薄れ、危険性が高くなりつつあるとみんな考え始めているということになる。

ただ、普通先進国の中央銀行は利上げ幅を縮小させるにしても伝統を重んじて25bpsずつペースを落とすわけになるので、ECBは今回75bpsだったが、次回は50bpsにして、その次は25bpsでその後はデータ次第でちょろちょろ25bps利上げするのかしないのかという話になってくる。
今ECBの政策金利が1.5%なのでとりあえず決まっているパスは次回50bps・その次は25bpsなので2.25%、その後は25bps利上げするかどうかよっくわかんねーなみたいな感じの予想に市場参加者の見方は変化した。
そのため年末に向かってECBは政策金利3%というそんなことしたらイタリアが死んでまうみたいな無茶苦茶な利上げはとりあえずなくなったと見えそうだ。

とはいえ、引き続き高いインフレ率であることは間違いなく、ピーク越えたらすぐに利下げーっていう感じではなく、2.25%というこれまでのデフレ時代との比較ではかなり高い金利水準が続くという見込みになると思う。

【過去参考記事】
デフレからインフレへなぜ世界は大きくレジームチェンジしたのか?

日本の機関投資家が大好きなフランス国債10年あたりが大体EUの無リスク債券の代表例として見られることを考えると、フランス国債10年2.5%より上に行く確率はとりあえず消えたとみてよさそうな気はする。

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いまさら米国住宅価格統計を見て反応する米国金利

米住宅価格指数、8月は過去最大の減速-住宅ローン金利上昇で

今さらそれに反応するんかいな・・・

引き続き市場参加者が注目していた米金利であるが、火曜日に発表されたケースシラー住宅価格指数で前月比-1.3%・前年比13%上昇と市場予想に比べて単月ベースでは大きく価格下落する形となり、これを受けて米金利は長いところを中心に買われる展開となった。

個人的には今さら住宅価格を見て米金利低下かよという感想で、そもそももっと早く結果が見れるREDFINの不動産価格データを見るとピークから10%弱ぐらい下がっているわけで、ケースシラー住宅価格指数だって単月ベースではかなり下落するなんてことはとっくのとうに織り込んでいると思っていたらどうやらそうではないようである。
REDFINのデータとケースシラー住宅価格指数のデータを照合するとどうやら3ヵ月ちかくのずれがあるので、少なくともあと2-3ヵ月ぐらいは価格下落のデータが出てくるだろう。
(ただしREDFINデータだと直近下落幅はとまって横ばいになってきている)

全体として11月75bps・12月50bps・2月25bpsという利上げパスはどうやら変更はなさそうで、あとは3月にもう一回25bpsの利上げするかしないかという形にやはり落ち着きそうだ。
一時期は11月75bps・12月も75bpsになる可能性はあるのではないかという市場観測もあったが、それをしてしまうと引き上げ幅縮小するにしても伝統を重んじるFRBは25bpsずつ削減していくしかできないと考えると11月75bps・12月75bps・2月50bps・3月25bpsというパスになってしまうため、政策金利のピークが4.75~5%から5.5%というさすがにそれはまずくないかという水準になってしまう。

12月75bps利上げ観測が出てきた段階で、FRB高官複数名から火消し的な発言が目立っていた。
これは既に英国債・英ポンドのどたばた騒ぎやクレディスイスの資本バッファーの問題など、米国金融引き締めが新興国だけでなく先進国にまで波及し始めており、これ以上苛烈な金融引き締めは本当にいいのかどうかFRBメンバーもかなり疑心暗鬼になりつつある。
それに4.75%という政策金利水準も決してインフレを抑えるにあたって低すぎるということはないし、上述したように住宅不動産価格が落ちてきていて、ボルカー時代はいくら利上げしても下がらないということで問題になっていたマネーサプライM2ももう平常レベルにまで落ちてきているので、インフレピークの芽は出始めていることは確かだ。
ボルカー時代はいくら金融引き締めしてもM2マネーサプライが低下しなかったという問題があるので、それを考慮すれば金融引き締めをこれ以上過激化することはないだろうという話も納得感がある。

【参考書籍】

ボルカー回顧録 健全な金融、良き政府を求めて

問題としては2%まで持っていくにはまだまだ長いパスになるが、そこは高水準な金利を維持するという形で達成できるのではないかという見方もできるだろう。

そういった形で、12月はほぼ50bps利上げというパスは確定していると個人的には考え、そうしたことを考えると長いところの金利が4%というのは本当に正しいのかという考えが市場参加者に出てきたことから長いところ中心に買われる展開となりつつあるように思う。

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