村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2019年11月

未だにPEファンドはすっ高値で投資家にIPO株を売ろうと画策している

Investors race to tech start-ups despite SoftBank stumbles



誰が分かってて養分になるのか。

PEファンドブームであることは以前に記事にも書いたが、PEファンドの投資体制についてウィーワーク事件以降変化がでてきているようだ。
ウィーワークの件があり、やはり投資家側があまりにもアーリーステージのスタートアップに多額の金を突っ込むのはリスキーだと考えているし、PEファンド側も一発ミスると看板に傷がついて金が集めにくくなるという事情も理解しつつあるようだ。
そのためPEファンドおよび投資家はレイターステージ(ようは上場までの道筋がかなりもう見えている状態)のベンチャー中心に投資するスタイルへお金をつぎ込む方向に変化しているようだ。

でもこれはいってみればもういつでも上場できるような未公開企業にファンディングという提灯をつけさせて、高バリュエーションをつけさせてから投資家に株を売りつけたいという意図がみえみえなのが、はっきりいうとむかつく。
基本的に未公開企業の評価というのはエクイティ資金調達を行った時のみ再評価される。
なぜなら未公開の間はその企業の株評価というのは資金調達の時でしか計算されることはないからだ。
そしてレイターステージ企業への過大な投資というのは、もはや上場前にその企業に雑な成功ストーリーに基づいた投資戦略を作らせて公開時のバリュエーションを無駄に引き上げさせ、公開市場で投資家にすっ高値をつかませたいという意図しかない。
なお、文章だけだとイメージしづらいし実例が知りたいという方はソフトバンクの決算を複数期過去分を追ってみるといいかもしれない。
なぜならソフトバンクは決算前にビジョンファンドに投資先に追加出資させて評価金額を吊り上げ、それを企業利益に入れたりとかして決算を作っているということもしていた。
(だからこそ、ソフトバンクの決算数値自体が信用できないという意見もある)
そして結局そうした無駄な評価吊り上げによりすっ高値で上場したウーバーやスラックの株価が平気で公開価格から3割以上の割引は当たり前みたいな下がり方をすることになる。

上記を考えれば公開する直前に無駄にVCやPEがベタベタ投資して、それに伴い投資金額を倍プッシュしている最中のところですっ高値バリュエーションで買いたいとかいう投資家は情弱という表現以外で表現することは可能なのだろうか?
というわけで以前よりもずっとIPO銘柄について少なくとも2-3回は決算を確認してその企業の本当の実績というのを確認することの大事さが増していると個人的には考えている。 

IT銘柄はスイッチングコストの有無が重要

スラックが一時10%超下落、マイクロソフト「Teams」利用者が2000万人突破

通常銘柄分析をする際には参入障壁が重要と言われているが、IT銘柄においては参入障壁よりもスイッチングコストの有無の方が重要だと思っている。
スイッチングコストとは具体的に何を指すのか?
それは既存の自社サービスを使っているお客様が他社に移るのに労する時間やコストのことだ。
これが高ければ高いほど解約率は低くなり、サービスを扱っているIT企業は入り口の参入障壁が多少低くても順調に利益を伸ばすことが可能だ。
ではどういう風にそれを判断するのかをいくつかの事例を持ってまとめてみたい。
特に米国株はこうしたITサービス株が多く、ここの判断が甘いと簡単に2割とか3割安を食らう羽目になるため重要な考え方だ。

まず大手人事アウトソース会社ADP。
ここはITを活用した人事アウトソースを行っているが、人事アウトソース会社というのははっきり言えば星の数ほどある。
少しでもシェアを調べれば最大手ADPでさえシェアは10%もない。
しかしそれでも安定した利益成長をしているのは、人事システムはそう簡単に切り替えられないということを意味する。
読者が人事部担当ならどれだけ人事システムを変えるということが大変なことかよくわかると思うし、特に大企業でシステム変更しようと思ったら死ぬほどめんどくさいし、変えた後になにか問題が起きたら自分の首が飛びかねないことは重々承知だと思う。
これを考えるとADPの入り口シェアがそこまで高くなくても利益を着実に積み上げられることは容易に想像できる。

<ADPの株価チャート>
タイトルなし


マイクロソフトもスイッチングコストが馬鹿高いサービスを提供している企業の一つだ。
マイクロソフトの最大の武器はエクセルであり、エクセルを使っていない企業なんて多分この世に存在しないだろう。
エクセルから自社の様々な集計表を切り替えることは現実的に可能なのか考えるとそりゃ無理ですわなとなる。
また提供しているクラウドサービスも一度契約をゲットして企業のサービス根幹にかかわるシステム構築に使ってもらえば、そこからお客が違うサービスに切り替えるのを決断するには多大な時間・コストが発生するようになるため、ぐんと解約率は下がる。

<マイクロソフトの株価チャート>
タイトルなし


日本企業でも金融機関にとって必須なデータを提供する野村総合研究所、交通費経費精算システムを千絵興するラクス、会計システムを提供するオービックなどはいずれも一度契約した顧客が他社サービスに切り替えようと思ったら死ぬほどめんどくさい時間とコストがかかるサービスであるため、順調に新規契約が増加している間においては株価が下落したとしても最低限これだけのバリュエーションはあると計算しやすいので株価が底打ちしやすい。

一方で、最近下落が顕著なスラックについて考えてみよう。
IT関連に勤めている友人に使っているスラックのチャットサービスを他社に切り替える際のスイッチングコストはどれぐらいかと聞いたらほぼゼロと言われた。
チャットサービス単体ならどこも提供しているし、切り替えることはなにも苦労することはないと言っており、それではスラックは競合他社から安値攻勢をしかけられてしまうと解約率を抑える術がない。
実際にマイクロソフトのTeamsやグーグルなどが自社サービスとセットで色んな企業に営業をかけており、スラックはいつまでも値上げはできないしシェアも拡大スピードが下がっており、黒字化の道筋が見なくなりつつある。

次に配車アプリのウーバー。
配車アプリははっきりいうとスイッチングコストはゼロだ。
自分でさえ複数の配車アプリを入れて安い価格を提示する方のアプリを使って配車を依頼する。
指先一つでスイッチングなんて完了する。
それではいつまでたっても値上げはできないし、儲かるなら続々と他社が参入してあっという間に利益がでなくなる。
この懸念からウーバーやリフトは当初IPOで期待されていたバリュエーションが正当化できなくなっている。

またメルカリも比較的スイッチングコストの安いサービスしか扱っていないことが厳しい。
フリマショップは複数のアプリに同時に出品が可能だ。
だから手数料が安い方に人が簡単に流れていく。
ちょっとした手間はあるものの、よっぽど数百点とか一気に出品している人以外はたいして切り替えに手間などかからない。
それどころか両方に同時に出品出して天秤にかけたりする。
メルカリがIPOしたことから大手どころがここの市場を取るために楽天のラクマとかいろんな競合が出現しメルカリは一気に状況が苦しくなっている。
しかもキャッシュレス決済のメルペイもさらにスイッチングコストが指先一つでできることからまったく顧客の囲い込みで進んでいない。

以上を踏まえてITサービス株を保有している人達は自分が持っている銘柄が提供しているサービスのスイッチングコストが安いのか高いのかを見ながら、今のバリュエーションが正当化できるのかどうか判断してほしい。

米国CCC格ゾーンのハイイールド社債市場はリスクオフトリガーにはならない

ICE BofAML US High Yield CCC or Below Effective Yield - FRED



CCC格よりもBBB格ゾーンの爆発が一番危ない。

昨今米国ハイイールド社債の中でも飛び切り格付けが下のゾーンのスプレッド(対国債上乗せ金利)が上昇している。
CCC格ではこの数値が10%と2018年12月以来の高い水準にある。
B格についても約4%とそこまで高くはないものの、2017年・2018年のリスクオン水準と比べると随分高い。
しかし一方でBB格はスプレッドがたったの2.2%程度しかなく、ハイイールドの中でもBB格を見るとリーマンショック以降のヒストリカルロウレベルのスプレッドしかない。

一部ではこのCCC格のスプレッド上昇が止まらないのを指してリスク資産の大幅下落が近いという説を唱える人もいるし、気にしている人も多いようだが、個人的にいくつかのこの説に反論したい点がある。
それについていくつかポイントをまとめたい。

1、米国のハイイールド債の市場規模自体が格付けが低い順に縮小している。
実は米国のハイイールド債市場は規模が漸減している。
特にCCC格なんてのはひどい状態で、2014年に2400億ドル近くあった市場規模は今や1650億ドル程度にまで縮小しており、規模にして2/3になっている。
なぜこのような状態になったかというと2014年の資源バブル崩壊以降、主にドベの格付けの借り手であったシェールガスオイル業者の新規発行というのが壊滅した。
その後もなんだかんだで市場はこの格付けゾーンを保守的に見ていたせいか市場規模は漸減していったのがおそらく市場規模減少の原因だろう。
一部新規テック企業が新規発行などをしていたが、やはり何かブームがないとよっぽど変な財務の企業は社債を発行できないということだろう。

2、新規発行プレーヤーの減少により相対的に劣化債券しか残らない状態が増加し始める。
これは銀行を調べている人ならご存知だろうが、銀行は融資の伸びが止まる=経済不振による不良債権の増加+新規健全融資が増えないことから全体の不良債権比率が急速に増加する。
現在CCC格で起きている減少はこれで、比較的ましな発行体による社債発行が途絶え、既存の人達の信用力状況が劣化していることが主な原因だろう。
逆にBB格が200bps前半というタイトなスプレッドが維持できているのは次々と新規発行体による新発債が発生しているからで、これがハイイールドの中でもBB格とそれより下で大きな差が生まれてきている原因だろう。

3、しかし社債市場全体で見るとA格とBBB格市場の急速な増加により存在感は大幅低下。
このようにB格およびCCC格中心に社債市場は新規発行よりも償還の方が多く、市場規模がピークから20%以上もの減少を見せていた。
一方で、投資適格については国債の金利水没に伴う機関投資家の旺盛な需要と企業側が安く調達したいという供給側の言い分がマッチしてA・BBB格中心に堅調に市場規模は拡大していった。
そのせいもありB格・CCC格が市場全体に占める割合は2014年それぞれ9%・4%と合計13%占めていたのが、足元では6%・2%の合計8%と単純な市場規模以上に存在感が下がっている。
このレベルの比率は2002年のITバブル崩壊後の水準レベルやリーマンショックど真ん中ぐらいの一番暗い時代だったレベルの時と同程度の比率でしかない。
BB格はまだ市場規模は維持しているものの、比率は7%ぐらいまで低下。
リーマンショック前のB格・CCC格比率がそれぞれ12%・5%あった時代と比べるとその存在感の薄さは否定できない。

このように現在のドベハイイールド社債市場自体をそもそも熱心に見ている人が少ないし、米国銀行も色々な情報を見る限りこのような危ないところに無節操に金を貸すほどアホな行為をしていない。
(というより金融規制強化でそこまでド派手なことは間接金融ではしづらい)
というわけで2014年から色んなプレーヤーが既に手を引いていてもう5年が経つ市場の低迷が経済の根幹を揺るがすような経済ショックの引き金になることはまず考えづらいというのが率直な感想だ。

CCC格よりもやはり一番気になるのはBBB格で、現在の社債市場で最も成長速度が速く、規模も全格付けの中で圧倒的な大きさになっている。
しかもこぞってみんなが買っている市場だ。
ここで大きな問題が起こると多数の巻き込み事故が発生することは現在の社債市場に占めるBBB格の割合を見ればまず間違いなく、BBB格市場に対して異常が発生するような事態になったら問答無用で全リスク資産を投げる必要があるだろう。

オーストラリアの銀行の株価が総じて元気がない

ウエストパック銀を提訴-史上最大の資金洗浄・テロ資金防止法

オーストラリアの銀行は全体的に足元元気がない。

昨今豪州の銀行株価が非常にさえない。
四大銀行の株価いずれを見てもなんじゃこりゃというパフォーマンスしか出ていない。

<オーストラリアニュージーランド銀行の株価チャート>
タイトルなし


ただでさえ豪州は数年前の中国人不動産爆買いの影響を抑止するのに不動産融資規制を強化していて、そこに加えて資源バブル崩壊が加わって豪州のローン成長率が全然伸びない状態になっている。
しかもこの資源バブル崩壊を機に豪州の高金利時代は終わったと同時に昔は5-6%と先進国の中でも非常に高い金利だったのが今や米国以下の政策金利になり、たったの0.75%となったうえ、まだ下がる可能性があるということで銀行の利ザヤはバンバン縮小している。
そこに加えて四大銀行がいずれも顧客にダマテンで色々な契約を勝手に行うという信じがたい不正行為が横行していたということもあり、金融当局による検査厳格化でコスト増加+事業拡大の抑制が働いてしまっている。
そこにさらにマネーロンダリング疑惑も追加ときており、ウェストパックがまずは標的になっている。
そこに加えて資産のRWAの計算方法が厳格化されたことからCARも地味に規制ぎりぎりの数字になってしまっている。

ただテクニカル的なCARの低下ということもあり、社債投資家の方は特に慌てている気配はなく、さらに言えば減配や増資という形で株式投資家が自己資本規制をクリアするための負担をしてくれるということまで期待しているし、実際その方向に流れていっている。
そうなると配当利回りが高いと飛びついていた人達は減配はされるわ自己株買いもしてもらえないわで踏んだり蹴ったりというところだ。

つまり今の豪州の銀行は新規ローンは出せない、利ザヤはどんどん減少する、手数料ビジネスも不正発覚で拡大ストップ、管理コスト増大、罰金払わなければいけない、規制満たすための自己資本拡充のために増資しなければいけないという六重苦状態にある。
そういった意味では絶対値的な状況は違えど、方向性は欧州や日本の銀行並みに厳しい状況であり、今のところは株として投資の検討遡上にものぼらないだろうということになりそうだ。

つまりはまあ一切の希望は今のところ持てず、まずは十分減配がこれ以上はないであろうという水準にまで自己資本の拡充をしないことにはなかなか株価上昇期待というのは難しいんではないですかねということだろう。 

利下げによるモーゲージ金利低下ブーストが効き始める米国住宅

住宅着工件数:10月は増加、一戸建て堅調-許可件数も拡大

この指標だけ見てると、なんで今利下げ継続してるんでしたっけとなるんですが。

19日に発表された米国住宅関連指標のうち、新築建設許可件数がここ数年のレンジを抜けて飛び出してきた。

<ここ数年の米国建設許可件数>
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まだ実際の新築着工件数にはここまで増加していないが、基本的に許可件数が実際の着工件数に対して1-2カ月先行すると言われており、そのうち新築着工件数も現在のレンジの範囲から上に飛び出すことはほぼ疑いようがないだろう。
結局モーゲージ金利の低下に伴って需要が喚起されており、また足元で不動産業界も不動産価格値上がり幅を圧縮してきていることから、今ぐらいの値段でこのモーゲージ金利であればまあ住宅買ってもいいかと考える人達が米国で増加してきているということを示しているのだろう。

これだけを見ていれば足元の米国株最高値更新というのは決して荒唐無稽な上昇ではなく、きっちり正当化できる上昇と認識できるだろう。
足元で主に軟調な状態になっているのは米中貿易摩擦に伴う輸出入関連業種、つまり製造業が中心であるわけだが、もはや過去と比べて製造業がGDPに占める割合がたったの10数%台にまで低下した米国経済の根幹をゆさぶるものではないということがこれではっきりしてきたと思う。
もちろんこうした製造業に対してサービスを行っている非製造業もおり、これを合わせればGDPに占める割合は20%ちょっとくらいはいくのではないかなあとも思うがそこまでは具体的な集計数値は持ち合わせていない。

ではここからFRBの禁輸政策はどうなるだろうか。
もちろん直近まではISM製造業景況指数もISM非製造業景況指数もPMIも悪く、センチメント系指標も基本的に悪いといった状態が続いていた。
一方で、遅行指数あるいは一致指数ではあるが新規失業保険申請数には緊迫した数値は表れておらず、ここが耐えきった状態でセンチメント系指数が上昇してくれば米国経済は底割れを完全に回避したという判断になるだろう。

つまりここから大幅な利下げというのは非常に見通しにくいことが徐々に濃厚になりつつある。
まずパウエル議長の発言通りしばらくは追加利下げは様子見になるだろう。
そして中国経済の底割れさえなければここから利下げは1回が基本シナリオ、あって2回。
ただ一方ですぐに利上げに転じるかというと米国は共和党においても民主党においても中国を抑えたいという方向性は一致しており、現在起こっている米中貿易摩擦というのはそんな1-2年で全部解決するような話でなく、ロングタームで不連続的に起こるというビッグピクチャーは持っておく必要がある。

そう考えるとすぐにどんどん利上げに転じていくという雰囲気にもなりづらい。
インフレ率については先進国間で人口動態・IT技術の進化による在庫コントロール能力の上昇や供給不足市場に対する供給増加速度の加速によって上がりづらくなっている。
ということを考えていくと例えば米国国債30年がすぐに以前の3%台に乗っかると考えるのも難しそうだ。
あって2.6-7%ぐらいではなかろうか。
 
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プロフィール

村越誠

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