村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2019年11月

インド政府がついにNBFC流動性危機に対してTARP型救済を考慮か

India Mulls US-Styled Bailout for Stressed Lenders



ついに最終手段に手をつけるか。

個人的には以前から関心を持ってみてきたインドのNBFC(ノンバンク)問題について、ついに我慢しきれなくなったインド政府が直接不振なNBFCに金を突っ込む準備をしているかもしれないという報道が出てきた。
具体的にはNBFCが保有している不良資産を政府あるいはインド中銀が買い取るというスキームだ。
これは米国政府がリーマンショック時に行ったTARPと同様なスキームになるだろうと言われている。
今のところはニュースは「政府関係者」からの情報とあり、インド政府および中銀はこの記事に対してはノーコメントとしている。

実際にこれが正式な政策として決定され、十分な金額を出せるならインドのNBFC流動性危機も一旦は収束するであろう。
現在の問題はNBFCが短期借入長期貸し出しを行っている上に、住宅金融およびインフラ融資関連NBFCについてどれだけの融資が不良債権になっているか非常に不透明なことが問題になっている。
インド政府は民間や国営銀行がこうした不良債権を買い取る支援策なども出しているが、その支援策も不十分な量しか出ていないうえ、実際に買い取ってみるととんでもない中身がすぐに減損せざるを得ないようなものだったりする。
だからいずれの銀行もNBFCの資産を新たに買い取ることに対して非常に及び腰になっており、進んでいない。

つまるところ、MMFや銀行から新しい融資を受けられないことに加えて、リファイナンス資金を作りたくても資産売却も進まないことから、NBFCの融資の息の根が実質止まってしまっていることが現在のインド経済の低迷原因となっており、GDP成長率の大幅減速を招いている。
昨日発表されたインドの実質GDP成長率が4.5%というひどい数値をたたき出した原因はこのNBFC流動性危機による融資減退が原因だ。
(詳しくはブログの過去記事をさかのぼって読んでほしい)

インド経済の減速が鮮明に GDP伸び率4.5%の低い水準

インド政府もNBFCに直接資金を投じるような支援策はモラルハザードを招くということを危惧して本腰入れた議論ができていなかったものの、いよいよそうも言っていられないというレベルになってきたのだと思う。

なので上述したような買い入れ策が適切な規模で適切な範囲で実行されるならばこの問題もいよいよ最終局面だなと思う。
ただし、この買い取りスキームについては民主主義国ほど基本的には実行が遅れる可能性がある。
なぜなら民主主義なのでこうした税金を活用した大規模スキームについて自分の支持者から支援を得られないと感じる議員が反対して議会を通せない可能性がかなりあるためだ。
実際に米国ではリーマン前は議会で反対多数で否決されたことからリーマンを救出することができなく、リーマンデフォルト後に深刻化したことからようやく議会を通して決定することができた。
詳しくは下記書籍を読んでもらいたい。


ポールソン回顧録

インドも実際にこのスキームを作るのにどれだけ時間がかかるのか、実際にどれだけの金額を投じることができるのかを見極めたい。
また米国と違い、インドの場合は資金制約が大きいことから資金を投じたときに財政悪化を理由にインドのソブリン格付けが下がらないかということも注意が必要だ。 

中国の化学セクター外資開放で一気に需給バランスが崩れる懸念観測が出始める。

BASF breaks ground on $10bn China chemical complex



これは過剰供給になって全員苦しむ羽目になる。

足元で中国が国内での化学プラント建設について外資への開放をすすめており、外資各社がこぞって新プラント建設に着手しているという話が出ている。
その中でも特に目立つのは欧州勢のようだ。
ドイツ化学大手BASFがすでに100億USDの化学プラントの着工を決めていることに加えて、ベルギー化学大手のソルベイもフィージビリティ調査をしているようだ。
これに加えていくつかの米国企業も興味を示しているとか。

しかしこれは化学会社各社にとって需給を悪化させるニュース以外の何物でもない。
既に足元で化学精製会社各社は化学品とナフサ間のマージンの低下が収益を圧迫し始めている。
これは中国で建設完了してオペレーションを開始した化学プラントからの供給増加に加えて、景気スローダウンによる需要の伸び減退が原因になっている。
ここに倍プッシュで中国での供給増加懸念が上記の外資開放によって加速される可能性が高く、特にコスト高のプラントを持つアジア化学企業にとってはこれによる精製マージンの低下は大きなマイナス以外の何物でもない。
しかもFTのコメントを見れば、こうした投資についてBASFは「長期的なマーケットファンダメンタルズを考えれば大丈夫」という言い方をしており、大体こういう時はほんとうに一番体力のある大手以外はろくでもないことが起こる予兆である。
大手がこういう言い回しをするときは大体みんな同じようなことを言い訳に使って投資を正当化する。
しかも中国での化学プラント建設というのは基本的には中国国内内需の需要取り込み以外は立地面は資源調達面で特にメリットがあるわけではなく、半分利益度外視といってもいいと思っている。

そもそも中国側がなぜこの化学分野の外資参入開放をしているかというと、ここらへんの化学プラントは基本的には中国国内では国営企業が担っているのだが、いかんせん生産量を優先して効率など度外視した高コスト操業ばかりやっている。
当然民間は国営企業の暴力的な供給増などを背景にこの分野に参入する旨味など感じておらず、地元民間からプラントを立ち上げて参入する気のある人なんてのはほぼゼロ。
中国政府もこれ以上国営企業の不採算操業を許すわけにもいかず、だからこそ外資にその負担をさせればよいという割り切り方をしており、これが外資開放の主な狙いであり、必ずしも何の算段もなくこれに参入すれば痛い目を見ることは確実だ。

以上を勘案すれば必然的に化学プラントを持つ化学セクター株が出遅れることは必至であり、今化学セクター株を保有している方はあきらめて違うセクターに切り替えることが吉だと思われる。

債務超過でも利益さえ出ていれば許されるのは米国企業の特権


米国企業だけが許された特権。

一定程度財務分析などができて、米国企業の財務を見にいくと安定した利益は出ているものの自己株買いをしすぎて債務超過、つまり純資産がマイナスになっている企業が意外とあることに驚く人が多いかもしれない。
自己株買いのしすぎて債務超過になっている企業の例として、ホームデポ・スターバックス・マリオット・マクドナルドなどが挙げられる。
またそれを見たことによってじゃあなぜ日本企業は大量に自己資本を蓄積して投資をしないのかといぶかしがる人も少なからずいると思われる。
しかし、これは個人的には米国企業だけが持つ特権だと思っている。

それはなぜなのかと言えば、最後の最後は米国政府がドルを刷り散らかすことによって助けられるからだ。
世界が金融危機や流動性危機に陥った時、企業の最後の砦となるのは現金である。
しかしこの現金というのもどんな通貨でも良いわけではなく、やはり最後はドルを保有していなければいけない。
特に金融機関はドル調達が命綱であるため、ドル調達が絶たれた時点で命運が決まってしまう。
そう考えると、ドルを自国通貨として使う米国企業に一日の長があることぐらいは誰でもすぐわかる。

米国企業はどんなにグローバルな企業であっても、収益の半分ぐらいは米国からきている。
だから自然とドルを手に入れることができる。
そして米国企業は米銀からのコミットメントラインを基本的には保有しており、いざという時のドルファンディングもばっちりだ。
そして本当に世界的に不況がきた時であっても、米国経済はいざとなれば米国政府が無限に輪転機を回してドルを供給すれば米国経済を立て直すことが可能であり、それを市場参加者全員が信じている。
だからこそ米国企業は米国政府がドルを刷り散らかせば基本的に助かると思われる企業については債務超過を普通に許容しているのだ。
また格付け機関もそれを知っているので、米国企業については必ずしも債務超過だからといった理由だけで格下げなどはしない。

しかし米国企業以外は残念ながら話が違う。
米国以外の金融機関はドルファンディングを米国政府の助力なしで自力で行わなければいけない。
そしてドルファンディングが詰まってしまった場合は自動的にドル融資だけでなく自国通貨建て融資についてもストップさせざるを得なくなる。
そうなると金を借りたくても企業は銀行から金を借りれず、資金調達ができなくなることからバタッと倒れてしまう。
それを防ぐためのバッファーは絶対に保有してなければいけない。
新興国になればなるほどそもそも自国通貨建てのファンディングさえ弱いのでそのバッファー幅は厚くなってしまう。
そう考えれば米国企業以外が債務超過のまま許されるという確率は当然低く、企業側もそのリスクははっきりいうと取れない。

つまるところ、ドルが基軸通貨であり、その恩恵にあずかれる企業だけが安定的な利益さえ伴っていれば債務超過を許されるだけであり、それが世界的に適用できるかというそういうわけではないというわけなのである。

国債投資家懇談会要旨から見る日本国債市場まとめ

国債投資家懇談会(議事要旨等)

国債投資家懇談会の資料が出ていたので、その資料を見ながら現状の日本国債市場についてレビュー。

来年度の国債発行予定金額については現状今年度と同程度の32-33兆円程度となる見込みだ。
ただしこれについて現在政府が考えている真水10兆円経済対策で国債増発というシナリオは含まれていない。
(真水10兆円経済対策が本当に実行されるかどうかもわからないし、そもそもそれに伴って国債を増発するかどうかさえもわからないが)

<国債発行計画>
タイトルなし

プロならだれでも知っている通り、日銀がかかげる80兆円国債買い入れというのは毎年の新規国債発行残高30兆円ちょいしかなく、しかもすでに日銀が残存国債の40%以上を持っている中で達成するのは不可能であり、実際に既に日銀の年間残高増加金額は今のペースだと年間30兆円が割れる状態にある。
いわゆるステルステーパリングがこの2年程度続いており、以前のような80兆円買い入れに戻ることはまずないだろうというところだ。

<日銀の国債買い入れペース>
タイトルなし


またこの買い入れでもっとも割りを食っているのが10年未満の短期ゾーンが主軸である銀行であり、これらプレーヤーは国債償還に伴って国債保有高が減少傾向で推移している。
しかし貸出の伸びはこの償還ペース未満であることが昨今の金法の外債やJREIT買い入れ増加の背景にある。
この流れも日銀がおよそ国債発行残高と同程度の買い入れが続く限りにおいては続くものと推察される。

<銀行の国債保有残高>
タイトルなし


生保も10年ゾーンまでの国債保有残高は大きく圧縮し、10年以上超長期ゾーンにシフトするしかなくなっている。

<生保のポジション>
タイトルなし

一方で10年以下ゾーンでは海外投資家の売買高・保有高の影響力が大きくなっている。
これは為替ヘッジにおいてUSDライボーとJPYライボーの差とベーシスを足した為替ヘッジプレミアムを勘案すると同年限米国債を買うよりペイするということで海外勢がマイナス間でガチャガチャ取引する市場になっている。
ただし、国内勢にとってはもはや10年ゾーン以下は売買する合理性がないことから機能していない市場と認識されており、超長期ゾーンのみが機能している市場という認識がなされている。

日本国債の平均償還年限については日銀買い入れに伴ってプラス金利である超長期で発行するケースが増加していることから足元では9年2カ月ぐらいまで伸びており、この流れはしばらく続くものと思われる。

まあここらへんの話は円債村の人達にとっては既に常識であるので、ようは新味のある話はなく現状確認されていることと、現状をまとめたグラフがきれいに載っているといった資料にすぎないということだ。 

詳しくはぜひとも記事冒頭のリンクから資料を見てもらいたい。

中国の天津省傘下のLGFVがデフォルトし、地方政府の暗黙的保証が崩れる

Tewoo Debt Plan Shows China Is Allowing State Firms to Fail

助かるLGFVと助からないLGFVの選別が始まる

中国経済の一番大きな癌としてリスク所在がはっきりしてきたLGFV(地方政府投資ビークル)について昨今続々とデフォルトの話を耳にするようになった。
直近で最も大きなデフォルトとして天津省傘下のLGFVであるTEWOOグループがとうとう天津省の支援を得られずバンザイすることになった。
このLGFVは1000億円以上のドル社債を発行しており、数カ月前まではフィッチから投資適格と認定されていたのが、資金繰りが苦しいというニュースが伝わってからあっという間にB格まで真っ逆さまに格付けがおち、そしてあえなくデフォルトとなった。
この時点でまともにフィッチは中国LGFVの状況なんて見ずに格付けつけてるだろという話もあるが、この問題はとりあえず今はわきに置いておこう。

このTEWOOグループについては既に前からデフォルトしそうだという話はあったし、自分も何回か記事にしていたがとうとう天津省の支援を受けられずデフォルトしたかという感想しかない。

<過去参考記事>

中国天津省傘下のLGFVが本当にデフォルトしそう


そもそもLGFV自体が親会社である省から支援を得られることを前提としたファンディングアピールをしてファンディングをしていたので、特に大きなLGFVがデフォルトするとLGFVに対する選別眼は相当厳しくなるものと推察される。
今回のTEWOOグループのデフォルトではドル建て社債の債務再編がなされており、ニュースを見る限りでは以下のような条件のようだ。
詳細は下記SGXにおけるアナウンスを見てほしいが、見方がわからないという方のためにざっくりと債務再編条件をまとめる。

SGXでアナウンスされているTEWOOグループの債務再編案詳細

2019年償還予定社債・・・天津省傘下の別投資ビークル発行の満期2024年のゼロクーポン債に額面100につき66.7の割り当てで交換
2020年償還予定社債・・・上記と同様発行体から満期2026年の0.15%クーポン債に額面100につき57.3の割り当てで交換
2022年償還予定社債・・・上記と同様発行体から満期2029年の1.55%クーポン債に額面100につき53の割り当てで交換
永久劣後債・・・上記と同様発行体から満期2039年予定の1.6%のクーポン債に額面100につき36の割り当てで交換

つまり一応債務交換先は天津省傘下の投資ビークルが保証するが、50%以上の債務カットになるということのようだ。
ざっくり計算すると普通社債でクーポン込みで回収率40%、永久劣後債だと20%ぐらいのイメージになるかなと感じる。
上記のようにもはや全てのLGFVに100%の地方政府の暗黙保証があるという考え方はできず、これから自力で立てるLGFV、重要性を鑑みて助けてもらえるLGFV、助けてもらえないLGFVで峻別されていくものと思われる。

そこで一番の問題はちゃんと中国政府がこうしたLGFVに多大な融資をしている中小銀行を助けるかどうかだ。
以前記事にしたが、中国の大手銀はインターバンクを通じてシャドーバンキング的に中小銀行に資金を貸し付け、中小銀行はLGFVに暗黙の地方政府があることを前提に融資を行い、焦げ付き、これが目下中国の中小銀行の不良債権が爆増している原因となっている。

<過去参考記事>

BISの中国シャドーバンキング分析レポートが秀逸だったのでまとめてみました。


もし中国政府がここの救済コントロールをミスった場合にはインターバンク金利が跳ね上がり一気に中国の金融システムが瓦解する可能性がある。
ただ、前回の包商銀行のベイルインだけでもインターバンク調達が不安定化したことから、今のところ中国政府はそもそも問題を作った大手銀に対して中小銀行を救済するよう指導しており、問題は金融システムにまでは波及していない。

<過去参考記事>

中国金融当局は銀行の崩壊よりモラルハザードを選んだ


以上を考慮して中国政府はLGFV自体の一定程度のデフォルトは容認しながらも、金融システムが崩壊しないように中小銀行は絶対に支援するという姿勢が明確化しており今のところ中国経済崩壊シナリオは描きにくいが、中国共産党がここのコントロールをミスした場合にはあきらめて全リスク資産を売るしかないだろう。
その点については注意深く中国政府の動向を観察していきたいと思う。

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