村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

米国雇用統計前にインフレ低下証拠となる統計が続々と出現

米ISM製造業景気指数、5月は7カ月連続50割れ 新規受注が急減

最近は債券投資家の方が馬鹿っぽくなってる。

昨日は月初ということもあり、いくつか注視されている米国の統計が発表されたが、チャレンジャー人員削減数・ADP雇用統計の賃金伸び率・ISM製造業が弱かったということもあり、欧州時間までは全体として少し金利上昇で反応してたのだが、あっという間に金利低下に転じ、ドル円も140円のラインから徐々に後退する形で、明らかに追加の金融引き締め機運的なものが剝がれていっているのが確認された。

【米国10年債のチャート】
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それに伴って株価も普通に追加金融引き締めはないし、まだ年内利下げ可能性あるよねというのを好感して普通に月末リバランスを乗り越えて上昇となった。

【ナスダック100のチャート】
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そもそもここ数週間にまともな経済指標もなしに急に6月は金利据え置きだけど7月は一回利上げするかもしれないとかいう謎の予想を市場参加者がしていた理由はなんだったのかと振り返ると、株価上昇なのである。
株価上昇しているから資産効果できっとインフレ率上昇だろうという全く根拠のないインフレ懸念と債券金利上昇観測であった。
(個人的にはそもそも株価上昇にそこまで資産効果があるとは思えない)
債券をメインで見ている人は株価の上昇を見ると、すぐに経済が劇的に上向いているみたいな勘違いをする傾向があるようだが、現在の株価上昇は一部AI期待を除けば、基本的に米国企業が苛烈なリストラを行うことによって生じているものであり、株価上昇=すぐに雇用過熱で景気が上向いている という図式になっていないのである。
しかも今回はブレークイーブンでさえ大して上昇していない中で金利が上昇していたので、より滑稽度は高かった。

【ブレークイーブンの推移】
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https://muragoeinvest.com/ustmarket

そこに月初からチャレンジャー人員削減数統計は高止まり、ADP雇用統計でも賃金伸び率低下が確認されたこと、ISM製造業景況指数も仕入れ価格・新規受注・受注残いずれもクソ弱いときていて、こんなんで7月利上げなんてありうるのかと、ちょっと前まで1回分織り込んでいたのが、既に6割台に利上げ確率が低下している。
(じゃあ100%予想って出てたのはなんだったんだよと)

こんな状態で今日米国雇用統計を迎えるわけであるが、おそらくは市場予想より多少上振れたとしても、基本は無視されると考えている。
なぜなら、既にIndeedの親会社であるリクルートからは、彼らが予想していた流れよりも雇用需要は弱いと言っているので、既に足下発表されている米国の雇用関連統計は既に遅行指標となってしまっているからである。
これについては過去記事に書いているので確認してもらいたい。

【過去参考記事】

Indeedの親会社リクルートの決算コメントから考える米国求人動向

こうした流れからいよいよ6月は米国金融引き締めの終焉と、それに伴う「金利上がらないならリスク資産買うっきゃないだろ」という流れが強まり、テクニカル分析しかすることができず、値ごろ感ショートしたり置いてけぼりになっている人達を無視したトレンドが継続すると思われる。

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もはやセルサイドでも擁護できなくなった中国景気の悪化

中国5月製造業PMI、48.8に予想外の低下 需要低迷響く

こんなの擁護は無理とセルサイドが白旗をあげた。

昨日発表された中国製造業PMIは48.8と市場予想49.2に対して大幅に下回り、セルサイドがこれまで「中国景気は回復している」というのは大嘘で、これまで当ブログで書いてきた「中国景気は悪化してデフレに向かっている」という説の方が正しいことが立証された。

【過去参考記事】
これから中国が長いデフレに苦しむ理由

これを受けて、香港株価は急落し、債券金利も低下と景気対策(財政とか金融緩和とか)を催促する典型的な催促相場となった。

【香港ハンセン指数のチャート】
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報道を見ていると、この指標を受けて中国共産党が示唆するような景気はコロナ底から回復が続いているという大嘘を支持し続けるのは無理だとしてセルサイドは一斉に「景気支援が必要。財政・金融政策なんでもいいからさっさとやれ」というのを非常に柔らかいニュアンスで言及しているのが目立つ。
これまではセルサイドは「中国景気は悪くなっている」なんて大々的なレポートを出したら、習近平からどんな粛清を受けるかわからないし、そうはっきり言える程の経済指標が出ていなかったということもあり、「中国の景気は多分大丈夫」みたいな中途半端なレポートを出して習近平におべっかをかきながら、情報を受けている投資家には嘘の情報を流していた。

しかし、昨日の製造業PMIの数値を見て、これで「中国景気は底堅い」なんてレポートを出した日には機関投資家から「こんなの小学生が見たって景気悪化してるのわかるだろ!ふざけんな!」となって二度と中国関連レポートを信用されなくなるわけで、機関投資家の信頼を失ってビジネス失注するぐらいなら、「中国景気は悪化している」と書いて中国共産党に詰められたら「いやいや、統計見てるでしょさすがに」と抗弁できるので、一斉に手のひらを返したと考えられる。

また、何かしらの景気対策はこういう統計出てきたらさすがにやるでしょという期待が出ているのか、株は下落したが、資金繰りに困窮している不動産デベロッパーのドル建て社債価格は上昇しており、いくらなんでもこの経済指標出て景気対策しない政府なんて存在するの?という前提で相場は動いている。

Vanke Real Estate (Hong Kong) Co. Ltd. 3,975% 17/27の価格チャート
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https://www.boerse-frankfurt.de/bond/xs1713193586-vanke-real-estate-hong-kong-co-ltd-3-975-17-27

ここまで来れば、市場は中国政府のアクション待ちというのが現状のステータスだろう。
もちろん習近平がよしとしないことで、何も景気対策が出てこないという斜め下の展開になる可能性はあるが、そうなれば景気対策が出てくるまで外国人投資家はひたすら中国のリスク資産を売るだけなので、最終的に困るのは習近平ですよという形で脅すだろうと思われる。
あえて中国株を触りたいという奇特な個人投資家は、こうしたアクションが出てくるまでは基本お触りは禁止ということで何も問題はないと思う。

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王道テーマ以外の投資関連書籍が出版される予定ができると相場は曲がる


2030年すべてが加速する未来に備える投資法

KADOKAWAとプレジデント社から投資書籍が販売されると曲がる。

自分は色々な投資関連書籍や経済書籍を読んでいるが、その中で上記リンクの書籍が個人的には衝撃であった。
それは内容が衝撃的であったからではない。
上記書籍は2020~2021年に大流行りした米国・中国新興銘柄バブルのテーマに沿ったビジネスがこれから大活躍すると豪語している内容であった。
そしてこれが2022年1月に発売されている。
つまり出版計画されたところらへんで、この書籍で言及されている銘柄の株価はドピークを迎え、そして発売したころはその崩壊のど真ん中にいて、この書籍の内容を鵜呑みにして投資したら多額の損失を被るといった話である。

こうした逆神的な書籍を時々見かけるが、どうやったらこういう事象に気づけるのだろうか?
個人的に注意したいのは、どこの出版社が発売している書籍なのかというところにありそうと思う。
例えばこれが日経や東洋経済とかだと、まだぎりぎり救いようがある。
なぜかと言えば、彼らは経済関連情報を主として扱っており、出版元もちゃんとした調査機関であったり、当事者であったりするため、まだ一般に認知される前から技術的な解説をしてくれる書籍だったりするため、逆に相場の手がかりになったりする。

一方で、駄目なのはこうした経済関連情報を主として来ていない出版社からの投資書籍が出版されるケースである。
最近だとその筆頭格はKADOKAWAとプレジデント社である。
どちらもまともに経済情報や相場がわかっていない編集者が、多くの人が気づいて人気沸騰なネタに基づいて何を出版するか決めるため、出版が決まったところがそのテーマのドピークであったりする。
そして出版する頃には既にそのネタが終了して相場が崩壊している状況で出版されて、低評価が付きまくるという構図になる。
KADOKAWAは単純に編集者の経済に対するセンスのなさというのがあるが、プレジデント社はメイン読者層が低収入層であるため、下手に相場に取り組んでいる人もいて相場ドピークで破産するような投資ポートフォリオ組んじゃう人に合わせているのでより厄介だったりする。

 今回ブログ記事の最初にリンクを貼ったプレジデント社から出ている書籍は2022年1月に発売されたものだが、ものの見事にこうしたまだ金になるか不明・あるいは絶対に金にならない新ビジネスに取り組んでいる新興銘柄バブルの相場が崩壊しているど真ん中での発売となった。

その他、KADOKAWAから発行された悪名高き風〇氏の悪魔的投資リターン(棒)が得られるレバナス投資書籍について、本人が「書籍販売が決定しました!」とツイッターでうきうきにつぶやいたところがレバナスのドピークで、結局発売した時はレバナス信者全員が資産の半分を失った段階であったことは記憶に新しい。

【参考書籍】

米国株「レバナス」投資 月1万円の積み立てから狙う“悪魔的リターン”

米国株積み立て投資ぐらいの内容だと、投資の中では王道中の王道ということであまり曲がらないのだが、こうした特殊なテーマの書籍刊行が予定された段階で、その相場テーマは既に旬が終わっており、危険であることに気づくべきであり、特にKADOKAWA・プレジデント社・幻冬舎あたりから出てきた時はかなり危険なんではないかと考えるべきだろう。

ちなみに、KADOKAWAからはこれまで相場暴落でナスダックショートが大正義と豪語してきたYoutuberが8月に投資書籍を発売すると言っているので、このショートのテーマが曲がり続ける可能性は相応に高いだろうと思われる。

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政府支援なし・人員削減なしで両手両足縛られる形で沈む中国IT企業

アリババ、1.5万人を今年採用すると発表-人員削減報道を否定

こんなん株価上昇なんて無理に決まっている。

5/25の日本時間深夜頃に上記アリババが人員削減報道を否定して、今年1.5万人を採用しますと発表した報道を見て、これまで中国テック株への投資について否定的だったが、この報道を見る限り中国IT企業がもはや投資対象候補にもならないことを意味しているなと絶望感を感じた。

それは昨今の米国IT企業の株価上昇は何が一番の要因だったか思いだしてもらえればすぐわかる。
足下の米国IT企業の株価上昇はリストラによるコスト削減を発火点としており、景気が鈍化する中でリストラをすることは景気悪化度合いが大きい国では必須である。
その中でも特に足元で景気状況が最悪なのが中国であり、この辺は下記を参考にしてもらいたい。

【過去参考記事】
これから中国が長いデフレに苦しむ理由

デフレが深刻化していく中では、とにかくコストカットは企業の業績立て直しでは最重要項目である。
そのためこれまで中国IT企業関連のニュースではリストラを何人するかといった報道が常々流れていた。
しかし、昨日は日本時間24時頃にアリババがこれまでの人員削減報道を否定して、1.5万人採用しますと発表したわけである。
これを境に、米国上場中国テック株は一気に雪崩を打つ形で下落してしまった。

【CQQQの株価チャート】
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なぜこのような事態になったかというと、普通に考えれば若年層の失業率の高さ・大卒の無職者が多すぎて社会問題になり始めている中、中国共産党から「リストラとかふざけんな!中国のためにきっちり若者を採用しろ!」と命令を受けて、これまで計画していたリストラ策をひっくり返された挙句、無駄な余剰人員を抱えることになってしまったということである。
ようは、この発表を受けて市場は「業績立て直しに必要なリストラを中国共産党によって無効化されるどころか余計な人員も抱え込む必要にまで迫られた」と情報を受け止め、共同富裕の名の下に引き続き中国共産党によって政治的目標達成のために好き勝手に利益を収奪されているということが明らかになったのである。

つまり、株価にとって重要かつ根源的なものである利益を増加させるための努力を中国共産党によって阻害されているのである。
しかも、さらに言えば先ほどの過去参考記事にあった通り、個別企業の活動を阻害しているだけでなく、マクロ経済においてもでたらめな経済政策を行っているがために、さらに追い打ちをかけるように中国企業は追い詰められている形になっている。

このように助け船がないどころか、泥船を沈められる形で妨害されており、これでは下記過去参考記事に書いてある通り、株価が底を打つための人間の努力という力を発揮することはできない。

【過去参考記事】
なぜ株価は傍から見れば最悪な経済状況・タイミングで底打ちするのか

こうしたことをきっちり観察できていれば、中国テック株に投資するなんてことは自殺行為以外の何物でもないことがすぐわかると思う。

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米国債務上限引き上げが政治ショーになった歴史的背景と今後の考え方

米債務上限合意で円安・株高継続か リスク志向強まる

単なる政治ショーの終了。

日曜日の日本時間午前の段階でこれまで相場の重しになっていた米国債務上限について、原則合意の方向で5/31に妥結するという報道が出てきて、金曜日時点で米国株大幅高だったのに、月曜日になってさらに先物ベースで上昇する形になった(月曜日は米国株休場)。
今回のドタバタ騒ぎを見ると、そもそも債務上限問題ってなんでここ数年クローズアップされているのか・今後債務上限で合意できないというケースが生じる可能性があるのかというのを、過去の経緯からきちんと検証しておく必要性があると思うので、今回はそれについてまとめていきたい。

そもそもこの米国債務上限問題は、1917年に債務上限を定める法律が制定され、新しく債務を増やす際に議会を通す必要性があるという形になって以降は、1960年以降は過去80回にわたって引き上げを繰り返してきた伝統行事的な側面がある。

しかし、この債務上限問題については2011年以降に度々相場を揺るがすトピックスとして挙がってきている。
その背景としては、リーマンショックを機会に政府債務・税金という部分が政治的な問題に発展していることに起因している。
リーマンショックの時は巨額の税金を使って巨額報酬をむさぼってきた金融機関を救済してきたということもあり、この税金の使い方についてティーパーティー運動という政治問題に発展する運動が2009年より勃発した。

【参考ページ】

ティーパーティー運動 - Wikipedia




リーマンショック以前はこうした運動が起きていなかったことから、債務上限の際には特段政治ショーをする必要性がなく、債務上限引き上げについて特段問題は起きてこなかった。
しかし、リーマンショック以降はティーパーティー運動を発端として、債務上限引き上げ時には野党が債務上限引き上げに抵抗を見せることによって政治的パフォーマンスを見せて票を稼ぐという手段が有効となってしまった。

このことが2011年以降債務上限期限が近付くにつれどたばた騒ぎが米国で起きる原因である。
特に、小さな政府をめざす共和党が野党の時は民主党の拡張的な財政政策に対して期限ぎりぎりまで反抗して、支持者にアピールするというインセンティブが高く、今回も御多分にもれずそうした流れとなった。

ただし、2011年に変に政治ショーとして見せてしまったことからS&Pが米国債を格下げする米国格下げショックなるものが生じてしまったことは皆が知るところである。
この時は債務上限が政治問題に発展した初めてのケースということもあり、格付け会社と米国政府間でのコミュニケーションが十分でなかったと考えることができるだろう。
今回の債務上限問題でも多くの個人投資家が再び同様なことが起こるのではないかと危惧しているのはツイッターを見れば一目瞭然であった。
しかし、過去に犯した過ちをもう一度無防備に起こすほど米国政治家は馬鹿ではない。
想像するに、おそらく債務上限が近付いてきた時は格付け会社とコミュニケーションを取り、いつまでに債務上限を引き上げなければいけないかというデッドラインについてコミュニケーションを取っているはずである。

こうしたことを考慮すれば債務上限問題については政治ショーの範疇を超えることは今のところなく、VARなどで損切ラインがシビアな機関投資家ならともかく、単月どころか年単位で投資パフォーマンスを気にする必要性がない個人投資家がこんなしょうもない材料を不安がっていてどうすんだという話である。
特に一般人が心配するレベルである内容を米国政治家がみすみす愚行を犯すという考え方自体が、さすがに米国政治家を見くびりすぎという話だろう。
びびって利益確定したり、買いそびれたり、はたまた間違えてショートを入れた人などは目の前に転がっていた押し目を拾い損ねたと評価できるだろう。

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