村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

中東

サウジアラビアの増産脅迫は単に時間を無駄に費やしただけだった

サウジが追加の自主減産表明、日量100万バレル

やっぱりビンサルマン氏は馬鹿なんではなかろうか。

ご存じの通り3月の暴落のうちの一つの要因としてOPECの減産交渉決裂が要因になっていた。

<過去参考記事>

サウジアラビアの原油増産の選択肢は相場にとって最悪の行為


サウジアラビアは条件反射みたいにじゃあ増産してやるとかいうわけのわからないムーヴをした挙句、OPEC自体の信頼性を低下させる大きな事件となった。
しかしその後結局4月に入ってから各プレイヤー耐えられなくなったことから、米国・ロシア・サウジア間で何かしらの交渉が行われ、ここから態度が翻る形となった。
噂ではロシアは米国が邪魔していたノルドストリーム2の許可を得たというのがまことしやかに噂されている。
一方でサウジアラビアは何を得たのだろうか?
おそらく何も得ていない上に、米国のサウジに対する信頼感も低下しているように思われる。
そして何もリターンを得られなかった挙句、なんとか財政を少しでも維持させるためにVATを5%から15%に増加させるという暴挙にも出た。

<参考ニュース>
サウジアラビア、歳出を大幅削減 原油安、付加価値税を増税

これと併せてさらなる日量100万バレルの減産にも言及している。
これを考えると、状態としてはOPEC決裂前にサウジに期待されていた減産幅を履行したことと同じ状態になっている。

結局総括すればサウジアラビアは短絡的な思考でいたずらに無為な時間を過ごし、世界各地の備蓄タンクを満杯にして原油価格の下げ足を速めた挙句、何もリターンを得られなく自分へのダメージを深刻化させただけであった。

このような失策が続くと下手するとビンサルマン氏の地位も場合によっては危うくなるのではないだろうか?
もちろんその間に対立派を逮捕・資産没収・拷問・処刑にかけて潰すというやり方を行い粛正するだろう。
そういったニュースが出始めてサウジアラビアという国の体制自体が揺らいだ時、本当の原油高という現象が生じるかもしれないと、近い未来ではないものの可能性だけは頭に入れておこうと思う次第だ。

なお足元の原油価格については少なくとも世界各国の備蓄タンクの備蓄量が減少し始めるというところが見れないとOPEC交渉決裂前価格に戻ることはないだろうと推察している。
なぜなら上記で書いている通り、サウジアラビアが二度と取り戻すことのできない貴重な減産交渉時間を無駄に費やしてしまったからだ。
その咎はしっかり受けてもらおうじゃないかというのがマーケットの総意のように見える。


サウジアラビアを知るための63章
 

イラクがこんな混とんとした状況になることを避ける未来はなかったのか

サッダーム・フセイン - Wikipedia



いや、あんまり結末は変わらなかったかも。

今の中東情勢の混乱原因はひとえにイラク戦争によるサダムフセインの失脚がきっかけになっている。
ご存知の通り中東地域の国境線というのは欧州列強によっててきとーに引かれた国境線であり、部族・民族や宗教などできちんと引いた国境線ではない。
そのため、政治家が自分の権力と利益を確保するために特定の部族・民族・宗教をえこひいきすることにより国内の争いの火種が大きくなっていき、最終的には内戦のような状態にまで発展しがちだ。
しかもそこに大国(主に米国・欧州・ロシア・イラン間だが)の思惑が絡むことにより、より複雑な武力闘争が行われるという事態になる。
イラクという国家は特にシーア派イランとスンニ派サウジアラビアの中間点におり、加えて北の方にはクルド人も住んでいるということもあり中東国家の中でも部族・民族・宗教バランスを取るのが非常に難しい地域である。
しかもそこに石油資源が絡むので、より利益闘争というのは激しくなる。
そこをサダムフセイン時代はサダムフセインの強権的独裁によって無理やり押さえつけていた。
その押さえつけ方はどの部族・民族・宗教にも言い方を変えれば平等に圧力をかけることにより、特定の集団が声高に利益を主張しないように暴力を振りかざしながらバランスを取っていた。
しかしイラク戦争によって米国がサダムフセインをイラクから追放してしまったことにより、各利害関係集団がここぞとばかりに利権を巡って争いをを始めてしまった。
そしてこれを米軍はコントロールすることができず、そのため各利害関係集団に周辺国や大国の思惑などが重なってアンコントローラブルに陥ったというのがイラク戦争以降のイラクの現状である。

ではイラク戦争を回避し、サダムフセインが大統領に居座り続けることができる未来があったのかというのを考えると、サダムフセインのウィキペディアを見る限りは難しそうに感じる。
サダムフセインの経歴を見ると元来暴力を行使していくことによって成り上がってきたというのが伺え、常に暴力をもって物事を推し進めるインセンティブが当人の中では高かったことは間違いない。
しかもイランに対抗するために様々な支援を欧米から受けてきたサダムフセインは途中から何を勘違いしたのか武力をあからさまにイラン以外の周辺国に振るうといった暴挙に出ていた。
加えてシーア派が多いイラクにおいて背後に革命を輸出してシーア派を支援している武力大国イランがいることから、少しでも弱みを見せることは即死を招きかねないということもあったのだろう。

こうしたサダムフセインの得意とする強権暴力による支配と欧米から支援を受けてきたことによる武力大国の指向が結果的に最後は米国との仲たがいを生み、イラク戦争へいたったわけで、やはりサダムフセインの暴力性は遅かれ早かれ先進国に脅威と見なされる運命にあったのではないだろうか?
一方でイラクを統治するにはそれだけの暴力性を持った指導者でないと難しいというのも真であり、結果的にイラクは現在のような混迷に陥る運命は避けられなかったように思われる。

なお、イラクやイスラムについては下記書籍を参考にしてほしい。


イラクとアメリカ 


現代アラブの社会思想 終末論とイスラーム主義 (講談社現代新書)

米国・イラン間の緊張の高まりについて、ここまでわかっていることをまとめてみる。

色々起こっているけど、確信持てない情報とかが大量に出回っているので、自分が把握できることを改めて書き出して整理したい。

・イラク政府の米軍追放条例可決について
イラク国内はスンニ派とシーア派に二宗教が混在する地域で、イラク戦争前はフセイン大統領がこれを無理やり押さえつけて国を治めていた。
しかし、米国がイラク戦争でこの地獄の窯の蓋を開けてしまったがために、両宗派のいがみあいが激しくなり、ご存じの通り米軍にもテロ的な攻撃を繰り返すレベルでどうしようもない状態に陥った。
そしてイラク政府内にはこのシーア派とスンニ派のいがみあいが未だ続いており、今回の米軍追放条例可決はシーア派が仕掛けてきたものである。
一方でスンニ派はイランのソレイマニ氏の爆殺が嬉しくてしょうがなく、今回の米軍によるイラン重要人物の殺害は米国・イラン間の緊張の高まりだけでなく、イラン国内での宗派の対立を再び煽るような雰囲気が出始めている。
おそらく情勢が爆発するとすればまずはイラク国内で動乱が爆発的に増加するところからスタートするので、それが始まるのかどうかを観察したい。

イラク議会、米軍追放を決議 背景にイランの思惑



・米国とイランの激しい口攻撃
ここまで米国のトランプ大統領とイランのホメイニ師はどちらも激しい口攻撃を展開している。
しかし、実際に情勢が動いているのはイラクに留まっており、イランにまではまだ直接的な攻撃は出ていない。
一方でイラク国内の米軍や米国人にはどうやらゲリラ的なテロが仕掛けられ始めているというニュースもちらほら出てきており、イラク国内の米軍拠点がテロ的な攻撃に合う可能性はかなり高まってきている。

・イランの核合意破棄の脅し
イランが核合意を破棄して核実験を続けるぞと懇意にしていた欧州各国に対して脅しをかけ始めている。
実質的には欧州国家はおろおろするばかりで、イランとほとんどまともな議論は行えていない。
欧州国家ができることはなんとか米国にこれ以上事態を悪化させないでくれと懇願することだけだが、ここまでトランプ大統領は全く聞く耳もたずといったところ・・・

・地理的に近い欧州資産は他の地域よりダメージが出るだろう
中東経済は地理的に近い欧州の経済とつながりを持っている。
中東情勢が荒れると難民が欧州へ向かったり、欧州からの中東への輸出が減少することによって欧州企業へダメージが出ることから、まだ状況が実現していなくても欧州株を売りに来る投資家もそこそこいるだろう。
また直接的に隣接するトルコ資産関連も従前より厳しい値動きをしそうな感じもしている。

・原油価格は上振れ傾向
シェールガスの生産の伸びが鈍化しそうというファクターとOPECが減産を続けているというファクターから、景況感は弱いものの原油価格は需給の引き締まりが見られそうということで原油価格は素直に中東情勢の緊張高まりに応じて上振れてきている。

<過去記事参考>

景気はスローダウンしているが原油価格は底堅い理由


こうして色々列挙してみると、一番実際にやばい事象が起きそうなのは断然イラクであることは間違いないだろう。
イラクでどれだけ宗派間の緊張が高まって事態が悪化するか、イランは本当に核合意破ってそのまま核実験を強行するのか、その時米国(トランプ大統領)は一体どのような決定を下すのかが足元最も重要なポイントとなっている。
まだイラン・米国のまじもん戦争というところまでは情勢は発展していないと個人的には考えている。

米国もイランもいかに金をかけず報復したいのかを考えている

トランプ大統領の指示でイラン精鋭部隊司令官を殺害-米国防総省

両者とも直接的な戦争には発展させたくないから口だけ合戦か代理戦争の拡大かのどちらか。

米軍がイラクのバグダッド空港近くにてイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害したと発表し、イラン側もこれを事実と認めたことから米国・イラン間の緊張が一気に高まり、戦争懸念が高まったということでリスクオフの動きとなった。
なぜ今回このタイミングでこのイラン軍関係者を殺害発表したのかというと、大体のニュースは選挙に向けた支持率確保のためという報道がほとんどであり、個人的にもまあそうなんだろうなと思う。

そういった諸々を考えると現実論的にはイランと米軍が直接的な戦争になる可能性は限りなくゼロだ。
理由としては米軍にとってイランとの直接戦争はちょっとした中東の紛争とは違って桁違いの被害が出る可能性が高い。
イラク戦争の時はたった数日で片がついたが、これはイラクの人口が2400万人ぐらいしかいなかったことにくわえて、イラク国内の宗教派閥や政治派閥がバラバラであったことからフセイン大統領の軍掌握力が低く、あっという間に首都が米軍によって抑えられてしまったからだ。
しかしイランはそうはいかない。
イランは人口が8100万人もおり、この人口数は中東でいうとエジプト・トルコと同レベルのトップクラスの数がおり、はっきりいうと他の中東国の比にならないレベルでいる。
しかも宗派はシーア派で統一されており、国としての政治結束力や軍掌握力も他の中東国家と比べても段違いだ。
なので直接対決になればイラクのように楽勝制圧とはならず、どう考えても長い期間の泥沼戦争となる。
これは他のイランと対立している中東国家も同じように考えており、サウジアラビアもイランと対立しているが、かといって直接戦争はあまりにもコストがかかるし、現実的におそらくサウジアラビアとイランが対決したらサウジアラビアが負けるので直接戦争に発展することだけは辞めてほしいと思っている。
それに米国側も戦争になれば資金面以上に兵士の死亡数によって大きくトランプ政権の支持率が大幅に下がっていくことは目に見えているので、トランプ政権も口では先制攻撃だの威勢のいいことは言っているが、所詮口だけということはほぼ間違いない。

一方でイランはイランで経済的にかなり苦しい状態にあり、戦争を負担しきれる金を持ち合わせておらず、戦争に発展すれば確実に国内から経済困窮に対する不満がよりエスカレーションし、内部が戦争に耐えきれるレベルで政府支持率を維持することが難しい。
特にあらゆる物資が戦争に使用されるため、ただでさえインフレ率が高いところに一気にモノの供給不足が発生するため、インフレ率は一般国民が耐えきれないレベルに振り切れるだろう。
それを反米・宗教統制だけで果たして維持できるのかどうか非常に疑わしい。
だからとりあえず口だけ激しいことをいって相手側をびびらせて少しでも行動を抑制させたいという誘因が非常に大きい。

もちろん直接対決ではなく、今回のような他国におけるピンポイント殺害・代理戦争的な動きは増加するかもしれないが、イラン本土空爆や侵攻などというレベルはコスト面を考えれば両者ともリターンに見合わないコストを払うだけのように見える。
それにイラン側は本気になったら国民総火の玉的動きを見せる可能性も十分にあるため、現状は両者ともお互いの国以外でのピンポイント殺害および代理戦争、加えて激しい口攻撃に終始するものと思われる。
ありえる最悪の事態はイラクでイランがバックにいるテロ組織一派が継続的に駐留米軍に対してゲリラ的テロ攻撃を繰り返すというレベルではないかと思う。

相場としてはCNN発表のFear&Greed Indexを見れば強気すぎるのは明らかで、少しでも市場が懸念だと思うことが起これば多少市場が冷えるのはそりゃしょうがない動きでしょうと思う。

<Fear&Greed Indexの推移>
タイトルなし

 

イラン政権の不安定化は中東情勢の安定化要因

Iran to raise taxes as US sanctions hit oil revenues



これを見ると、イランは以前のような余裕がもはやない。

米国が制裁を強化してから早数年がたっているイランの経済状況だが、かなり厳しい状態になっている。
逆にいえば、米国の経済制裁効果はかなり高いとも評価できる。
米国はイラン産原油を各国に輸入しないように圧力をかけたり、イランが原油掘削道具や技術を導入できないようにグローバル企業に圧力をかけており、これによりイランの原油生産量および輸出量はずっと減少傾向にある。
原油価格もかつての高価格の状況から40%も減少しているわけで、FTの報道では原油関連収入はかつての70%の水準まで減少している。
一方でイランは原油以外はまともな輸出物がないということもあり、外貨の帳尻合わせはかなり苦しい状態にあり、財政の帳尻も合わないことから補助金のカットに加えて税率の引き上げもやむをえずということになっている。

特にヘルスケア費用については現地通貨ベースで賃金が15%しか上がらない中、83%の値上がりするなど国民の生活に圧迫感が生じているのは確かだ。
しかし、これは逆に中東に安定感をもたらす一つの要因でもある。
現在中東は宗教・部族間の派閥争い的な戦争が多数勃発しており、特に一番大きくかつ危険なのはイランとサウジというシーア派・スンニ派の覇権争いだ。
イランは革命以降、シーア派戦闘集団に対して裏で武器や資金を供給し、革命を輸出するという行為を継続して行ってきた。
その原資がいわゆるオイルマネーなのである。
しかし、昨今の税収入の減少に伴い、自国民を食わすことも徐々に難しくなっており、必然的にシーア派戦闘集団への支援や対外の代理戦争にかける金を減らすしかなくなる。
少なくとも大規模な新たな戦争をしかける余裕はなく、シリアとイエメンへのシーア派戦闘員への支援だけで精一杯でこれ以上の支援拡大は逆に自国民の不満が暴発し、政権をひっくり返されるリスクが高くなる。

今のところはイランの政権は反米を煽ることによって表面上体裁は整えているものの、このままインフレの状況が続くとどこで不満が大爆発して政権の正統性に疑問を投げかけられるかわからない。
そうなればポーズだけでも国民ファーストというのを見せながらの難しい政権運営になるだろう。

イランは中東の中ではエジプトと並ぶ最大の人口数を誇る国であり、外から戦争をしかけて崩せるような国ではなく、内部からの崩壊が一番効率の良いダメージの与え方である。
これこそが米国とサウジアラビアが望む状態であり、このイランの状態は中東地政学の不安定化ではなく、安定化に寄与するものと思われる。
 
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