村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

米国経済

米国雇用統計結果の見方と株に対するスタンスが人によって大きく分かれているように見える

意見がばらっばら。

先週金曜日の雇用統計が終わり、ここ数日様々な意見をX上やメディアで見てきたが、同じ雇用統計結果を見ているはずなのにこれほど意見がばらつくのはめずらしいと感じたので、まとめてみることにした。

あくまで個人的な感触ではあるが、先週金曜日の雇用統計を強いと見る派閥・見た目ほど強くないと見る派閥で分かれるのと、この雇用統計結果を受けて株価に強気な派閥と弱気な派閥で分かれているように見えるので、それぞれどういう部類の人達なのか分けていきたい。

①雇用統計は強く、利上げが後ろに倒れるため、株価は調整(あるいは暴落)する派
これは一定程度金融市場に詳しい人とデイトレ・スイングトレなど比較的短期でぶんまわしている人に多い言説のように思える。
雇用統計の数値は素直にそのまま強いものと受け取るが、その強さゆえにFRBの金融引き締めは市場想定よりも長期間にわたり、インフレ退治には株価下落が必須だと考える派閥である。
こうした主張をする人達の意見は比較的理論だっており、ぱっと聞く限りは合っていそうに思える。
しかし、一定程度金融市場に知見があるゆえに「今年利下げ6回はありえない」と決めつけている人も多く、金利低下・株価上昇した場合にはこの傲慢さに足を掬われる可能性はありえそうだ。
ただ、実際にこの人達が主張することにはかなりの合理性もあり、相場がこの流れになる可能性はまだ否定できない。

②雇用統計は強いがゆえに、米国景気が堅調なので株価は上昇する派
これは2021年末にレバナスをド高値で掴んだ派閥に多く、いわゆる万年強気派であり、何かを考えているようで何も考えていないか、全く金融市場とはかけ離れた理論で買いを煽る人に多い。
ただし、常に強気ということもあり、一度上昇相場になれば強いことは確かだが、中央銀行の金融政策なんて全く見ておらず、引き際間違えて普通にそのうちやらかす派閥である。
このような無鉄砲は現在はあまりX上もメディア上も少なく、色物扱い的な存在になっていることから、相場全体の過熱感は薄いんだろうなということはなんとなくわかるバロメーターである。
この派閥の人は大体言っていることが浅いか全然間違った方向であるゆえに、あまり聞くには値せず、単純にこんなバカげた理論言う人がどれぐらいいるのかというのを探って、過熱感を探るぐらいのテンションでいいのではないかと思う。

③雇用は見た目ほど強くなく(あるいは弱い)、それゆえに利下げで金融相場になる派
これは当ブログのスタンスであると同時に、債券金利に対して強気派な派閥である。
雇用は見た目ほど強くないが、それゆえに今年年6回利下げは十分にありうるし、ソフトランディングで株価が金融相場で上昇するナローパスの通過に成功するという派閥である。
個人的にはなぜそうなるのかは説明できるし、当ブログでも書いてきたのだが、多くの人には「そんな都合良いことあるか?」と疑問に思われる傾向にあるように思う。

【過去参考記事】
景気のハードランディングはどのように発生するのか?米国景気はハードランディングするのか?

ただ、こうした主張をする人達はもう「ソフトランディングすることを前提」としているため、その前提が崩れた場合は上手く立ち回らないと実は②と大したことない形で相場が下落するのに巻き込まれるので注意が必要だ。
あとなぜソフトランディングするのかについては人によって説がばらつくこともあり、実はあまり一枚岩的な派閥ではない。

④雇用は見た目ほど強くなく(あるいは弱い)、このまま景気低迷で株価調整(あるいは暴落)
最近は減ったが、2023年からずっと暴落煽りしている派閥に多い。
雇用が見た目ほど強くないという理論は当方と同じなのだが、その結論がこのまま逆業績相場で景気は底抜けして株価は下がっていくという理論である。
その間に利下げとかの金融緩和は?というのに対しては過去30年は逆イールド後は株価が暴落するから暴落は間違いないんじゃあああという原理主義的な説をぶちかましてくる傾向にある。
暴落せずとも、現状が逆業績相場なので、景気調整もあいまって株価下落するという心配派的な人も多いように思う。
ただし、この心配派の多くは、実際は株を買いそびれたために早く自分が買いたい株価水準にまで落ちてこいという派閥であり、なんとなくこのスタンスの人は多いように思う。

このように同じ雇用統計を見ているはずなのに、2×2の4パターンにばっつり派閥が分かれているのを見ると、相場は現状高くも安くもない中立ゾーンぐらいで、あとはFRBの金融緩和スタンスが適切かどうかにかかっているように思う。

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市場参加者は米国CPIをもうほとんど材料視していない

米消費者物価指数、12月3.4%上昇 市場予想を上回る

そこにもう市場ドライバーはない。

注目の米国インフレ率(CPI)統計が発表されたので内容と市場反応を確認したい。
CPi統計結果は市場予想は前月比0.2%上昇に対して結果0.3%上昇、市場予想前年比3.2%上昇に対して結果3.4%、コアは市場予想前月比0.3%に対して結果0.3%、市場予想前年比3.8%に対して結果3.9%と全体として若干上振れとなったものの、コアの数値は12月発表数値から低下している。
家賃以外が少し上振れたものの、家賃は前年比比較だと前回6.5%から6.2%に下落しており、引き続き家賃低下傾向は予想しやすい上に、原油価格と農産物コモディティ価格(特に農産物コモディティ価格)が下がっている中でまあまた来月以降に期待しましょというのは継続しているように思われる。

統計が出た後の市場の動きは、もうほぼCPIデータを精査していないし、それが市場ドライバーになっていないことを示した。
発表してから30年債入札までは金利上昇・株価下落で反応したが、それはもうその後に控えている30年債入札前の調整ムーブであった。
入札が順調だったということで債券金利低下+株式上昇の組み合わせとなり、結局引けてみれば債券金利は大幅低下し、株式も大型株は微プラスからほぼフラットとなった。

【米国10年債金利のチャート】
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タカ派芸人で有名なメスター氏の発言も債券金利低下の後押しとなった。

【参考ニュース】
メスター総裁、「3月は利下げ時期として恐らく早過ぎる」

市場をよく知らない人が文字通り受け取れば「やはり3月利下げは市場が織り込みすぎている」という判断になるが、債券市場では全く受け止められ方は違う。
タカ派芸人であるメスター氏が「3月利下げはおそらく早すぎる」という発言は相当弱気な発言であり、彼女のプッシュバックがなければFRBメンバーで3月利下げをプッシュバックできるFRBメンバーはほぼいないことを意味する。
なので安心して債券は金利低下方向に賭けられるし、3月利下げも十分あり得るという話になる。
実際にCME開示の政策金利予想織り込みでこのプッシュバックはほとんど意味なしと捉えられているのか動かなかった。
(むしろ3月利下げ織り込みの可能性は若干増えた)
3月から利下げ開始の年6回利下げはないと断定している人は、その判断が間違っている可能性は高まりつつあるように思う。

そういうわけで、引き続き3月利下げ前提の金融相場で、市場としては3歩進んで2歩下がるを繰り返しながらじりじりと上昇していく展開を予想する方向でいいのではないかと思う。

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FRBメンバーからはっきりとしたQT縮小or停止議論発言が出る



やはり気にしてないわけがない。

土日の休みということがあるが、FRBメンバーからいくつか発言が出てきているが、その中でもいつものFRBウォッチャーのWSJのNickからのツイートで、FRB理事のローガン氏がQTの縮小or停止について言及したというのが流れてきた。

これは過去ブログ記事でも12月のFOMC議事録でもQTについて議論があったというのからも違和感はないだろう。

【過去参考記事】

FRBがBTFP終了とリバースレポ枯渇時期に併せてQT終了を検討

この時は一部当局者と、誰が発言したかわからないような状態であったし、どれだけの踏み込み具合かわからなかったが、今回ははっきりと特定FRB理事メンバーから発言が出てきたことから、確実にFRBメンバーが気にしている部分であるということがわかった。

上記過去記事でも書いたが、緩衝材となっているリバースレポ残高が減少していて、もう3~5か月ぐらいでゼロになり、その後は準備預金減少に影響していくわけだが、2018年に準備預金減少で相場をクラッシュさせたことがあることを考えれば、やはり相当警戒しているし、FRBとしても相場をクラッシュさせる気はないというのが明らかである。

このスタンスからFRBは先行きインフレを懸念しているというよりは、実際はFRBは先々どのように引き締めすぎた金融政策を正常化させる方向にもっていくか、しかもそれはインフレ懸念を再燃させずという課題に取り組んでいるということがわかる。
本当に景気がのっぴきならないときはもうなりふり構わない利下げ幅をぶつければいいだけなのであるが、FRBメンバーから出てくる発言は債券市場をけん制する発言ばかりである。
これは、もしFRBメンバーが債券市場を追認した場合は一気に債券が買われてしまい、予想外の金利低下を招いてしまうため、見かけ上プッシュバックを続けている。
しかし、実態はQT縮小or停止といった議論が出る程、もはや引き締めすぎた金融政策の正常化にFRBは舵を切っているのである。

1月FOMCの前にはもう一度FRBが金融政策を決定する際の指標としているコアPCEの発表があり、これが引き続き低い水準だということが分かれば、3月利下げ開始から中立金利までは連続して25bps下げていくこと・QTも停止してFRBは様子を見る形に移行することは見通しやすいだろうと思う。
はっきりとした金融相場にたどり着くまでにはもうしばし時間がかかるという感じだろうが、ここまで引っ張ってきているポジションは引き続き保有を継続しながら、押し目があれば随時追加していくというスタンスで問題ないだろうと思う。

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見た目ほどは強くない米国雇用統計とISM非製造業のド滑りのセットで3月利下げはまだオンコース

米就業者数、12月21.6万人増 市場予想上回る

3月利下げはまだオンコースだと思う。

注目の雇用統計が発表されたので内容と市場反応と、今後の注目点について書いていきたい。
まず統計結果から確認したい。
雇用者数変化は市場予想17.5万人に対して21.6万人と市場予想より上。
失業率は市場予想3.8%に対して3.7%。
平均時給ついては市場予想前年比3.9%に対して4.1%。
労働参加率は市場予想62.8%に対して62.5%。
確かにこの表面的な数値だけを見ると、労働需給が強いと見てしまう。

しかし、実態はいくつか異なる部分がある。
まず、平均時給については全米自動車労働組合(UAW)のストで賃金上昇妥結した影響が大きい。
輸送機器製造部門の平均時給が前月比4%上昇という劇的な数値になっていて、これが市場予想を上回ったほとんどの原因だと思われる。
さらにこの賃金上昇を受けて、今後自動車メーカーはリストラに踏み切る可能性があるため、この賃金上昇と雇用者数には持続性がないことが想定される。

また雇用者数についても見た目の数字より質はずっとよくない。



フルタイム減のパートタイム増な上に、ダブルワークも増加しているため、これは米国企業の雇用姿勢の慎重さはなにも変わっていないということになる。
平均時給は先ほどのUAWストで歪められていると考えれば、本来は時給の伸び率は市場予想通りになるべき内容だったという整合性とも合う。
そもそもこの前に発表されたADP雇用統計の時給変化率を見ても落ちているのが確認できるので、やはりトレンドとしては賃金伸び率は落ちつつあると考えるのが妥当だろうと思われる。

さらに言えば、この後衝撃だったのがISM非製造業景況指数が市場予想52.5に対して50.6であったことである。
中でも雇用指数が市場予想51だったのが43.3とクソ悪い数値が出ていることを見ると、実際はサービスデフレは目の前に迫りつつあるように思えるわけで、今回の雇用統計はややノイズっぽい要素がたくさん入ったと考えるのが妥当だろうと思う。

昨日の市場の反応を確かめたい。
雇用統計発表後は見た目の数値だけで金利上昇・株下落というセットの動きであったが、内容が精査されていく内に金利上昇・株下落は和らいでいった。
そしてISM非製造業景況指数のド滑りでほぼ金利上昇は消え、株も上昇に転じた。
ただし、現状市場は米債売り・株売りに偏っているのかその後じりじりと再度金利上昇・株下落側に傾き、結局引けでは米債は長期中心のやや金利上昇・株微プラスで引ける形となった。
金利上昇においても手前側は大して上がっていないことを考えると、金利上昇についても債券投資家のなんとなく売り的な様相が強かった。
こういった動きになるのは債券投資家側は「FRB年6回利下げは行き過ぎ」という理論と株側は「適切な利下げが本当に行われるのか?」という、結局はFRBの利下げ回数に対する疑念が晴れていないということが根本的な動きの背景となっているように思われる。

過去記事で述べたように、コアPCEの動向を考えれば行き過ぎた政策金利の正常化はすぐにでも着手されるべきものであり、1月予告・3月実施の流れが妥当だと今でも個人的には考えている。

【過去参考記事】

米国コアPCEのデータで米国3月利下げ確率100%へ到達


実際にこの雇用統計とISM非製造業景況感指数の前と後でCME開示の政策金利確率についてはほとんど変化は見られなかったことからも、雇用統計の見た目に惑わされてはいけないと思う。

【CME開示の政策金利予想】
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とにもかくにも市場参加者の焦点は「FRBの利下げスタンスはどうなっているのか」というのと同時に「FRBが年6回利下げなんて本当にするのか?」という疑念が現在の相場のドライバーになっているため、どちらかというと市場の反応の本丸は雇用統計ではなくCPI・コアPCE・FOMCの3つになるだろうと思う。

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FRBがBTFP終了とリバースレポ枯渇時期に併せてQT終了を検討か

FRBのバランスシート圧縮、一部当局者が終了へ議論の用意

これを待ってた。

当ブログでは去年8月頃の記事でFRBのQT(量的金融引き締め)について、現状は余剰資金的側面が大きいリバースレポ残高の減少であるため市場への影響はないものの、リバースレポ残高がゼロになり、銀行の準備預金にまで影響すると市場への影響が出てしまうので、リバースレポ残高がゼロになりそうな時期に向けて2023年末~2024年3月あたりのFOMCでQT停止についての議論が出てほしいところと書いてきた。

【過去参考記事】

秋以降のFRBバランスシートに関する金融政策動向に注目


2023年12月のFOMCの記者会見および声明文などにはQTに関する話は出てこなかったが、この前に出た議事録ではQT停止について一部当局者が言及したと記載があり、やはりFRBメンバーも気にしていないわけはないよなというのが確認できた。

一部個人投資家ではFRBのQTが市場をぶっ壊すというか激論を言う人もまだいるが、個人的にはとてもそうは思えないと感じるところがある。
なぜなら金融市場は見えていない地雷を踏むのはしょうがないと考えるが、見えている地雷を踏むような人間には非常に容赦ない。
(だから見えている地雷を次々踏み抜く習近平に呆れて中国株売りまくりなわけで)

金融市場の中でも最高権威であるFRBが、まさかBTFP終了とリバースレポ枯渇が重なりそうな3月頃に、あれだけ市場参加者が無節操なQTを続けると準備預金に影響を与えて予期せぬ流動性引き締まりが生じるぞと警告していたのにQTを継続して市場をクラッシュさせた場合には、FRBの信頼は大きく失墜するし、パウエル議長も後世で結局頭の悪い議長であったと評価されることになるだろう。

【リバースレポ残高】
タイトルなし


そういうことを考えると、12月のFOMC議事録でQT縮小停止が一部当局者から議論の俎上にあがるのは当然だと言えよう。
個人的には利下げ開始と同時にQTも停止するという形にすると非常に綺麗ではあるが、リバースレポ枯渇はスケジュールがやや読みづらいわけで、おそらく3~6月の範囲と考えると必ずしも同時にならず、どちらかというと利下げが先になる可能性の方が高そうと感じる。
ただ利下げとQTの時期が多少ずれようと、それはテクニカルな話であり、重要なことはFRBは適切なタイミングでQTは停止しますよというメッセージを市場に向けて発してくれるかどうかであり、1~4月頃のFOMCで明確なメッセージが出るかどうかは確認したいところである。
まあ確認できたところで、市場は「そりゃそうだろ」という反応になるので、あくまで健全な市場動向が続くために必要な最低条件と考えるのが妥当だろう。

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