村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

地政学

混迷極めるシリア情勢が新しいステージに入る

クルド人組織、シリア政府が支援で合意 トルコの進攻で

シリアの混乱がいつまで終わらないのを端的に表している

以前に記述した米国がクルド人勢力を見捨てたことについて、まだ時間的猶予があるかと思っていたがもうほとんど米軍は撤収したということらしく、状況が非常に流動的になっている。

<過去参考記事>

トルコリラは米国経済制裁懸念とシリア紛争懸念で再び正念場


そして独立国を打ち立てようとしているクルド人勢力をなんとかして封じ込めたいと考えているトルコがクルド人勢力に向かって軍事侵攻したところまではフォローしてきた。
しかしここでなんとクルド人勢力がアサド政権(現シリア政府)と協力するという報道が出てきて度肝を抜かれるようなニュースが出てきた。
情勢よく知らない人にはなんで昨日まで戦争してたやつらが協力することになっているんだとわけわからないことになっているだろうが、少し調べていればまあ選択肢としてはありうるけどという感想が出てくる案件だ。
こういうことが起こるのはこのシリアでの戦争というのは各人が全く違う動機で戦争に参加しているからである。では各人の動機を記載してみよう。

シリア政府・・・アサド政権の存続・維持(生き残り)。イランとロシアの支援を受けている。
クルド勢力・・・生存権の確保。自治区を作りたい(生き残り)。米軍の支援を受けていたが見捨てられる。
シリア政府に協力しているイラン・・・同じシーア派であるシリア政府存続の支援して、シーア派勢力の確保(宗教的理由)
シリア政府に協力しているロシア・・・中東圏での影響力確保および地理的に近いのでイスラム過激派の封じ込めを行いたい(治安的な理由)
IS(イスラム国)・・・自治権の確保(生き残り)。サウジアラビアやトルコなどの沿岸諸国の支援を受けている。
ISを支援しているサウジアラビア・・・スンニ派勢力の拡大およびシーア派勢力の弱体化(宗教的理由)
トルコ・・・エルドアン大統領一派は金儲けのためにISを支援。および独立懸念のあるクルド人勢力の殲滅をしたいが、今までは米軍が支援していたため、NATOの一員であるトルコは攻撃できず。
米国・・・イランがバックについているシリア政府の殲滅、イラクの脅威になっているISの殲滅。目標達成のためにクルド人勢力を支援してきたが、ここにきて見捨てる決断をする。

上記のように全員利害がばらばらであり、はっきりと対立しているのはシーア派とスンニ派勢力だけで、あとの敵対関係は実は結構ふにゃふにゃであり、生き残りのために戦ってたり自国のセキュリティ確保のために首を突っ込んでいるだけだったりする。

そしてここにきて米国がクルド人勢力を見捨てたことによって地政学のパワーバランスががらりと変化した。
トルコ政府は遠慮なく米軍の後ろ盾がなくなったクルド人勢力を叩くことができるようになった。
しかし、戦闘地域はシリアであり、これはシリア政府が自国領土だと考えている地域への攻撃でもある。
そこで昨日まで敵同士だったクルド人勢力とシリア政府が手を組むことにしたということだ。
シリア政府も状況はギリギリなので、トルコ軍と正面からぶつかるのは危険だと考え、クルド人勢力をデコイにしようと考えているのだろう。
もちろんこれでクルド人勢力がトルコ軍に勝てば今度は後ろからシリア政府軍がクルド人勢力に圧力をかけてくるだろう。
このように構造的に各人の軍事力が均衡する中、敵対関係がころころ変わっていつまでもどの勢力も消滅しないことから終わる雰囲気が見いだせない状態になっている。
もちろんシリア政府の参入によってトルコリラをはじめトルコ資産には下落圧力が加わるだろう。

果たして今生きている人達が寿命が尽きるまでに終わるかどうかさえよくわからない。
 

トルコリラは米国経済制裁懸念とシリア紛争懸念で再び正念場

アングル:米軍撤退、トルコ軍侵攻 シリア情勢はどう変わるのか

米国やるやる詐欺のひとつだが、トルコ資産にとっては常に爆弾としてのリスクがある。

ここもとは急激な景気の悪化に伴う輸入の減少で、皮肉にも経常収支の帳尻が合うようになって外貨ファンディングのバランスが良くなったことから2018年9月以降はかなり動きが穏やかであったトルコリラだが、昨日米軍がクルド人支援をやめて撤退するという話が出たところから動きが再び怪しくなりはじめている。

ブログでもなんどか言及しているがトルコのエルドアン大統領は自国の東側がクルド人が支配する危険性があることを常に感じており、なんとかして殲滅したいと考えている。
下手すると民族浄化・ホロコーストも辞さない覚悟を持っている。
それを行っていないのはNATO加盟国で表立ってそうした人道的にありえない行為はさすがに簡単には起こせないということと、ここ数年は米軍がクルド人独立勢力をIS殲滅のために支援しているということにある。

特にここもとはこの米軍の支援によって資金・武器を得たクルド人独立勢力に対して自国から独立機運が発生するのではないかと常にエルドアン大統領は危機感を持っている。
しかしトランプ大統領は就任以降何回か泥沼にあるシリア紛争から足を洗いたいとも考えており、何回もクルド人勢力支援をやめて米軍を引き上げたいという話が報道で報じられている。
今回はトランプ大統領が根回しなしで見切り発車でツイッターに「米軍を帰還させる時がきた」とツイートしたことから、エルドアン大統領はクルド人勢力殲滅のために準備している国境地帯の軍を動かすのではないかと市場では危険視されてきていた。
過去形なのはご存じの通りもう侵攻を始めており、あとはどれぐらいの規模で続けるのかというところに尽きる。

Turkish Troops Begin Crossing Into Syria After US Stands Aside

トランプ氏はこうしたトルコの動きに対して「米国の意に沿わない行動をするならトルコ経済を破壊する」とまで言及してけん制しているが、トルコはトルコで明らかに敵対勢力であるクルド人を米国が支援するのにはらわたが煮えくり返っていたし、一部ではNATO脱退するのではないかという噂まで出ている。
足元ではまだ米国共和党がこの撤退について認めていない状態にあるが、本当に撤退した場合にはトルコは確実に軍事行動に出るのでトルコリラは大幅に売られると見ておいたほうがよいだろう。

段々インフレ率も下がって調子に乗って金利を下げてきたトルコリラについても投資妙味が下がりつつあるので、下手にトルコリラロングをしにいくと大やけどしかねないことにトルコリラ投資を検討している方は常に注意してほしいと思う。 

民族浄化のヨーロッパ史:憎しみの連鎖の20世紀  



サウジアラビア政府がイエメン空爆を諦めた背景

サウジ、イエメンでの部分的停戦に合意=関係者

サウジアラビアの空爆作戦は失敗に終わった。

サウジアラビアがイエメンのフーシ派と部分的停戦したという報道があった。
ここ数年イエメンはイランの支援を受けているフーシ派の勢力が拡大しており、これがサウジアラビアにとっては隣国に新しくシーア派勢力ができるという危険極まりない状態になる懸念が生じていた。
これに対処すべくサウジアラビアは空軍を使って空爆を行い、なんとかフーシ派の殲滅を画策した。
しかし、世論やコストを気にしていたせいもあり陸軍は投入しなかったことにより予定したような戦果は挙げられていない状態であった。
(歴史的に空爆だけで決着できた戦争例はない、本当に殲滅するならば陸軍投入は必須)

しかし少なからずこの空爆によってダメージおよび作戦妨害を受けているフーシ派も面白くはないので度々反撃を試みていたが、今回ドローンの大量投入による石油処理施設の爆破作戦に成功したというのが今回の背景だろう。
そしてこれを受けてサウジアラビア政府はイエメン空爆を停止することを決断した。

これはフーシ派からこれ以上空爆を続けて邪魔をするようであればこちらもできることはなんでもやるという意思表示とサウジアラビア政府は捉えたということを意味する。
これ以上戦果をあげられない空爆を続けた挙句、サウジアラビアにとって唯一といえる収入源にダメージを与えるような攻撃を受けることはコストパフォーマンスの観点から合わないというとらえ方をしたのだろう。
一方でフーシ派はフーシ派で、今回の作戦はとりあえずサウジアラビアが空爆をやめたことから一回きりであろうことがうかがえる。
もし複数回繰り返してしまえば、それはさすがに米国を筆頭に世界各国のエネルギー調達ラインに対するテロリズムが常習化する危険性が認知され、下手すると本当に米国陸軍が投入されてしまう危険性がある。
複数回サウジアラビアへのテロが実行されれば米国にとって米国陸軍投入コストがベネフィットを上回ってしまうので、多少の犠牲を伴っても米国政府が軍投入を決断する可能性は飛躍的に高まるし、欧州各国も見過ごすわけにはいかなくなるだろう。

以上を勘案するとサウジアラビア政府のイエメン空爆停止によって当面は中東情勢は動かなくなることが想定されるため、しばらくは追加でサウジアラビアの石油処理施設が攻撃されるという危険性は考える必要性はないだろう。
ただし、イエメンがフーシ派によって支配されるようになったら話はまた別次元に移行しかねないので、イエメンの情勢については随時追っていきたいと思う。
またいつでもサウジアラビアの石油処理施設は爆破されかねないという事実も消し難いことは頭の片隅には残しておきたい。 

ドローン技術の進化がサウジアラビアを脅かし続ける

拡散する“現代のカラシニコフ” 中東ドローン戦争



地政学リスクのレベル感は変わった。

サウジアラビア政府は公に原油生産状況についてテロ攻撃によって失った処理能力のうち半分は速やかに回復、残りも9月末までには回復するという見通しを出したことによって、オイルショック危機というのは避けられた。

サウジアラビアの石油生産、月内復旧の見通し

しかし原油価格は今回のテロ攻撃によって上昇した分の半分ほどしか下がらなかった。
これはサウジアラビアの原油処理施設に対して常に攻撃を受けて被弾するリスク分が織り込まれていることを示している。

<WTI原油のチャート>
タイトルなし


サウジアラビアの原油関連施設というのは、サウジアラビアだけでなく世界経済の大動脈でもあるため、サウジアラビア軍だけでなく米軍も配置して警備している。
もちろん人を張るだけでなく、ミサイル撃墜設備など対空警備も最新鋭を揃えているし、それはサウジアラビアがどれだけ米国から兵器を購入しているかを調べれば一目瞭然だろう。

しかし、今回の原油処理施設の爆破テロはこうした世界最高峰の厳重警備システムを掻い潜って目標の攻撃に成功したということだ。
この攻撃が成功した背景にはドローンの技術革新によるコスト低下が大きく絡んでいる。(記事一番上のリンク記事参照)
ドローンの進化によって小さな飛翔体を遠方に飛ばすことに対するコストは大きく低下している。
しかもアマゾンのドローン配達事業などを見てもわかる通り、プログラムを組めば自動で指定したところにピンポイントで飛ばすことができる。

そして昨今の調査で民間企業が販売している部品をかき集めれば、誰でも千キロ以上飛ばせるドローンを一基当たり原材料コスト数百ドルで製造することができる。
DJIのドローンが普通の人でも10万円ぐらいで買えるのを見れば納得のいく話だと思う。
ではこのドローンに爆弾を搭載して数十体同時にピンポイントに巨大建造物に向かわせると考えると、かなり防ぐのが難しいのではないだろうか?

しかも攻撃する側は今までミサイル一機作って発射するコストと同じコストでドローンを千機以上作れるし、運用できる。
大規模に同時に破壊することはできないが、ゲリラ的に攻撃する分にはコストパフォーマンスは非常に高くなっていると言わざるをえないだろう。

こうした今後低コストドローンによる攻撃にサウジアラビアの原油施設が常に晒されるリスクが表面化したことが、足元の原油相場を3-5ドル程度押し上げる要因になっている。 

サウジアラビアの原油処理施設爆破について各種情報源のまとめ

Saudi Arabia faces weeks without full oil production after attack



こういう事象はグローバルニュースソースあるいは公的アナウンスしか参考にならない。

サウジアラビアの原油処理施設がテロリストに爆破された事件についてとりあえず今わかることをまとめてみようと思う。
この時点で確定事項とニュースで報じられている事項を分けて書いていこう。

「確定事項」
・今回の攻撃は無人機による攻撃(サウジアラビア政府公表、ただしドローンなのか巡航ミサイルなのか不明)
・アブカイクとクライスにある石油処理施設が爆破され、日量570万バレルの原油生産減少(サウジアラビア政府公表)。
サウジアラビアの産出量の半分、全世界生産量の5%ぐらいが影響する。
・原油高騰に対して米国は石油備蓄放出の用意がある(トランプ大統領アナウンス)
・サウジアラビア自体も在庫を放出して対応する予定。(サウジ政府)
・イエメンフーシ派が犯行声明発表(ただし本当に行ったのかは不明)
・犯人の候補に挙がっているイエメンフーシ派はイランの支援を受けている(これは一般常識)
・石油処理施設の復帰状況については土曜日から48時間以内に途中経過報告を報告する(サウジアラビア政府)
・元々サウジアラビアの石油施設の攻撃は小規模なものも含めてここもとで100回以上行われている(米政府発表)

「ニュースベースで確定していない事項」
・石油生産の完全復帰までに数週間かかる見込み(FTなど、サウジ政府関係者)
・攻撃はイエメンにいるフーシ派からの攻撃(日経新聞では確定なように書かれているが、イラン・イラク・イエメンいずれの方面からの攻撃も可能で犯人は不明)
・米政府はイランかイラクからの攻撃と分析(日経新聞、米高官関係者)
・サウジアラムコ自体が国内およびオランダ・日本など海外拠点に数週間は支障なく供給できる量を備蓄できている(各種ニュースソース)
・失った生産量の半分は月曜日中には復旧できるだろう(ブルームバーグ)

さてここまで情報をまとめて、自分なりに次に起こりうる事象について考えてみる。
これは当たるものもあれば外れるものもあるので、各人自分なりに考えて相場に取り組んでもらいたい。

・不透明感は月曜日朝時点がMAXであり、復帰時期見通しが数週間であれば相場全体は落ち着いてくるだろう

・無人機技術の進化で低コストで千キロ以上先の原油施設にダメージを与えれるレベルの攻撃が可能。
つまりサウジアラビアの原油施設はこれだけサウジアラビア政府が防衛費に金をつぎ込んでも、守り切れる保証がなくなりつつある。
これだけで原油価格は従来より少し底上げされる要因になるだろう。
ただし米国シェールガス勢が増産させるインセンティブが大きくなるので、その要因がどれだけ原油価格の上昇をオフセットできるかに注目。
かつての第一次オイルショック時は北海油田の開発を促進するきっかけにもなり、こうした中東での原油絡みの事件は中長期的には代替産出の促進でオフセットされてきた。

・すぐに復帰できるという説を唱えている人もいるが、FTなどもう少し信頼性おけるニュースソースは基本的には数週間という言い方が大勢なので、それをベースに考えておくべきだろう。

・世界的には原油依存度、あるいは中東の原油に依存する割合を減らすための取り組みが加速する可能性が高い。

・航空株は燃料費高騰に加えて地政学情勢も加わって基本的にはどの要素を見てもマイナス。

・原油価格は上昇したとはいえ、未だWTIベースで60ドル/バレルと昨年9月の水準にも届いていないので、航空株以外は特に慌てる必要性はないと思う。(デイトレの方々については別ですが)

・イランと交渉を行おうとしていたトランプ大統領の姿勢は硬化する可能性がある。
逆に言えばこれで硬化しないならボルトンがいなくなった後のトランプ政権の外交は大きく変わったことを意味する。

・米政府が攻撃はイエメンからではないという発表はイエメンに米兵を派遣したくないからかもしれない。
イエメンのフーシ派が犯人なら少なくとも政府組織ではないのでサウジアラビアから米陸軍の派兵要求に応える必要性があるが、イランならそう簡単に政府に攻撃を加えるわけにもいかないので派兵は避けるべきと結論づけられる。

・サウジアラビアはイエメンフーシ派撲滅のために米陸軍の派遣が欲しい。サウジアラビアから空爆は行っているが、ほとんど効果は出ていないので、米陸軍投入が必要と考えていそうだ。なのでサウジアラビア政府からはイエメンフーシ派からの攻撃だというアナウンスが続くだろう。

・今回の原油輸出量の減少をサウジアラビアはSWFから資金を抜くことで穴埋めするかもしれない。その場合には2015年のような原油安による中東SWFの無理やりなリスク資産投げというのも考慮する必要性があるかもしれない。 

・足元の相場は今のところ単純な株安・金利低下というリスクオフの動きしかしていない。
本当に差し迫った原油供給不足問題なら株安と金利上昇が同時に発生する。
そう考えれば市場の捉え方は原油供給については短期的な問題でしかないと捉えている。
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プロフィール

村越誠

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