タイ、農薬規制巡り米と対立 「為替操作国」リスクも

資金還流策がないとかなり難しい。

タイ金融当局は2017年ごろから始まり、すでに3年近く続いているバーツ高(対米ドル)に頭を悩ませている。

<USDTHBのチャート>
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タイ中銀、バーツ高抑制に向け資本流出規制をさらに緩和へ

そもそもなぜバーツ高が続いているかというと、2010年代に入ってからタイには爆発的に中国人旅行客が増えており、サービス収支黒字が対GDP比3%も黒字となってしまったことにある。
元々タイは貿易黒字国であり、アジア通貨危機以降は安定した経常黒字を稼ぐ国だったが、この中国人旅行客の大幅増加によって経常黒字金額が対GDP比5%以上と明らかに過大なレベルに達してしまった。

一方で新興国はその国の脆弱さから、こうした為替高になっている最中には現地通貨建て売り米ドル買いの為替介入を行って、通貨高を抑制しながらいざという時の外貨準備高積み上げを通常は行う。
(インド、インドネシア、韓国はこうしたオペレーションをよく行う)
しかし、タイは現在この手法を大っぴらにはできない状態にある。
上記日経新聞の記事にある通り対米国黒字金額が2兆円とかなり大きい金額になっている。
ここにおおっぴらに為替介入を行うと米国から為替操作国認定されてしまい、貿易上様々な不利益条件をつきつけてくる可能性があることからこれが難しい状況にある。

規模が小さい国の場合はこうした為替介入が封じられている時に有効な手法は民間・公的機関による積極的な海外投資である。
例えば台湾やシンガポールがこれに該当する。(厳密にいうとシンガポールは為替介入も合わせてやっているが)
台湾では生保が積極的に外貨建て資産を買い漁っており、シンガポールはSWFが余剰資金を海外に還流されることにより、為替の動きをスムージングしている。
しかしタイについてはこうした大口投資家というのが育成できておらず、タイ中銀が足元で様々な海外投資への規制を緩和していって、海外投資を促そうとしているところだが、こうした還流策がまだ有効機能していない。
まあそもそもこうした策を一朝一夕でできるわけもなく、既にタイの政策金利も1.25%ということで金利引き下げ余地もそんなに大きくないということを考えると、まだバーツ高というのはじわじわ進みそうな雰囲気である。
以上を要約すると金融当局はタイバーツが国内産業に不利益になるレベルに高くなっていると認識はしているが、直接為替介入が米国のにらみが効いていてできなく、手詰まりになっているということである。

しかし、既に金融当局はバーツ高が輸出会社利益を圧迫しているという指摘もしており、銀行の製造業エクスポージャーにおいて不良資産の積み上がりが発生しないかも気にする必要性があるかもしれないと感じている。
特にタイは基本的には外資による製造現場としての役割を課せられており、直接的にバーツ高が輸出産業にダメージを与える可能性が高く、徐々にタイから製造拠点を移管するという考えを持つ外資が増加してくるのではないかという懸念がある。