CBIRCのAT1債の扱いに関するニュースリリース

なりふりかまわぬ中国金融当局の措置。

こちらはCBIRCが「中国語のみ」で開示している資料だが、中身はかなり衝撃的な内容だ。
このCBIRCの発表の内容は、なんとAT1債の減免トリガーがゴーイングコンサーンベースではなく、Tier2債と同じゴーンコンサーンベースのものに変更するという話であり、AT1債の本来の役割を完全に放棄させるところまで妥協に向かっている。
具体的にどういうことなのか詳しく解説しよう。

通常AT1債というのは「銀行が実質破綻しないよう、破綻する前に損失を負担させる劣後債」である。
大抵の国ではこのラインをバーゼル3の基準と同様な中核的自己資本比率が5.125%というのを目安にしている。
ただし、実際の運用については各国・各地域で異なり、例えば欧州のAT1債は5.125%までCET1比率が下がったら問答無用で減損トリガーが引かれるが、アジアの国々の場合は個別で金融当局が判断してというような感じだ。
ただ、AT1債というのは実質破綻に陥る前に減免トリガーが引かれる「ゴーイングコンサーンをベースにした劣後債」であることはどこでも共通した話だ。
しかし、中国金融当局はこの原則を捻じ曲げにきたのだ。
中小銀行がLGFV向け融資の不良債権化で苦しんでおり、ファンドライジングが必要であることから、これら中小銀行がAT1債の発行が必要であることは目に見えている。
しかし、包商銀行を考えるといつトリガーが引かれるかわからないので安易に債券投資家は手を出せない。

<参考過去記事>

中国の中小銀行が公的管理下に置かれた時、AT1債はどうなるのか

そこで中国金融当局はAT1債について国内基準行については「ゴーンコンサーンベース」でしかトリガーを引かないと宣言したのだ。
つまり「実質破綻を認定した場合のみ減免される劣後債」にステータスが変わった。
これはTier2債とほぼ定義が同じになったことを意味する。
もちろんAT1債自体は弁済順位がTier2債より低いし、クーポンスキップの可能性も高いし、満期がないという点では未だにTier2債よりも劣後している債券であることは確かだ。
しかしAT1債の一番の特徴である「実質破綻しないよう、自己資本を拡充させるために事前に減免する劣後債」という役割は完全に放棄された。

現状投資家は中国当局が包商銀行のベイルイン失敗で中小銀行を変な形で潰すことはないと認識している。
ただ、ゴーイングコンサーンベースであるAT1債はそれでも減免される可能性があるため手を出しずらい。
そこで中国共産党は上記の内容を発表し、投資家に対してAT1債はクーポンは止まるかもしれないが、少なくとも元本が毀損するようなことはさせないということをはっきりと示したのだ。
これはモラルハザード以外のなにものでもないが、投資家が背負うリスクはクーポンスキップだけであることが明示され、投資家が投資しやすいように制度を曲げてきた。

このように中国政府は何が何でも中小銀行破綻で金融システムが崩壊しないよう下支え策を次々と打っている。