なぜかよくわからないタイミングでネット上でドイツ銀行が破綻申請しているとかいう謎の噂が局所的に出回っている。
リーマンショック以降の金融規制の枠組み変更を考えれば、いきなりドイツ銀行が破産申請をするということはありえなく、この噂を信じるのもあほらしいと個人的には思う。

以前記事にもしたが、現在世界の主要銀行はバーゼル3という世界的な金融規制の枠組みの中、自己資本の拡充および自己資本が毀損していったときにどのように金融システムにダメージを与えずに破綻処理を行うかの枠組みが整備されつつある。

<過去記事参考>

一般的な会社が潰れるというのと銀行が潰れるというのは意味合いが違う

「金融システムにダメージを与えずに破綻処理」というのがなんとなく矛盾しているようにも思えるが、ここでいう破綻処理というのは「債権者に損失を負担させる」ということを意味する。
この金融当局が債権者に損失負担をさせる命令はベイルインと呼ばれている。
つまり銀行が発行する社債に投資している投資家の債務を免除していって、銀行の営業が継続できるようにするということだ。
このベイルインは各国金融当局の枠組みで決められているので、金融当局が指図すれば問答無用で債権者は損失負担をさせられ、一切の反論は認められていない。

そして銀行が発行する社債についても厳密に免除する順序というのが決まっている。
銀行が発行する社債は一般的にランクが高い順に子銀行発行のシニア債、HD発行のシニア社債あるいはノンプリファードシニア債、Tier2劣後債、AT1債や優先株などという順序になっている。
そして金融当局が銀行の自己資本について規制の定めるレベルにまで下がった場合にはまずAT1債の利払い停止、それから株式への転換・あるいはイレボケイブルな全損などを命令できるほか、コールを認めないということもできる。
(各国金融当局によって閾値やどういった状況の時にベイルインするかは違うのは留意が必要)
それでも自己資本がまだ足りない場合には次にTier2債のベイルインを命令する。
それでも足りないならHD発行シニア社債あるいはノンプリファード社債をベイルインを命令というより順序立てて債権者に損失負担を負わせる。

つまり現在銀行の破綻は金融当局の順序だったベイルインで行われるものであり、金融当局をすっ飛ばしていきなり銀行から破産申請するということはありえない。
そういう観点から見れば、まだAT1債の利払いも停止していないし、資産の質がいきなり大幅悪化している環境でもないのにドイツ銀行が破産申請を行うというのは、現在の金融規制の枠組みを知っている人であればすぐにフェイクニュースとわかる。

ただし前の記事にもあるとおり、ドイツ銀行はすでに株式投資家への配当は無配を決定しており、AT1債の利払いスキップをするには必須の条件はすでに行われていることから、現状はあってもAT1債の利払い停止ぐらいであり、ドイツ銀行のAT1債の動向を見て本当にベイルインに向けてのテンションが高まっているかどうか確認すべきだと思う。
大方ドイツ銀行が破産申請しているなどという噂をこのタイミングで出すのは、売りで捕まってしまいなんとか市場センチメントを曲げたい人のささやかな抵抗のように思えるし、もしそうならまだ売り方が全員焼かれきっておらずリスク資産の上昇燃料が残っていることをさらけ出しているようにも思える。
 
なおバーゼル3によるベイルイン規制などについては下記書籍を参考にしてもらいたい。


詳解 バーゼルIIIによる新国際金融規制〈改訂版〉