村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

2019年09月

今までよくわかっていなかった後発医薬メーカーの株価不振がようやく理解できた

後発薬に中国依存リスク 日医工、原材料滞り供給停止

不得意なセクターなので見てなかったけどそういうことだったんですか。

ずっと日医工などの後発薬メーカーの株価がさっぱりだなとは思っていたが、不得意セクターということもあり特段調べず放置していたわけですが、この記事やツイッターなどのコメントを見て、あーそういうことねというのがやっと理解できた。

最大の問題は厚労省が設定する後発薬薬価が製造原価を割るレベルで低すぎるというところにある。
おそらくは国内メーカーからの原料調達ではこの厚労省の薬価では赤字になってしまうことから、安価な外国産原料調達を後発薬メーカー各社は進めていたと思われる。
しかし全員が同じことをやるため、過度に外国原料に依存する状態に陥ってしまい、いざそこが何かしらのトラブルで原料調達が止まると後発薬生産に大きな支障をきたすという事態が起こっているということだ。

<日医工の株価チャート>
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日医工の株価チャートを見る限り、この問題自体はおそらく2016年頃あたりから認知されてきたと思われ、認知した人から順番に後発薬メーカーポジションを落としていったということが考えられる。加えて原料調達リスク分も株価ディスカウント要因になっているものと考えられる。
そりゃ意図的に国から利益率圧迫受けるような状況が続くようでは株価も2016年から半値になりますわなと納得。
単純にEPSだけでなく、PERも利益が伸びないことがわかってしまった日にはPER30倍なんて投資家が払うわけもなく、10倍がせいぜいだなということで足元でPERは利益が全く伸びないことが前提の水準まで下落している。

ただ、まったくそういった事情を知らない自分でさえこの問題について把握しているとなれば、厚労省も問題と考えて後発薬については薬価引き上げ改定について取り組む姿勢が出てくるかもしれない。
それが見えてくれば少しは後発薬メーカーの株価についてもPERの底上げが見られるのではなかろうか?
ただし、まだ厚労省はこの方針をひっくり返す見込みがないというのであれば、まだまだこの安い水準の株価は続き、後発薬メーカーの株価は万年割安で永遠のバリュー株という称号を得ることになるかもしれない。

そう考えると後発薬メーカーの株を買うなら、厚労省の政策変更を見てからでも十分間に合うのではないだろうかとも思うわけで。 

景気対策のために危険な賭けに打って出たインド政府

インド、景気浮揚へ205億ドル規模の法人税減税 財政悪化懸念も

万年経常赤字の国が外国人債券投資家を裏切って大丈夫なのだろうか?

ここでは何度も言及している通り、インドはノンバンク流動性危機によって景気が大きく減速している。
インド政府もそれ自体は気づいているのだが、安易にノンバンクを助けると政府負担がどれだけ増加するのかわからない状態になっていることに加えて、モラルハザードを助長する懸念、および今回のノンバンク流動性危機の原因がモディ政権の高額紙幣回収に端を発していることから野党からあら捜しを受けて政権支持率にダメージが出ることまで懸念される。
そのため政府はノンバンクに直接金をつっこむということはできず、銀行にノンバンクの資産を買い取らせる手法や、ノンバンクの調達に流動性支援を行うという方策を行っているが、今のところ効果が出ておらず、インド景気の落ち込みが継続している。

これにしびれを切らしたインド政府は、なんとここで法人税を30%から22%に引き下げることを発表した。
発表した当日は株価が5%上がるなど一種の祭りになった。

しかし個人的にはインド政府はかなり危険な賭けに打って出たという認識で、手放しに喜べるものではないと思っている。
もしこの減税策がタイ・韓国・台湾・中国などの経常黒字国で財政拡張余地が十分にある国であれば素直に経済にポジティブと反応してもよいだろう。
しかし、インドは経常赤字金額が大きいゆえに、財政赤字についても外国人債券投資家からかなりシビアな目で見られており、インド政府もそれに気遣って今年の財政予算については名目GDP3.3%ほどの赤字にとどめるという発表をした。
しかし今回の法人税減税によってこの赤字金額は4%になると試算される。
株価は上昇したがこの発表によってローカル国債金利はいずれの年限も15bps程度の上昇となっており、多くの外国人債券投資家は裏切られたという気持ちが素直に表明されていると思う。

最終的にこの法人税引き下げが功を奏すかどうかはインドルピーの為替変動にかかっているだろう。
発表当初は外国からの投資が活発化される期待からインドルピー高で推移した。
しかし上記で書いたように外国人債券投資家の裏切りに加えて、おそらく経常収支にも赤字圧力が働くことになるので、外国からの投資の活性化に失敗した場合にはインドルピー安懸念圧力が以前よりも増大して発生すると思われる。

多額の経常赤字新興国なので現地通貨安は純粋に経済にマイナスであり、これが法人税引き下げ効果を打ち消してしまう懸念がある。
なのでインドルピーが安くなっていったらこの景気刺激策は失敗に終わったと認識してよいと思うし、もう財政赤字がGDPの4%まで来てしまっていることを考えると、次に打てる景気刺激策は手段があまり残っていないように思われる。
それでも無理くり財政赤字を拡大させて景気刺激を打ってくるようであれば、それは2013年頃に言われていた「フラジャイル5」という不名誉な称号を再び得ることになるのではなかろうか 

トーマスクック破綻から見る旧来旅行代理店の苦境

老舗旅行会社のトーマス・クックが破産申請-英観光客足止め

世界中でてるみくらぶのような事件が勃発しそう

英国旅行代理店の老舗中の老舗で大手中の大手であるトーマスクックがデフォルトした。
元々会社として経営再建が問題になっていたようだが、ぎりぎりまで粘った挙句最終的にはどこからも追加出資を得られなく、資金繰りがどんづまったということでバンザイするしかなくなった。
イギリス政府にも泣きついていたようだが、イギリス政府も旅行代理店ごときに税金を使うわけにもいかないし、そもそももう何年も経営危機みたいな話が出ていたのでこの要請を袖にしたようだ。

このデフォルトによってトーマスクックを通して旅程を組んでいた人達は
・トーマスクックに払っていた前払い金が運転資金に使われてしまっていたものの、英国人ならば旅行協会の保険があるようで返金はされる。しかし、予約していた旅行は全部キャンセルとなった。
・旅行中だった人達は航空予約がキャンセルとなるため15万人が立ち往生となる。
とこれ自分がくらったらほんとたまったもんじゃねーなと思う。

このニュースを見たときにてるみくらぶの事件を思い出した。
日本でもてるみくらぶという格安旅行代理店がデフォルトしたせいで、てるみくらぶ経由で旅行組んでいた人達は前払い金を全部取られた上に、旅行中だった人は同様にホテルに入れないわ航空券取り直しだわで立ち往生となった。

こうした伝統的な旅行代理店というのは昨今エクスペディア・ブッキングドットコム・Cトリップなどの台頭で業態全体として地盤沈下している。
(しかもオンライン代理店同士でまた競争して、これらも状況はそんなに楽ではない)

コスト構造の問題もあるし、オンライン旅行代理店はホテルなら直前までキャンセル可能だったりと契約の柔軟性という観点でもアドバンテージ差が大きい。
また今までは海外現地の情報が乏しかったことから旅行代理店のパッケージツアーに申し込むという流れだったのが、個人がウェブでそれなりに情報を集めることが可能になったことから、わざわざ余計な手数料を払ってパッケージツアーに申し込むインセンティブも下がりつつある。
しかもこうした旅行代理店が潰れるたびに前受け金没収されたり旅行中立ち往生になったりするという事態に直面するのでは少なくとも財務がしっかりしている旅行代理店以外でパッケージツアーを申し込むリスクが高すぎると思う。
(しかもオンライン代理店は仲介するだけだから前受け金とか取らないし)

というかそんなこと考えながら旅行予約とかしたくない。

これ見ているとよく就職ランキングでJTBが上位に来るのが個人的には全く理解できないし、旅行業界に就職したいと思うなら楽天トラベルとか一休とかに就職する方が夢あるよねって思う。 

医薬品銘柄の苦境はまだまだ続きそう

(チャート&データ)ヘルスケア投信 息切れ
医薬品銘柄はトランプ政権が交代するまでは望みが薄いか。

好調な米国株式の中でもいっちゃん株価動向が芳しくないのがセクターの中でも医薬品銘柄セクターである。
これは以前にも記載したが、トランプ政権の公約にかかげている薬価の抑制に向けての厳しい措置がたびたび医薬品セクターのEPSに揺さぶりをかけているからだ。


現在の医薬品業界というのは抜群に米国での利益率が高く、しかも市場規模も大きいので他地域と比べて圧倒的な量を各社米国で稼いでいる。
これは米国の医療というのが基本的に自由診療で、医薬品価格もかなり医薬品メーカーの言い値が通るという構造がある。
これが他の先進国では医薬品に対して政府の介入により、少なくとも普通の人にとって手が届く範囲に設定するようなされる。

ただこうした米国の医薬品価格を自由に設定できることを悪用して、特定の医薬を出す会社を大量に買収して寡占状態にした後に医薬品価格を吊り上げるというやり方が横行したことから、国民における不満が大爆発したという経緯がある。
実際に薬価を吊り上げる過程で不正を行って逮捕された人も出ている。

こうした国民の怒りを利用するのに長けているトランプ大統領は公約に薬価の引き下げというのを入れて選挙で有利に立ち回ったという実績がある。
トランプ大統領は公約に掲げたものは少なくとも口だけでもいいから取り組むという性格があり、日本のかつての民主党みたいな公約にあげたけどなにもしないということは一切しない性格である。
また薬価引き下げというのも比較的業界もなまじ他国より高い値段で医薬品を売っているということもあり、ゼロ回答するのは難しいということもあり、トランプ政権からの薬価引き下げ攻撃の爆撃に連続して直面している状態だ。

以下のニュースは全部薬価引き下げに関するニュースだ。

メルクが続落 ペロシ米下院議長の薬価プランに警戒感

欧州医薬品株が下落、トランプ大統領の薬価引き下げ計画に反応

テレビ広告での薬価公表、製薬会社に義務付けへ

米国の薬価高過ぎ、「海外から廉価薬購入も」

トランプ米大統領が薬価引き下げ策を発表


オバマ政権時代は薬価についてかなり業界フレンドリーであったが、政治的に攻撃を受け続けるならやはり株も値動きとして厳しい状態が続くのは当然だろう。
加えて年々医薬開発はそもそも人類が治せない病気というもの自体が減少していることから高騰する傾向にあり、なかなか医薬品セクターの株価復活は見えずらい状況にある 

金融庁から米国の投資信託業界事情について資料が開示されていたのでレビュー

「米国投資商品調査」

金融庁に米国の投資信託事情の資料が載っていたので、ちょっとこのブログで要約および自分なりの考えをまとめたいと思う。

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これは改めてというのもあるが国債金利が低下する中でファンドの信託報酬についても圧力がかかっているのは確かであろう。大体パッシブの平均が0.08%、アクティブが0.6%あたりといったところだろうか。パッシブの中には販売会社には信託報酬が入らないETFが大量に存在することは留意したい。パッシブ自体2/3がETFであることがそれを物語っている。またアクティブからパッシブかつ低費率ファンドへのシフトというのも続いているということだ。
そしてETF以外の投信でも大半はノーロード販売となっているのが現在の主流のようだ。


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次のグラフは米国の家計世帯の販売チャネル動向だが、米国の家計の投信購入チャンネルは6割は確定拠出年金であることがわかる。

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大体この6割というのは積極的に熱心に運用しているというよりは単にデフォルトで選ばれた商品が淡々と給料が払われるとともに積み立てられているという認識で良いのかなと思う。
なので余剰資金を積極的に運用している層というのは実際は投信購入世帯のうち4割ぐらいという認識であっているのかもしれない。
4割のうち、1/4はディスカウント証券・直販で購入しており、ここは日本でいうとSBIや楽天証券で投資信託を購入している層であろう。
意外だったのは日本では投資教育が進んでいるから米国はリスク資産を購入している。
だから対面銀行や対面証券でぼったくりの商品を買うんだというトンチンカンがいるが、実際は米国も投信積極購入世帯のうち75%が対面で買っている。
ちなみにこの対面の中で大きく日本と異なるのはIFA(独立アドバイザー)がかなり大きなシェアを占めており、この部分についてはどうやってこういう状態になったのか後々調べてみたいと思う。

じゃあこの対面で投信買っている人達は一体何を買っているのだろうか?
米国の最近の流れはどうやらラップファンドへの資金流入がメインのようだ。

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顧客から人生の課題・目標・ニーズなどのゴールを聞き出し、この実現を支援すべくリバランス付きの中長期分散投資を提案しているようであり、「次に儲かりそうなもの」を追求するトランザクション型投機的売買については2000年のITバブル崩壊以降は上手くいかなくなり方向転換したそうだ。
ただ米国人も別に自分の資産運用についてゴールを明確に最初から持っているわけでもないしいきなり聞き出すということもやはり難しいようで、地道に顧客と成功体験を積み上げて商品購入のアドバイスを行っているようだ。
資料にはゴール聞き出しのアプローチ例もあるので参考にしたい。

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そしてそれに伴い、ノーロード型投信が大きく増えていく中で報酬はフィーベースではなく残高ベースのものに変遷していき、顧客の資産を中長期的に増やしていくことが対面投信販売で求められるスキルとなっていったようだ。

ただこのファンドランプについて手数料については米国でもそこそこ高い。

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ファンドの信託報酬も考慮したファンドラップ手数料は年間1.84%にも及ぶ。
内訳はファンドラップ手数料が1.1%でファンド自体の信託報酬が0.74%といったところだろうか。
しかもこの手数料の下がり方はファンド自体の信託報酬率の下がり方よりも緩やかだ。
米国パッシブ株式やパッシブ債券の投資信託の手数料率が0.08%という世界の中で、自分では資産運用をどのように行えばいいのか知識のない人はそこから+1.76%もの手数料を取られて、それでなお良いと思っているのが米国ファンドラップ業界の現状だろう。
ただ、米国の場合はまだ国債利回りが存在する世界ということもあるので、リスクフリーレートで大体の手数料を相殺することが可能なので、株式・REIT・社債を少しずつ組み入れて年率4-5%ぐらいの利益を達成させれば年率手数料1.84%というのもなんとか正当性があると思わせることが可能だろう。

こういったところを見ると
・対面販売の生き残る道は顧客と資産運用についてゴールを決め、それに向かって運用資産の推薦をする。
・米国でもITバブル崩壊してから実際にこのビジネスモデルがワークするまでに10年近くかかっているので、日本の対面販売勢も長い時間がかかることを覚悟すべき。

ただし環境が違う部分として
・米国のリスクフリーレートは1.4%とかあるが、日本は国債金利がゼロなことを考えるとラップ資産経費はもう少し下げる必要性がある。
・DCの制度についてはもっと拡充が必要になりそうだ。米国家庭の資産運用はDCがベースになっているのだから。

こういう結論になるだろう。
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