村越誠の投資資本主義

グローバルな情報をもとに投資資産を積んでいく慎重派投資家

どういった中国企業がドル建債券を発行しているのか

中国企業ドル債の発行急減 元安やデフォルト懸念

闇雲に不安煽っていてもしょうがないので詳しく解説しようと思う。
特に専門家面してるくせに、実情知らずしてふわーっと語っている人とかちらほら見るのでやはり一度詳しく解説すべきだと思った。

直近でにわかに中国企業のドル債発行の急減は元安・デフォルト懸念が影響しているのではないかという話が俄かに出ているので、そもそも中国企業でドル債発行している企業はどんなのがいるか解説したい。
大きく分類していくと以下のとおりである。

・国営石油系
いわゆるシノペック・CNOOC・CNPCの財務がガチガチに固められている3社。これらは財務や利益状況を見るとまずデフォルトするとかそういう心配はほとんどない。

・4大銀行および中堅銀行、傘下リース会社
ICBCなどの中国金融セクターを牛耳る大手銀行も数多くドル建て債を発行している。
普通社債からTier2、AT1債などの劣後も出しており、直近中小銀行救済という足かせがあるものの、率先して不良債権処理を政府の援助のもと行っており、信用力としては高い位置を確保している。
中堅銀行では招商銀行などが挙げられ、こちらもちょっと微妙という感じはあるが、外部信用格付けはAを維持するなど、まだまだ余裕があるように見受けられる。
また銀行傘下のリース会社もかなり大規模にドル建て債を発行しており、こちらもいざとなれば銀行が知り拭いするだろうと期待が信用力をサポートしている。
リース系も今のところは財務的には大きな問題は起きていない。

・国営系不動産企業
中国の不動産企業と一口にいっても民間系と国営系があり、国営系はファンディングが厳しくなっているようにはあまり思えない。
チャイナオーバーシーズランドやバンケといったネームが代表格で、ここら辺の不動産販売状況を見るとあまり問題が起こっていないように思える。

・政府系機関
中国国家開発銀行や輸出入銀行などのなにがあっても中央政府がかばうでしょと思われる発行体。
実質ソブリンと同等と思われているし、そういう考えで問題ないだろう。

・政府直下のSOE
ここは信用力が高いところとそうでないところで結構差がある。
例えばチャイナグリッドやサザンパワーといった企業は財務も安定していて、収益基盤が全国配電ということもあり、補助金がなくても自力でちゃんと立っていられる強固さがある。
一方で国営化学会社・ミンメタル・一部大量にレバレッジがかかっている国営発電会社・売掛金が以上に多い国営建設会社などは財務を見ると無駄な海外M&Aをしまくった挙句、補助金なしだと自力で立ててない企業や、財務の減損が必要なのではと思われる企業もちらほら。
自力で立てるとしても少し心細いキャッシュフロー状況だったり財務内容だったりする。
政府直下のくせにソブリンから格付けが複数ノッチ下の企業が結構いる若干不健全なセクターだ。
ただ補助金を受けたり、健全国営企業と合併させたりなどしてごまかしながら存続させている例も見受けられる。

・民間系不動産企業
これは本当に裾野が広い上に健全な企業からドベまで各社の状況はピンキリであり、一概にひとくくりにしにくい。
一般的に中国のドル建て債が炎上していると言われている時は、大体このセクターが炎上している時だ。
確かに企業の中にはファンディングがアップアップになっていて沈没しかけているプレーヤーも見かけられる。
特に個人的に心配しているのはエバーグランデというハンガリー政府より金を借りている不動産企業であり、中国国内でもダントツの外貨建て債務を抱えている。
ここが飛ばれるとショックが走りかねないので、この企業だけは要注意したい。
ただ、今回はこの中国民間系不動産企業全員のドル建て社債が売られているかというと少し微妙で、売られているところと売られていないところの差が非常に大きくなっている。

・国営系アセットマネジメント会社
大量にドル建て社債を発行しているが、多分外部から見ても内部から見ても本当に大丈夫なのかどうか確信持てる人間は一人もいないように思われる。
中国では国家主導で不良債権を買い取って処理する国営系アセットマネジメント会社大手が4社おり、フアロン・チンダ・グレートウォール・オリエントアセットと呼ばれている。
ただ、この大手アセマネ会社の中身の多くが不動産関連だとか実は中国のドル建てハイイールド社債持っているんじゃないかと疑われており、国営系会社ということもありムーディーズやS&Pから投資適格格付けを付与されているが、投資家は相当疑っていて同格付け銘柄に比べてリスクプレミアムを要求されている。
特にド派手に資産を膨らましてきたフアロンという企業はトップが不正を働いていたということもあり本当に大丈夫なのかどうか皆不安視しており、中国の不動産市況が爆裂すると一気にここに信用不安が出てくるかもしれない。
一応いざという時政府援助があるだろうと期待されている。

・弱小地方政府LGFV
これは上記の民間系不動産企業と比べると非常に発行規模は小さいが、最近続々とデフォルトっぽい案件を耳にするので、ここも正直いうと気持ち悪い。
というよりドル建て債出しているけど、地方政府の情報なんて英語で出ているわけもなく、買うのはほとんどが中国人であり、外国人はさっぱり状況がわからないので基本的には手を出さないと思われる。
ここは北京などのトップティアの地方政府が出すLGFVは盤石だが、弱小地方政府が発行しているLGFVは足元でバタバタ信用力を落としている。
直近だと天津省のTEWOOというLGFVが既に実質的なデフォルトに陥っている。
ただし発行体数は多いものの、発行量自体はたいして大きくはなく、いざとなれば中央政府がカバーしきれるぐらいの金額のように感じる。

・中小銀行AT1債
なぜか中小銀行がAT1債を出しているが、これもまともな頭をした外国人はほとんど買っていないと思われており、ほとんどは中国人による投資と思われる。
何度も報道されているように中国の中小銀行は大量の不良債権を抱えていることが多く、直近大手銀が救済する代わりにAT1債については配当を止めるという手段に打って出ている銀行も出始めている。
直近のケースでいうと錦州銀行などだ。他の銀行についてもAT1債利払いが停止されるのではという懸念が大きい。
ただし、ここも発行体数・発行体金額ともにそんなに数が多くないうえ、既に利払い停止している銘柄も既に存在しており、新しくマーケットにインパクトを与えるかと言われると疑問だ。

・その他民間企業
ファーウェイ、ジーリー、サニーオプティカルなど比較的名の知れた民間企業があったりするが、ドル建て社債市場だとそこまですごく存在感があるわけではない。

というわけで中国のドル建て社債市場で不安感があるのはドベ不動産銘柄・アセマネ会社・ハイレバレッジSOE・地方政府LGFV・地方銀行AT1債らへんだろうと絞れる。
うち影響が甚大なのはやはり不動産絡みだと認識すればよいと思われ、特にエバーグランデが飛ぶかどうかを見ていれば十分だろう。
なお、本当にエバーグランデが飛んだ場合どうなるかはちょっと考えたくない。

デフォルトに片足突っ込んでしまっているジャパンディスプレイ

JDI、中国ファンドが支援見送り 再建案白紙に

かなり詰んでる感があるけど。

JDIが中国ファンドからの支援が打ち切られたということで、もうJDIのデフォルトは待ったなしなのではと市場は考え始めている。
個人的にもちょっと今のままだと再建は難しそうだなと感じる。
なぜそう思うのかを決算資料を交えながら説明しようと思う。

2019年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)
2020年3月期第1四半期決算短信〔日本基準〕(連結) 

まずPLから見るべき項目を見ていこう。
タイトルなし


製造業を見る上で最重要になるのが粗利益率(売上総利益/売上高)。
製造業における粗利益率は製品販売単価・原材料コスト・設備減価償却で決まるので短期的に改善させに行くのは難しい。
一般的にすぐコストカットできる広告費や人件費などは販売費および一般管理費扱いになるので、まず粗利益が十分にないと製造業はどうひねっても利益は出てこない。
粗利益率が改善させるためには
・製造物の製造単価引き上げ 
・設備稼働率を高めて一個あたり製造原価を引き下げる 
・設備投資の減損 
・投入原材料コストの削減 
この4つに絞られるが、JDIの業況を考えると現状いずれも行うことが難しい。
なので粗利益がまずマイナスになっている時点で企業の継続性に疑問が投げかけられる。

次に財務の中身を見ていこう。

タイトルなし

一応JDIの在庫回転期間は2カ月ぐらいに収まっていることから投げなければいけない在庫はあまりないように思える。
ただし、JDIの資金繰りはキャッシュフロー表を見るまでもなく厳しいことは財務諸表から見て取れて、売掛金に対して異常に大きい買掛金の状況を見ると、相当部材メーカーに対して頭を下げて決済を引き延ばしてもらっていると思われる。
しかも銀行も長期の借入金にもう応じてくれなくなっていて、ひたすら短期借入金をロールさせている状態なので、資金繰り担当者は毎期毎期の資金繰りを考えることで頭がいっぱいで、正常な設備投資案を考えることさえ難しい状況だろう。

前年度末締めている決算資料のキャッシュフローを見ても営業CFの段階で大幅マイナスになっていることから、この状態は普通に考えたら他社から出資を受け入れるしか選択肢はないだろう。

しかしJDIの大きな問題はおそらく設備稼働率の低さにあり、有機ELの開発が遅れている段階で果たして設備稼働率の改善なんてできる人がいるのだろうかと言われると非常に難しいものがある。
また開発の遅れを取り戻すにはまず大きな設備投資の減損を行い、それから多額の研究開発資金を投入を行わなければいけない。
でもデフォルトさせてからならもっとお得に買収できるじゃんと考えるプレイヤーがほとんどであるだろうから、今回結局中華勢から出資を断られれ、最後の頼みの綱であるアップルからも断られたらもうデフォルトするしか道は残っていないだろう。

CLOだけではリーマンショックのような崩壊は考えにくい

CLO商品の市場規模、金融危機前夜に匹敵=BIS報告

本当に金融ショック的なものが走るには要素が足りない。

ここもとずっとCLOが次の金融危機の引き金になる的な表現が続いているが、大きく違うところはやはりレバレッジだろう。
リーマンショックの時は様々な証券化商品やCDSを組み合わせて作ったCDOを組成、そしてそのCDO達を複数組み合わせてCDOを組成し、さらにそのCDOを組み合わせてCDOを組成するといった複数階建てのレバレッジがかかっていた。

しかもその過程の中で元々低格付けの原資産を分散して組み合わせているので、リスクは低くなっているので高い格付けを付与しちゃいましょうという間違いがムーディーズやS&Pで横行することになった。
(説明の通り組成したCDOからCDO組成していたりするので何もリスク分散できていなかったのだが)
極めつけは一度原資産から組成したCDOから何回もCDOを組成するため、原資産リスクの把握が難しく、これがサブプライムショックと加わってスパイラル的に信用不安が発生したこともサブプライムショックを大きくした原因になってしまった。

一方で今回のCLOについてはどうだろうか?
確かにCLO自体は企業のレバレッジドローンをいくつも組み合わせて組成したものだが、少なくとも過去のCDOのようにCLOから新しいCLOを組成する事態は横行はしていないようだ。
またそうした複数階建てになっていないことから原資産の状況についても逐次把握ができており、一つのCLOに組み入れられている原資産の企業ローンについて普通はアナリストが分析を行えているといった状況のようだ。
この違いからCDOとCLOの過去のデフォルト率状況を見比べるとその特性は大きく違うことがわかると思う。

また分析できている状況ということはいくらまで価格が低下したら買いと考えている人達もそれなりに存在していることを意味しているので、サブプライムショックのような一体いくらまで資産価格が下がるかわからないという事態に陥ることは少なそうだ。
また、大手銀行が保有しているのはAAぐらいのトランシェまでで、それ以下についてはヘッジファンドや委託運用などの金融システムに直接的には関係がないプレイヤーが多いことからA格ぐらいまでのトランシェ価格が大きく下落しない限りはそこまでシステミック的なことも起こり得なそうだと思う。
もちろん一部プレイヤーが保有しすぎて鯨化してしまい大損するという可能性は否定できないが、リスク根源がはっきりしていること・すでに金融当局の監視レーダーに入っていること・レバレッジがかかっていないことまで考慮すると、これだけで金融崩壊論を唱えることは難しいと思う。 

今までよくわかっていなかった後発医薬メーカーの株価不振がようやく理解できた

後発薬に中国依存リスク 日医工、原材料滞り供給停止

不得意なセクターなので見てなかったけどそういうことだったんですか。

ずっと日医工などの後発薬メーカーの株価がさっぱりだなとは思っていたが、不得意セクターということもあり特段調べず放置していたわけですが、この記事やツイッターなどのコメントを見て、あーそういうことねというのがやっと理解できた。

最大の問題は厚労省が設定する後発薬薬価が製造原価を割るレベルで低すぎるというところにある。
おそらくは国内メーカーからの原料調達ではこの厚労省の薬価では赤字になってしまうことから、安価な外国産原料調達を後発薬メーカー各社は進めていたと思われる。
しかし全員が同じことをやるため、過度に外国原料に依存する状態に陥ってしまい、いざそこが何かしらのトラブルで原料調達が止まると後発薬生産に大きな支障をきたすという事態が起こっているということだ。

<日医工の株価チャート>
ダウンロード (1)


日医工の株価チャートを見る限り、この問題自体はおそらく2016年頃あたりから認知されてきたと思われ、認知した人から順番に後発薬メーカーポジションを落としていったということが考えられる。加えて原料調達リスク分も株価ディスカウント要因になっているものと考えられる。
そりゃ意図的に国から利益率圧迫受けるような状況が続くようでは株価も2016年から半値になりますわなと納得。
単純にEPSだけでなく、PERも利益が伸びないことがわかってしまった日にはPER30倍なんて投資家が払うわけもなく、10倍がせいぜいだなということで足元でPERは利益が全く伸びないことが前提の水準まで下落している。

ただ、まったくそういった事情を知らない自分でさえこの問題について把握しているとなれば、厚労省も問題と考えて後発薬については薬価引き上げ改定について取り組む姿勢が出てくるかもしれない。
それが見えてくれば少しは後発薬メーカーの株価についてもPERの底上げが見られるのではなかろうか?
ただし、まだ厚労省はこの方針をひっくり返す見込みがないというのであれば、まだまだこの安い水準の株価は続き、後発薬メーカーの株価は万年割安で永遠のバリュー株という称号を得ることになるかもしれない。

そう考えると後発薬メーカーの株を買うなら、厚労省の政策変更を見てからでも十分間に合うのではないだろうかとも思うわけで。 

景気対策のために危険な賭けに打って出たインド政府

インド、景気浮揚へ205億ドル規模の法人税減税 財政悪化懸念も

万年経常赤字の国が外国人債券投資家を裏切って大丈夫なのだろうか?

ここでは何度も言及している通り、インドはノンバンク流動性危機によって景気が大きく減速している。
インド政府もそれ自体は気づいているのだが、安易にノンバンクを助けると政府負担がどれだけ増加するのかわからない状態になっていることに加えて、モラルハザードを助長する懸念、および今回のノンバンク流動性危機の原因がモディ政権の高額紙幣回収に端を発していることから野党からあら捜しを受けて政権支持率にダメージが出ることまで懸念される。
そのため政府はノンバンクに直接金をつっこむということはできず、銀行にノンバンクの資産を買い取らせる手法や、ノンバンクの調達に流動性支援を行うという方策を行っているが、今のところ効果が出ておらず、インド景気の落ち込みが継続している。

これにしびれを切らしたインド政府は、なんとここで法人税を30%から22%に引き下げることを発表した。
発表した当日は株価が5%上がるなど一種の祭りになった。

しかし個人的にはインド政府はかなり危険な賭けに打って出たという認識で、手放しに喜べるものではないと思っている。
もしこの減税策がタイ・韓国・台湾・中国などの経常黒字国で財政拡張余地が十分にある国であれば素直に経済にポジティブと反応してもよいだろう。
しかし、インドは経常赤字金額が大きいゆえに、財政赤字についても外国人債券投資家からかなりシビアな目で見られており、インド政府もそれに気遣って今年の財政予算については名目GDP3.3%ほどの赤字にとどめるという発表をした。
しかし今回の法人税減税によってこの赤字金額は4%になると試算される。
株価は上昇したがこの発表によってローカル国債金利はいずれの年限も15bps程度の上昇となっており、多くの外国人債券投資家は裏切られたという気持ちが素直に表明されていると思う。

最終的にこの法人税引き下げが功を奏すかどうかはインドルピーの為替変動にかかっているだろう。
発表当初は外国からの投資が活発化される期待からインドルピー高で推移した。
しかし上記で書いたように外国人債券投資家の裏切りに加えて、おそらく経常収支にも赤字圧力が働くことになるので、外国からの投資の活性化に失敗した場合にはインドルピー安懸念圧力が以前よりも増大して発生すると思われる。

多額の経常赤字新興国なので現地通貨安は純粋に経済にマイナスであり、これが法人税引き下げ効果を打ち消してしまう懸念がある。
なのでインドルピーが安くなっていったらこの景気刺激策は失敗に終わったと認識してよいと思うし、もう財政赤字がGDPの4%まで来てしまっていることを考えると、次に打てる景気刺激策は手段があまり残っていないように思われる。
それでも無理くり財政赤字を拡大させて景気刺激を打ってくるようであれば、それは2013年頃に言われていた「フラジャイル5」という不名誉な称号を再び得ることになるのではなかろうか 
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プロフィール

村越誠

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